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なんの加護もなく、いきなり異世界転移!  作者: 蘇我栄一郎
修練の日々
39/71

神降臨

「キリュウさん。少し長い話になりますが、聞いて欲しいことが有ります」


 ピリピリとした雰囲気が漂う執務室内で、コメカミを押さえていたブロリーさんの声が響いた。

 その声からは、先ほどの怒りは感じられない。

 しかし、不思議なほどに威圧感があった。


 俺は何を言われるのか予想出来なかったが、茶化して良いような雰囲気ではないということだけは分かったので、真剣な表情で頷いた。


 すると、ブロリーさんが静かな口調で語り始めた。

 話の内容は、彼の人生だった。

 そして、悲しい惨劇でもあった。

 それに、熱く煮えたぎるマグマのような激情を抱く復讐劇でもあった。


 長い長い話が終わる。

 ブロリーさんは、パーカーさんが淹れてくれた紅茶を一口飲むと、大きく息を吐いた。


「今回キリュウさんの命を狙った貴族は、ビーノ、イングル、ベルキ、ツイユの四家。その四家は、元は私の派閥でしたが、私を裏切りプライス伯爵に与した者達です。

 本当ならば、直ぐにでも捕らえたいところではあるのですが、如何せん証拠が有りませんので……」


「でしょうね。証拠もないのに問答無用で捕らえれば、まず間違いなくブロリーさんに非が有ると(のたま)うでしょう」


「はい……ですから、申し訳ないのですが、犯人の捕縛は諦めて貰うしかありません。キリュウさん達が捕らえた者を殺した暗殺者も、既に街を出たようですので……」


 せめて口封じをした暗殺者を捕らえられていれば、諦めなくても良かったかも知れない。

 しかし、それももうどうしようもないことだ。


(ただ、それは良いとして……)


 何故俺に過去の話を打ち明けたのかが問題だろう。

 俺を殺そうとした奴は、"証拠不十分で諦めてね“と言えば良いだけなのに、ブロリーさんの辛い過去の話などを庶民の俺に話す理由が分からん。

 俺が武術の達人、あるいは魔法の達人だとするなら理由も簡単に予想出来る。

 何故なら、復讐するのに心強い助っ人だと言えるからだ。

 しかし、俺は少し強いだけの子供であり、高ランク冒険者のミックやジャガー達とは隔絶した弱さである。

 そんな俺に話す理由は……何一つ存在しないと思える。


 俺が内心で疑問符を浮かべていると、パーカーさんがこの日初めて明るい表情を浮かべて話始めた。


「お館様は、キリュウ様が将来……確実に強くなるだろうと確信しているので御座います。斯く言う私も同意見です。

 そんなキリュウさんに、プライス伯爵と表だって争いになった時、力を貸して欲しいのです」


 穏やかな口調と表情を見ていると、とても冗談で言っているのではないと思わされた。


(将来強くなるかどうかは分からんが……)


 ブロリーさんの家臣であるサミュエルさんには魔法のスキルに関して沢山のことを学んだし、パーカーさんにだって親切にして貰った。

 無論、ブロリーさんにも色々と世話をして貰っているのだ。


 そんな俺が断る訳がない。

 それに、利権の為に人を毒殺するようなクズを倒す手助けなら、喜んでやりますとも!


「それじゃあ、その時の為に、もっともっと……今よりもずっっっっと強くなれるように努力しときます」


 俺が笑顔でそう告げると、ブロリーさんとパーカーさんは嬉しそうに笑ってくれた。

 そして、ブロリーさんが握手を求めてきたので、俺はブロリーさんの手を強く握った。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 俺はブロリーさんの館を出てから、妙に血がたぎるような感覚に襲われた。

