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なんの加護もなく、いきなり異世界転移!  作者: 蘇我栄一郎
冬の到来の前に、やらねばならぬこと
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初心者用の……… その2

 ダンジョンへと続く階段………って言うか、多分この階段自体がもうダンジョンの一部なんだと思うんだけど、その階段を降りきるとそこは俺のイメージ通りのダンジョンだった。

 それと言うのも、ゲームをしていた時に登場するダンジョンは全て洞窟型だったのだが、ここのダンジョンも同様に洞窟型なのだ。


 横幅十メートル、縦十メートルの通路がずっと続く迷宮型のダンジョン。

 これには燃えない筈が無い!

 俺は知らず知らず笑みを浮かべつつ、チラホラと見掛ける新人冒険者達と共に先へと進む。


 しかし、ずっと彼ら彼女らと共に移動していては獲物の取り合いとなることは必須な為、途中で人の姿が少ない方へと曲がる。

 多分、正解の道は既に周知されているからだろうが、新人冒険者達は全員が俺とは別の道へと進み、一人違う方へと進んだ俺を訝しげな表情で見ていた。


 そんな新人冒険者達の視線に気がつかぬ振りをして、俺はそのまま通路を先へと進んで行く。

 すると、またも別れ道が登場した。


「 右と左に別れているが………ここは左に進もう」


 最初の別れ道も左に進んだのだし、ここはもう一度………と言うか、常に左に進もうと思う。

 そうすれば、帰りたい時は道に迷う心配はせずに済むと思うのだ。


 そうして幾度も別れ道を左に選択して進む内、このダンジョンで初めてのモンスターに出会した。


「うむ、ゴブリンですな!」


 序盤の定番である存在のモンスターの登場に、ますますテンションを上げつつレイピアを構える。

 ゴブリンは背後を向けていて、俺には気付いていない。

 ならば、その絶好のチャンスを不意にすることも無いので、俺は足音を立てないように素早く移動しつつレイピアの間合いに入ると、ゴブリンの背後から心臓を目掛けて突きを放った。


「ギガ!?」


 心臓を貫かれたゴブリンは、驚愕した表情で俺へと視線を向けた。

 そして、数瞬後には目の前から消え去る。


 俺は剣術のスキルが成長していることを実感しつつ、ゴブリンが消えて残されたアイテムを拾い上げた。


「……なんざましょ?」


 試験管に入った謎の液体………色は真緑色をしており、少しドロッとしている。


 何故試験管? 何の液体?


 そんな疑問が浮かぶのだが、それは幾ら考えても分からない類いである。

 なので、俺は頭を左右に軽く振ると、試験管をウエストポーチの中にしまった。


 ハッサンに買い取りをして貰う際に尋ねれば教えてくれるだろう。

 俺はそんな心算を胸に、再び先へと進み始める。


 コツッコツッと足音を響かせながら一人寂しく進んで行くと、十人ほどの人の気配を察知すると同時に、広間のような場所へと出た。

 その広間には俺以外にも沢山の冒険者が存在していて、奥へと繋がる扉の前で列を作っている。


 うむ、ここには何か意味がある部屋なのだろう。

 それが何かは不明だが………。


 俺はその疑問を解消するべく、最後尾に位置する少年? あるいは青年? に、声を掛けた。


「ねぇねぇ、何で並んでるの?」


「ん? あぁ、あの扉の先はボス部屋になってるんだよ。……で、その部屋に入って扉を締めると、ボスが出現する仕組みになってるんだ。

 この列は、そのボスと戦う順番待ちだね」


「ボスって強い?」


「ここのダンジョンの一階層は、単独のゴブリンだったろ? でも、ボスは単独じゃなくて三体で行動するゴブリンらしいから、弱くは無いと思う。

 君は一人? 一人なら危ないと思うから止めといた方が無難だよ」


 滅茶苦茶親切な青年は、説明だけでなく俺の身を案じてくれるので、少し曖昧な笑みを浮かべて誤魔化す。

 勿論、教えてくれたことに対してのお礼も述べつつ。


 そうして暫く待つこと一時間。

 ワクワクを通り超して少し飽きて来た頃、漸く俺の順番が回って来た。


 俺は笑みを浮かべながら、扉のノブに手を………と、ここで後ろから襟首を唐突に掴まれた俺は、そのまま何者かに投げられた。


「痛っ!?」


 背中から地面に倒れた為、少し呼吸をし辛いことに不快感を抱きつつ、俺を投げ飛ばした人物へと視線を向けた。


 すると、意地悪そうな見た目の年頃の男女が二人ずつ、痛がる俺を笑いながら見ているのが確認出来た。

 その男女は、俺の視線………いや、俺の目つきが気に入らなかったようで、剣を抜くと上から目線で喋り出す。


「おい、その目つきは何だよ!」


「痛い思いをしたくなかったら消えろ!」


「マジでウザくない? ヤっちゃえば?」


「どうせボス部屋に入ったら、こんなチビは直ぐに死ぬんだし殺しても良くね?」


 何なんだよ、この馬鹿どもは?

 メッチャぶっ飛ばしたい………って言うか、ぶっ飛ばします!

 十二歳くらいの男女だが、関係なしにぶっ飛ばします!


