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なんの加護もなく、いきなり異世界転移!  作者: 蘇我栄一郎
修練の日々
34/71

不穏な気配

 エッズさんの鍛冶屋に通う生活は、一ヶ月という長い期間にもなった。

 その間の俺の生活スタイルは、午前中にエッズさんの手伝いをして午後からは離れの鍛冶場で試行錯誤の日々である。

 もう数百本は棒手裏剣を制作したと思うのだが、一度も成功したことがない。

 木工とは難易度が違うようだ。

 しかし、その努力も無駄では無かった。

 その証拠をお見せしよう。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


【 名 前 】 セイイチロウ=キリュウ

【 年 齢 】 6

【 種 族 】 ハイヒューマン

【 レベル 】 35


【 体 力 】 65

【 魔 力 】 80

【 攻撃力 】 65

【 防御力 】 65

【 俊敏性 】 65

ステータスポイント:残り0

【種族スキル】 ステータス操作

【 スキル 】 気配遮断3.4 気配察知3.4

        短剣術2.1  戦斧術2.1

        戦鎚術2.1  投擲術3.7

        二剣術2.1  剣術2.8

        槍術3.1   弓術3.6

        木工2.9   鍛冶1.2

【 魔 法 】 火魔法1.2 水魔法1.8

        土魔法1.5 風魔法1.8

【ダンジョン】 ステータスポイントUP

【 加 護 】 愛の女神


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 鍛冶のスキルを取得出来ましたー!!

 これはマジで嬉しいです! きっと棒手裏剣を完成させるのも間近だと思われる。

 で、鍛冶を毎日していた副次効果なのだが、魔法が軒並み上がってます。

 これは、鍛冶場が暑いので、風属性のスキルで風の鎧とかを纏って暑さを凌いだり、火傷をしたら水属性のスキルで回復したりしてたら熟練度が上昇した。

 攻撃特化の火属性のスキルを上回る結果です。


 まぁ、それはともかく、鍛冶のスキルは無事に取得出来、尚且つ熟練度もそこそこ上げているので、今日こそは完成させたいと思ってますよ。


「男には、ヤらねばならぬ時があるのだ! 引けぬ時があるのだ!」


 という訳で、今日も今日とて鍛冶です! やってやります!


 この一ヶ月という期間、目と鼻から水を流しつつ試行錯誤する俺を、ドン引きしながら生暖かい視線で見守ってくれたエッズさんに、俺の凄いところを見せ付けねばならない!

 これは至上命題である!