 やはり、ブロリーさんの過去を聞いたせいなのだと思う。

 俺は別に正義感に溢れるような人間ではないが、あんな過去の話を聞いてしまえば力になりたいと思ってしまうというものだ。

 それで居てもたってもいられず、初心者用のダンジョンへとやって来ていた。


 今日も極寒の寒さであるが、この感覚のままに暴れまわろうと思う。


「まだ七階層以上には進んでなかったけど、この機会にダンジョンを踏破してやる!」


 そう叫ぶと、俺は全力全開でダンジョンを進んだ。

 途中に出会すモンスターは殲滅しつつ、無心で武器を振るい続ける。

 そうして七階層のボスを倒した後は、八階層に進む。


 モンスターは七階層と変わらないが、何故かモンスターが武器を持っており、剣や槍の他にも弓といった遠距離からの攻撃用の武器すら持っている。

 だが、それでも俺にとっては別段苦にもならない。

 魔法や棒手裏剣で弓を持つ奴を先に排除すると、近接用の武器を持つモンスターを殲滅する。


 この数ヶ月で、俺は格段に強くなっている……まぁ、ミックやジャガーに比べたら屁みたいなものだろうけどね。

 でも、それでも強くなっているのは間違いじゃなく、武器を持ち連携して立ち向かってくるモンスター達を容易く倒して行った。


 そして八階層のボス部屋では、弓を持ったホブコボルトとホブゴブリン二体、近接用の武器である剣を持った奴が四体ずつ現れた。

 しかしそんなモンスターでも、俺には訓練にしか感じられない程度であり、数分で戦闘は終わる。


 で、勿論次の階層である九階層に突入だ。

 寒さが酷いので、立ち止まっていると凍えてしまう。

 故に、休憩など取らずにボス部屋の扉を開け、階段を素早く降りていく。


 そしてこの階層で出現するハイゴブリンとハイコボルトの二種類を、二剣術のスキル上げの為の犠牲になって貰いながら、時折魔法を駆使して倒して進んだ。

 かなりモンスターの強さが強化されてきているのは実感したが、それでも脅威に感じるほどではない。

 先日に俺を殺そうとした殺し屋と比べれば、まるで赤子のようだ。


 そんな経験のお陰もあるのか、俺は緊張することもなくボス部屋へと辿り着く。

 ボスは勿論、この階層で出現するモンスターである。

 それ故、特にこれまでと変わったこともなく、二剣術で軽々と蹂躙した。


 そうして次は最終階層である。

 この初心者用のダンジョンでは、最も難易度の高い階層であり、出現するモンスターが死角から突然襲ってくることもあるのだそうだ。

 ちなみに、何故かボス部屋は存在しないらしい。


 ともあれ、気配察知の熟練度をある程度上げている俺からしたら、やはり温いと感じるレベルである。

 その証拠に、ハイコボルトやハイゴブリンが死角を突こうと抜き足差し足で近付いて来ているのが、手に取るように察知出来ている。

 無論、そんな輩は問答無用で槍の餌食になって貰った。


 そうやって、最早どちらが挑戦者か分からない感じで進んでいると、ボス部屋ではなく大理石で作られた部屋へと通じる扉を見つけた。


「知らぬうちに、俺も結構強くなってたんだなぁ」


 自分で自分の力に感動しつつ、俺は扉を開けた。

 扉の先は当然何もない。

 初めての踏破者ならば、水晶球が置いてあっただろうが、既に数千人……あるいは万に届くほどの人々に踏破されてあるし、当然水晶球も設置されてはいない。


 俺は地上へと転移出来ると聞いていた魔方陣の上に進む。

 そして部屋の中央で足を止めると………


「やぁ、こんにちは」


「っ!? な、な、何だチミは!?」


「そうです……私が変なオジサンです。

 って、なんでやねん!」


 突如現れた男は、俺にノリツッコミをして来たが、俺はそんなつもりで言った訳ではない。

 本気でビビって問い掛けた結果、チミって言っちゃっただけです。