 俺から見たら子供だが、そんなの気にしねぇ。今の俺も子供だし。


 俺は男女四人を睨み付けながら立ち上がると、レイピアを無言で抜いた。

 そして、直ぐに駆け出そうと足に力を入れたのだが、そこに利発そうな青年が割り込んで来た。


「何をしてるんだ、君達!」


「は? 何コイツ?」


「誰かの知り合いか?」


 生意気そうな男女は、利発そうな青年を見て顔を顰めながら仲間内で数度会話をする。

 そして、もう一度青年に視線を移すと睨みながら口を開いた。


「そいつが一人でボス部屋に入ろうとしていたから、俺達が止めてやってたんだよ。

 善意ってやつだな」


「そうそう、ガキ一人だと絶対に死ぬからな」


「「文句でも有るの?」」


 何が善意だよ!

 ますます腹が立ってきたな!


「だったら暴力を振るう必要は無い筈だ!

 それに、その抜いた剣は何だ?!」


 青年の的確なツッコミに、生意気な男女は舌打ちをするとまるで逃げるようにボス部屋へと入って行った。


 おい、行くなよ! 一発ぶん殴らせろ!


 そう言いたかったが、何故か俺以上に憤慨している青年の顔を見ると、知らず知らず怒りも薄らいでいき、直ぐに冷静になれた。

 まぁ、そうだよね。大人がガキに暴力振るうのは恥ですよ。

 うん、恥をかかずに済んで良かった。


 そんなことを考えている俺に、青年は憤慨したままの表情を浮かべながら視線を向け口を開く。


「何と醜い者達だ! 君は大丈夫かい?」


「問題無いよ、ありがとう。

 俺はキリュウ。君の名前は?」


「僕の名は、カルヴィン=アルニム=ウォーレン。 アルニム領を統治するグラドスの息子で、五男になる」


「へぇ、貴族なんだ」


「もう廃嫡した身だから、貴族ではあっても明確な貴族とは言えない微妙立ち位置だけどね」


 茶髪青目のカルヴィンは、少しだけ溜め息を吐いてそう述べた。

 そんなカルヴィンの姿を見てると、このダンジョンに入る前に出会った騎士二人の姿を思い出し、またこの世界は世知辛いものだという考えが浮かんでしまう。


 まぁ、それでも貴族の家に産まれ育ったのなら、庶民よりも高度な教育を受けているだろうし、恵まれているのは間違いないだろう。

 そう考えれば、成人を迎えた後の生活は比較すると楽な筈である。

 計算などが出来るし、漢字も学んでいるだろうから、色々な職種で重宝される人材になれる筈だ。


 うむ、カルヴィンよ………頑張るのだぞ!


 少し哀愁を漂わせるカルヴィンに、俺は内心で応援の言葉を掛けた。

 口に出せよ、と思うだろうが、六歳の俺に言われるまでもないだろうから口にはしない。

 これも社交術の一つである。


「まぁ、それはそうと、キリュウは見たところ成人前じゃないのかい?」


「おう、六歳のピッチピチの男だぜ!」


「ピ………う、うん、そうだね。

 ……一人でダンジョンに入るのは危険だから、引き返した方が良いと思うよ」


 カルヴィンは本当に優しい奴だな。

 だが、俺には引けない理由があるのだよ!

 そう、絶対に引けない理由が!


「俺には親も居ないし、家も無い。だから、冬を越す為に資金を溜めなきゃならないんだよ」


 俺が軽い口調でそう告げると、カルヴィンは申し訳なさそうな表情を浮かべた。

 そして、そのままの表情で口を開く。


「すまない、考えなしの物言いだった。キリュウが一人でダンジョンに入っている現状を、少しでも考えれば分かったことなのに」


「若者よ、気にしなさんな!」


「若者って………キリュウの方が若者だろう」


 若干半眼で俺を見つめるカルヴィンは、少し呆れているように見える。

 うむ、気に病んでいたようだから言った言葉だったんだけど、上手くいったようだ。


「それよりさっきの馬鹿どもは、もうボス戦は終わったかな?」


「え、あぁ、そうだね。戦闘音が聞こえないし、多分ボスを倒して先に進んだんだと思う」


「ならば行かせて貰おう! 我の力をゴブリンに思い知らせてくれるわ! グワハハハ!

 若者よ、また会おうではないか! それまで、さらばじゃ!」


 魔王っぽい口調で告げつつ扉のノブに手を掛けると、一気に押し開く。

 そして、俺が中へと入ると直ぐに扉が閉まる音がボス部屋に響き渡った。


 その音を合図に、部屋の中央にゴブリン三体が地面から生えるように出現する。

 それを見て俺は、レイピアを構えようとするのだったが、ボス部屋に存在する自分とゴブリン三体以外の気配に気が付き、困惑しながら視線を横に移した。


「何でカルヴィンも一緒に入ってるの?」


「六歳の子供一人で戦うなど無謀だ! 助太刀させて貰う!」


 えぇぇ………お気持ちは有難いんですけど、俺は一人で大丈夫ですので結構ですよ?

 キリッとした顔つきで述べるカルヴィンに、俺はそう言いたかった。


 だが、彼の純粋な優しさを簡単に払うのは憚れたので、仕方なく共闘を受け入れるしかなかった…………と言うか、もうボス戦は始まってるしね。

 どうしようもないっす。

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