 俺にだってプライドくらいあるのだ。


「フンッ! フンッ! フンッ!」


 カンッ、カンッ、カンッ、とリズム良く叩きながら、鉄を鍛え上げていく。

 これは不純物を取り除いて、立派な鉄にする大事な作業である。

 とりわけ、俺の使っている鉄が粗悪な鉄であるのだから、この作業はホントに大事な作業になるのだ。


 冷えるまで叩いたら、もう一度真っ赤になるまで熱する。

 そして、再度叩く。

 その作業を三度も繰り返し、ほどよく不純物を取り除いたら、棒手裏剣の形状を形作っていく。

 細かく細かく金槌で叩き、鉄の塊でしかなかった物が十五センチほどの棒へと変貌した。

 ここまできたら、先端の方だけをもう一度真っ赤になるまで熱して、先を尖らせるようにして叩いていく。

 そうして、最後は焼き(●●)入れ(●●)と呼ばれる工程だ。

 これは、熱した鉄をぬるま湯や油に沈めて丈夫にすることを言うのだが、丁度良い温度でなければならない。

 故に、この温度は鍛冶職人の秘匿事項なので、流石にエッズさんでも教えてくれず、自分なりに探った結果、人肌が一番良いと判断した。


 俺は、そのぬるま湯を入れた箱に、棒手裏剣をゆっくりと沈める。

 ジューッという音と共に、水が急激に熱されて水蒸気になっていく。


「よし、これで完成だ!」


 今まで作った中で、最高の棒手裏剣と言っても過言ではない筈だ。

 自分で自分の作品を自画自賛するのは良くないかも知れないが、今はこの余韻に浸りたいと思う。


 仕上げたばかりの棒手裏剣を俺がヤりきった感満載で眺めていると、突如として背後から声を掛けられた。

 無論、その声の主はエッズさんである。


「今回のは良いんじゃねぇか? ほれ、試しに投げてみたらどうだ?」


「オッス! 今日のは砕けない筈ですよ!」


「がははは! そうだと良いな!」


 今まで散々失敗していたのを見ていたエッズさんからしたら、成功してくれなきゃ可哀想だとでも思っているのかも知れない。

 まぁ、それほど失敗続きだったのだからしょうがないのだが、今日のは自信がありますよ!


 俺は確信に近い感情を抱きながら、庭に出て薪と向かい合う。

 そして、作りたての棒手裏剣を掲げ、力加減など一切ない全力で投擲した。


 ビュッと風を切り裂く音と共に、棒手裏剣は銀色の線を宙に描きながら薪に突き刺さった。

 勿論、棒手裏剣は砕けていないし、欠けてもいない。

 正真正銘、見せ掛けだけではない見事な性能の棒手裏剣である。


「ヨッシャーーー!! 見ました?! 完璧でしょう?!」


 両手で力強くガッツポーズをする俺を、エッズさんは優しく微笑んで見ていた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 去年の終わり頃までにキリュウさんは何度かうちに来てましたが、最近は何故か鍛冶屋に入り浸っているという報告を部下から聞いています。

 まぁ、寒いのでダンジョンや街の外へ出るのは厳しいのでしょう。

 しかし、何故に鍛冶屋なのでしょうか?

 私には鍛冶屋の何が面白いのか分からないのですが、キリュウさんには面白いと思える部分があったのでしょうね……。


 まぁ、それはともく、現在のブリッツには不穏な影がちらつき始めています。

 その影がちらつき始めた原因が、将来的に私の大きな戦力になる可能性のあるキリュウさんだと言うのだから困った物ですよ。

 なんでも、初心者用のダンジョン内でキリュウさんが四名の冒険者を叩きのめしたそうなのです。

 聞き取り調査をした結果、成人を迎えたばかりの冒険者四名側が悪いのは明白でした。

 なので、普通ならそれで終わりであり、警備兵が出張る必要もないつまらない出来事です。

 しかし、ここで面倒な問題が一つ浮上しました。


 それは、(くだん)の冒険者四名が貴族だったことでした。

 しかも、私を裏切りプライス伯爵に鞍替えした者達の子息。


「……さて、どうしましょうかね」


 執務室で一人、私は誰に問い掛ける訳でもなく呟き、天井へと視線を向けました。

 無論、脳裏を過るのは現状の打開策です。

 まだキリュウさんは六歳であり、レベルも低く熟練度も同じく低い………とは言え、低ランクの冒険者からしたら強い方ですけどね。

 ですが、この状況でプライス伯爵とのガチンコでの紛争になれば最悪でしかありません。

 私共々敗れるのは間違いなく………いえ、もっと最悪の場合は、キリュウさんがハイヒューマンだとバレてしまったら、この機会に取り込まれる可能性もあるのです。

 しかし、パーカーの指示で動いていた部下からは、どうやら怪しい者達の狙いはキリュウさんを殺すことらしいので、それはないと考えても良いしょう。現状は、という注釈が付きますが。