「それは分かってるよ。君が此方に来てから、地球の……君の住んでいた国のことを学んで、ここはノリツッコミした方が良いのかな、と思って言っただけだしね」


「心が読めてるってことは……」


「そう、僕は神だよ。深淵の神、グリモワール」


「そのグリモワールさんは、俺に何かご用でも?」


 俺がそう尋ねると、深淵の神グリモワールはクスッと笑いながら一度だけ頷いた。


「君は強くなったと思ってるみたいだけど……いや、確かにこの世界に来た当初よりは強くなってる。でも、それでもまだまだ弱い。

 ……それに、君のステータス値の伸びは、非常に少ないんだ。それは才能云々ということではなく、魂が半分になっているのが原因だね」


「えぇ~……じゃあ、伸び代が低いってこと?」


「うん、端的に言うとそうだね。

 で、ここで本題なんだけど、僕がここに来た理由に繋がるんだ。……分かる?」


 爽やかな笑みで首を傾げるグリモワールさんは、俺に問い掛けつつも続けて口を開いた。


「先日、君は死にかけたよね?」


「あ~、そうですね。確かに死にかけました」


 脳裏に黒ずくめの男の姿が過り、少し身震いしながら答えると、再び爽やかな笑みを浮かべて大きく縦に首を振るグリモワールさん。


「そうそう、その男のことだよ。かなり危なかったよね。

 僕達神々は、偶発的に迷い混んだ君を見てるのが楽しいんだ。出来れば、ずっと君の人生を眺めていたい。

 だから、死んでもらっては困るんだよね」


 俺の人生は、神々の娯楽かよ!? って叫びたいところだが、以前に女神アナステアと出会った際にも言われているので、ここは素直に頷いた。

 すると、グリモワールさんは苦笑しながら"神々は暇なんだ。ごめんね“と謝れた。

 まぁ、別に良いけどね。人の家に勝手に入っちゃったのが俺だし。


「ただ、死なれては困ると言われても……」


「そうだよね。君だって全力で生きてるんだし、これ以上の努力が無理なのは理解してるよ。

 僕は、そんな君に加護とスキルを授ける為に来たんだ。死なないようにしてもらう為のスキルをね」


「……このダンジョンの初めての踏破者でもないのに、良いんですか?」


「うん。だって、そうしないと君のステータス値の伸びは本当に低いからしょうがないんだよ。

 どれくらい低いかと言うと、アナステアに貰ったステータスポイントUPのスキルで漸く平均を少し下回るくらいだから」


「そんなに低いんですか!?」


「うん、ビックリするくらい低いよ」


 ここにきて知った驚愕の事実!

 他の人と比べると、相当のハンデを背負っているようなものだな。

 でも、ここまでそれほど苦労しなかったような気がしないでもない。


 驚きつつも、少し怪訝な表情を浮かべる俺を見たグリモワールさんは、苦笑しながら口を開く。


「君が今まで苦労を感じなかったのは、それが普通だと思ってたからだよ。それと、慎重に行動してた結果だね」


「……そう言われると……冒険者が死んでるのを見てから、確かに慎重に動くようにしてました」


「うん、それがなかったら、君は八階層で死んでただろうね。

 まぁ、それはともかく、早速スキルと加護を授けるよ」


 言い切るやいなや、グリモワールさんは大きく両手を広げた。

 そしてその両手から、純白の光を放つ。

 俺はその強烈な光に思わず瞼を閉じ、次いで両手で顔を覆った。


 そうして暫くすると、"もう大丈夫だよ“という声に従って瞼を開いた。

 すると、グリモワールさんがニコニコしながらスキルと加護の解説を始めた。


「スキルは、魔力回復UPってやつだよ。普通魔力を回復させるなら寝るしかないんだ。だけど授けたスキルの効果で、これからはジッとしているだけで魔力が回復するから便利だと思うよ。

