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なんの加護もなく、いきなり異世界転移!  作者: 蘇我栄一郎
修練の日々
35/71

不穏な気配 その2

 俺の名前はドングリ、殺し屋だ………つうか、数日前から殺し屋になったばかりだ。

 手下には、実の兄弟であるセイとクラベがいる。


 まぁ、何処にでも居るチンピラだったんだが、とある町を彷徨いていた時に、貴族の旦那達に雇われることになった訳だ。

 で、その依頼が自分達の息子や娘を辱しめられたとかなんとかで、復讐してくれってことだった。


 俺達三兄弟はチンピラではあったが、卑怯なことはしないし、弱者を虐げたりしたこともない。硬派なチンピラだ。

 故に、成人を迎えていたとは言え、まだ結婚を許される年齢ではない十五歳未満の奴らを辱しめたというガキを、当然俺達三兄弟は許せる筈もなく、依頼を請けることにした。


 だが………


(復讐する相手が、六歳のガキとは聞いてねぇぞ)


 しかも、この数日間ずっと監視してきたが、大人に確りと挨拶をしたり、礼を言ったりしている良識ある子供だった。

 とても、雇い主の言う悪逆非道なガキという印象は受けない。


 どうも話が違うぞ、と思っていたのは俺だけでなく、二人の弟も同じだったようだ。

 事実、キリュウと呼ばれているガキを見る目は、侮蔑とは程遠い優しい目で見ていたからだ。それを見れば、弟達がどう考えているのかは明白だった。


「なぁ、兄貴。どう思う?」


「どう思うって聞かれてもな……正直、良い奴にしか見えねぇんだよなぁ」


「俺もそう思うぜ、兄貴」


「……だよなぁ」


 あんな良い奴を殺せる訳がねぇぞ。

 どうしたもんか……一度依頼主に本当のところを確認した方が無難な気がしてきたな。


 そんな風に俺が考えていると、弟二人がそれぞれに話し合っていた。


「多分、貴族の闇を見ちまったから、口封じの為に殺そうと考えたんじゃねぇかな?」


「あり得るな。で、もし俺達が雇い主に真実を尋ねてしまえば、俺ら以外の暗殺者を雇って、あのキリュウって子供を殺す可能性もあるんじゃねぇ?」


「あ~……それはアルアルだな。どうする?」


「う~ん………」


 確かにその可能性も有り得るな。

 迂闊に雇い主の下に戻るのは危険かも知れねぇ。


 ………何か良い手はないものか……。


「俺達で、あのキリュウってガキを保護して、雇い主のクズを始末するか?」


「おお、それ良いじゃん! それなら善良な子供を守れるし、被害が出る前にクズを消せる! 最高じゃん!」


 俺の弟達は天才かよ!? 頭良過ぎじゃねぇ!?

 確かに最高の案だと言える。


 俺が驚きつつもうんうんと小さく頷いていると、更に弟達は作戦を練っていく。


「でもさぁ、あの子供に何て言うんだ? 命狙われてるぞ、って言うのか?」


「いやいや、そんなことを聞かされたらトラウマになるかも知れないぞ。だから、悪い人が君に悪さをしないように助けに来たよ、って言えば良いんじゃね?」


「成る程な! それで、その後は?」


「その後は、子供を連れて貴族を殺しに行けば良いんじゃね?」


 いやいやいや、それは駄目だろ! 子供に人殺しの場面を見せる訳にはいかねぇよ!


 そう思い、俺が注意しようとすると、クラベが手を大きく左右に振って否定し始めた。


「駄目だろ! そんな残酷な現場を子供に見せるのは駄目だ! それこそトラウマになるよ!」


「あ、そっか……言われてみればそうだよな。じゃあ、どうする?」


「それは………兄貴、どうしたら良いと思う?」


 今まで黙って聞いていた俺に、クラベとセイの二人が眉を八の字にして尋ねてきた。

 しかし、俺は自慢じゃないが、弟達二人と比べると頭が良くないからな。

 当然、良い案など思い浮かばない。


 だから、取り敢えずの策を二人に伝える。


「良い作戦が浮かぶまでは、あのキリュウってガキを護衛しとこう。もしかしたら、俺達以外の殺し屋を雇っている可能性もあるからな」


「「確かに! 流石は兄貴だぜ!」」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 約2ヶ月前に、俺の息子は片方の睾丸を潰された。ただのガキに、だ。

 俺の息子だけじゃなく、イングル家の息子も片方の睾丸を潰されている。

 とても許せる所業ではない。

 故に、俺とイングル家、そしてベルキ家とツイユ家の四家で金を出し合い、ガキの暗殺の為にチンピラを雇った。

 なのに………


「何時まで時間を掛けるつもりなのだ! やはりチンピラを雇ったのが間違いだったのだ!」


「そうかも知れんな」


「まぁ、落ち着け」


 怒りを抑えることが出来ず、声を荒げながらワインを飲み干し、俺を宥める面々に視線を向ける。

 俺の目の前にはイングル、ベルキ、ツイユの三人が居り、全員が全員共に顔を顰めていた。

 それも当然だ。雇った三兄弟が役に立たないのだからな。


 しかし、ツイユは他の二人とは違い、幾分か表情が明るく見えた。

 確か、娘の鼻が折れ曲がっていた筈なのだが、どうして余裕そうにしていられるのだろうか?

 それを不思議に思い、俺は訝しげな視線をツイユに向け続けた。


 すると、ツイユが苦笑して口を開いた。


「ビーノ殿、貴殿は鋭いな。それとも、私の表情は読みやすいのだろうか?」


「両方だ! 説明しろ! 何故そんなに余裕そうにしていられる?!」


「ハハハ、そうカッカしなさんな。

 理由は単純明快。知り合いのつてで、優秀な暗殺者を二人貸して貰ったんだよ」


「「おお!」」


 優秀な暗殺者?