 だが、キリュウさんを殺されるのは困ります。私の貴重な戦力となり得る者なので当然です。


「ならば、ブリッツに入り込んだその怪しい人物達を暗殺する?」


 いえいえ、それは悪手でしょうね。

 何故なら、私が指示したとバレた場合、何故ランク外の冒険者を庇うのかと疑問に思われてしまいます。

 もしそうなれば、きっとキリュウさんのことを調べ始めるでしょうね。

 それは最悪でしかない………故に、もっと良い打開策を考えねばなりません。


 しかし、この状況を打開する妙案など直ぐに浮かぶ筈もなく、私は途方に暮れてしまい唸るだけでした。

 と、その時、執務室の扉をノックする音と共に、意地悪そうな声が耳に入りました。

 勿論、私が雇っている者で意地悪そうな人物と言えば、それは一人しか居ません。


「パーカーですか……入ってくれて構いません」


「失礼します。

 お館様は、脳に栄養が足りない方ですので、一人で悩まず私にお聞きくだされば宜しいのです」


 このクソ……この爺は、本当に私の家臣だという自覚があるのでしょうか?

 何故雇い主の私がこれほどの屈辱を受けねばならいのでしょう?


 まぁ、これを口にすると、パーカーは一昼夜は愚痴を呟き出すだけなので言いませんが。


「それでは聞きますが………何か良い打開策はありませんか?」


「嘆かわしい。本当に家臣に聞いてどうするのです? 貴方はこのブリッツを始めとして、エルキンス領を統治する伯爵なのですぞ?

 にも関わらず、こんな簡単な案件ですら一人で決断出来ないとは………私の指導が悪かったのでしょうね。えぇ、そうでしょうとも。先代になんと詫びれば良いのか……」


 

 お前が聞けと言うから聞いたのだろう! そう叫びたいのですが、そうしたらますます嫌味が炸裂しますので、ここは黙るしかありません。

 しかし、何の抵抗もしないほど弱い私ではないのです。


「ググ………か、簡単な案件と言うのなら、その対処法を聞かせてください。さぞや素晴らしいのでしょう?」


 どう考えても簡単にはいかない案件です。

 ふふふ、これでパーカーの逃げ道は皆無!

 返答に詰まったその時、私の嫌味が炸裂しますよ!


 パーカーは一度溜め息を吐き、眼鏡をクイッと上げ口を開きます。


「されでは申し上げます。

 答えは実に簡単で、キリュウ様直々に対処して貰えば宜しいのです」


「はぁ?」


 あまりに馬鹿過ぎる答えだったので、思わず阿呆のような声を出してしまいました。


「い、意味が分からないのですが? キリュウさんが殺されてしまうのでは無意味なのですよ?」


「大丈夫です。念のために監視は継続させますが、助太刀する必要はないと思います」


「で、ですから………」


「お館様、私が愚考いたしますところ、キリュウ様に向けて出された刺客は、以前お館様を裏切ったビーノ、イングル、ベルキ、ツイユの四家の貴族だと思われます。その四家の子息がキリュウ様に叩きのめされたので間違いないでしょう」


「それぐらい分かりますよ。その刺客にキリュウさんが殺されたら………」


「その四家は、準男爵にすぎません。金もなく力もないのに、優れた刺客を雇える訳がないではありませんか。

 事実、門番のハインツが気付いたくらいのしょっぱい刺客ですよ? そんな刺客に、初心者用のダンジョンとは言え、七階層を自由気ままに闊歩するキリュウ様を殺せる筈がありません」


 言われてみれば……確かに……。

 素直に頷くのもムカつきますが、確かにパーカーの指摘ももっともで、あながち間違いないではないですね。


「ならば、此方の取る手段は……」


「はい、沈黙です。ただ黙って見守っていれば良いのですよ。そうすれば、キリュウ様が自身で始末してくれます。まぁ、殺すのか生け捕りにするのかは不明ですが……此方としては、生け捕りが好ましいですな。

 そうなれば、プライス伯爵の力を少しだけでも削げる結果になるでしょう。キリュウ様々ですね」


 現役時代のような不敵な笑みを浮かべるパーカーは、私に一礼すると執務室を出て行きました。


 はぁぁぁ………癒しが欲しい。

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