 それから加護の効果は、魔力の数値をプラス100にするやつだね。これで君の魔力の数値は、漸く平均的な魔法使いと同じになったってこと」


「は? その言い方だと……伸び代だけじゃなく、元々の数値も低いってことですか?!」


「いやいや、元々の数値は高い方だよ。

 ただし、魔力については圧倒的に低かったんだ。普通の魔法使いは、生まれた時には既に100はあるのが普通なんだよ。でも、君の場合はハイヒューマンなのに何故か低かったんだよね。

 多分、それも魂が半分になってるのが原因だと思う………詳しいことは僕でも分からない。何せ、君みたいに異世界の人間が迷い混んだことがないからね」


 何かどんどん驚愕の事実が明らかとなり、俺はドン引き……もといマジ泣きしてしまう。

 どうりで魔法のスキルを上げるのが大変な筈ですよ。

 俺は、そんなとんでもないハンデを背負っていたのか……。


 100以上も魔力があるのなら熟練度を上げるのも簡単だろうし、クソ不味いマナポーションを飲む必要もないんだろうね……普通の魔法使いは。

 俺は毎日飲んで頑張ってたのに、あの苦労もせずにヌクヌクと多い魔力で練習してる奴らが沢山いるのか………そいつらは、全員俺の敵だ!


「あはははは、あれは僕達神々でもビックリしたよ! 冗談で作ったのに、あんな不味い物を毎日飲みながら熟練度を上げる人間が現れるとは思わなかったんだ! もう皆ドン引きだったよ!」


 さっきまでは優しい神様だなぁ、とか思ってたけど、今は殺したいほど憎いです。

 今ならきっと、睨んだだけで人を殺せると思う。


 そう考えながらグリモワールさんを睨んでいると、笑いながらも手を左右に大きく振って"ごめんごめん“と謝ってきた。

 しかし、この怒りは鎮まりそうもない。

 それほどあの苦行はキツかったのだから当然だ。


「いやぁ、ごめんね。お詫びに、もう一つスキルを授けるから許してよ。

 って言うか、もう授けてるんだけどね」


「……そのスキルは、不味いマナポーションが美味しく感じるとか?」


「そうそう、その通り! って言ったら、本当に僕を攻撃しそうだから真面目に説明させてもらう。

 お詫びを込めて授けたのは、魔力ポイントUPってやつで、レベルが上昇すると同時に魔力の数値が1レベルごとに5ポイント上がるんだ。

 これで君のステータス値の伸び代は、平均と同じになる」


 おお、意外と良いスキルを貰えた!

 有り難う神様! 有り難うグリモワールさん!


「いえいえ、どういたしまして。

 それじゃあ、僕はこの辺で失礼するよ。この世界を目一杯楽しんでくれたまえ。バイバーイ!」


 グリモワールさんは、嬉しそうにニコニコしながら手を大きく振って消えていった。


(女神アナステアとは違って、太っ腹な神様だったな)


 俺が内心でそう呟いていると、魔方陣が点滅し始めた。

 それを見ながら、明日から更に頑張ろうと決意すると共に、打算が有ろうと俺に親切にしてくれたブロリーさんの為に絶対に強くなろうと強く思った。

感想で指摘して頂いたので、ここで少し詳しく説明させて貰います。


『タイトル詐欺じゃね?』ってことでしたが、実のところ主人公は、ステータスの伸びが平均の半分以下なんです。それ故、ステータスポイントUPのスキルでも焼け石に水、って感じだったんです。なので、全然チートじゃないと思います。

何の加護もなく、何のスキルの恩恵もない状態で平均の半分以下なので、女神アナステアに貰ったステータスポイントUPのスキルで、漸く平均を少し下回る位でした。

で、今回の魔力ポイントUPで、平均の伸び率になります。と言っても、それでも若干低い、という設定になってますけど。

そう言う訳で、加護とかスキルを貰って普通を少し下回る感じですので、チートから程遠いのではないかと思ってます。


こういう設定は、本来本編で理解して貰えるように私が書かなければならないのですが、悲しいかな自分の文才が無いもので………。

後書きで設定を伝えるような、こんなアホな行為を許して下さい。

本当にスイマセン。

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