 それが本当なら、チンピラなどより余程頼りになるではないか!


「そうか! だから、そんなに余裕そうだったのだな!」


「理解して貰えたかな?」


「はっはっはっはっ! その暗殺者は、どれくらいで始末してくれるのだ?!」


「三日以内には報告してくれる手筈になっている」


 ふははは、三日とは早いではないか!

 俺の跡継ぎを痛め付けた報いを、精々苦しみながら後悔するといい! クソガキめ!!


 ツイユのお陰で、ワインを美味く感じることが出来るようになった俺達は、ガキの苦しむ姿をツマミに飲み続けた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 部下からの報告では、キリュウさんに離れた刺客は未だに動きを見せないようです。

 まるで、嵐の前の静けさと言いますか………三人組の暗殺者が、何を考えて監視を続けているのか分からず、実に不気味です。

 普通ならば、既に行動に移していても不思議ではないのですが………何かを待っているのでしょうか?


 執務室で一人、無数の書類の山を前にして唸っていると、扉をノックする音が耳に入りました。

 次いで、嫌味な爺の声も聞こえます。


「入ってください」


「失礼します。礼の暗殺者について調べた結果、出身地と名前が分かりました。それとその三人の性格も、ですね」


 朗報ですね。

 暗殺者の性格まで分かるなら、事前にどんな動きをするのか予想することが出来ますから。


「報告をお願いします」


「はい。先ずは名前からですが、長男のドングリ、次男のセイ、三男のクラベです。もうお分かりでしょうけど、三人は兄弟のようです。

 そして、出身地はムーアという町で、国有の領地の為に統治しているのは法衣貴族になります。

 性格は曲がったことが大嫌いで、愚直なほどに真っ直ぐな男達です」


 はぁ? 曲がったことが大嫌いで、愚直なほどに真っ直ぐな男達が何故暗殺者をしている?

 パーカーの報告を聞くと、とても暗殺者の類いとは思えないのですが。


「えぇ、お館様の疑問は分かります。そのアホ面を見れば明白ですね」


 ググ……気付かぬ内に、疑問が顔に出ていたようですね。

 しかし、それを言うに事欠いて、アホ面とは失礼千万ですよ。

 これでも私は、雇い主であると言うのに!


「そ、それで、その報告は事実なのですか?」


「えぇ、先ず間違いないでしょう。

 その証拠に、どうやら三兄弟はキリュウ様を監視していて、善人であると判断したらしく、自分達を雇った貴族が嘘を述べたと思っているようです。

 事実、部下が然り気無く三兄弟の会話を聞いていると、キリュウ様を護衛しようと決断したらしいのです」


「はぁ? ……それが本当なら……いえ、本当なのでしょうが、それならばその三兄弟も善人のようですね」


「はい、ムーアの町でも善人で有名だったようです。ただ、問題の解決法に暴力を用いるので、町の住民以外の者達にはチンピラと同列に思われていたらしいですが」


 意外な結果ですが、これで一件落着ですかね?

 ……いや、そうとも言えませんか。

 まだ問題の根本が有りますからね。

 そう、キリュウさんが叩きのめした貴族の子息である親が、このまま黙っているとは思えません。

 きっと別の暗殺者を雇うかも知れません。

 準男爵の身分で、優れた暗殺者を雇えるとは思えませんが、知り合いの言伝てなどの可能性も有ります。

 例えば、プライス伯爵からの直々の紹介ということも有り得ますからね。油断は禁物です。


 そんな風に内心で判断していると、パーカーが訳知り顔で口を開きました。


「実は、もう一つ報告するべきことが有ります。

 私の配下に、ゼノンと言う者が居るのですが、そのゼノンの知り合いがブリッツに来ているのを見たらしいのです」


 雲行きが怪しくなってきましたね。

 ゼノンという部下は知りませんが、パーカーの部下である人物の知り合いなど、きっとカタギの人間ではないのでしょう。


 それを証明するかのように、パーカーの表情が少し険しくなりました。


「私がゼノンの才能を見出だす以前に、一度()り合ったことがあるそうで、その時は死にかけたと言っていました。

 それから十年の月日が経過した今、その暗殺者の腕はかなりの物になっている可能性が有ります」


 やっぱりですか……やはり厄介ごとですか。

 はぁぁぁ、キリュウさんを庇えば敵に疑問に思われるでしょうが、ここは仕方ありませんね。手を貸すしかないでしょう。

 キリュウさんを失う可能性に比べたらマシだと思うしかありません。

 ですが、一応出来るだけ此方のことをバレないように、慎重に動くのが良策でしょう。


「パーカー、サミュエルさんにキリュウさんの護衛を任せると伝えてください」


「畏まりました」


「それから、念のためにプライス伯爵の手の者が居ないかを調べてください。まだキリュウさんの種族を知られる訳にはいきません」


「それでしたら、既に部下に命じて調査させています」


 嫌味な執事ですが、やはり優れた者ですね。

 私がこういう決断を下すと事前に判断しているのですから。


 なればこそ、もう少し私に優しくしてくれれば良いのですが……。


「それでは、これで失礼します。

 あ、それから、嫌味を言うのはお館様を想ってのことですので、止めるつもりはありませんよ」


「っ!?」


 わ、私の心を読んだかのように、的確にツッコミを入れてくるとは………恐ろしい、実に恐ろしいですね、パーカーは。

 実はパーカーは人間じゃないとか?

 は、ははは、それはないでしょう。

 え……ないですよね?

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