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なんの加護もなく、いきなり異世界転移!  作者: 蘇我栄一郎
サバイバル
2/71

情報収集は大事だよ

 目が覚めると木の上に!? って、それは自分で登ったんだった。

 ビビって危うく落ちるとこだったわ。


 そんな感じで目覚めた後、昨日巨人に追われてアホみたいに走ったこともあり、かなりの空腹を感じた。

 その為、自分が登っていた木になっていたリンゴっぽい果実を採取してみた。


 大きさは、成人男性の顔くらいはある。

 正直言うと、こんな謎の実を食べたくはないのだが、他に食べる物を持っている訳でも無いし、仕方なく食べることにした。


 恐る恐る果実に口をつけ、一気に噛み……皮が厚過ぎ! 全然噛めないんですけど! ワロタ!


「こりゃナイフでもないと駄目だな。

 ……いや、樹上十五メートルから落とせば割れるかも?」


 ならば試してみようではないか。

 

 ヒュッと落ちていくリンゴっぽい果実は、地面に落ちて大きくバウンドした。

 そして、その頑丈な皮を誇るかの様に赤々とした皮をキラリと光らせた。


 ……つまり、リンゴは無傷だということだ。


「こっちは腹が減ってるんだよ! 腹立つな、あいつ!」


 仕方ないので、木を降りてから手ごろな石で殴りまくった。

 そうして、十分程して漸く皮が一部分だけ剥けたのだが、驚くべきことに皮の厚さが五センチもあった。


 これは歯じゃどうしようも無いわ………つうか、もう何かワロエナイ。

 マジで疲れたんだけど……。


 ま、まぁ良い。皮は剥けたのだから、その実の味を確かめようではないか。


「うっま! 美味いな、これ!」


 喉も渇いていたせいか、滅茶苦茶美味く感じる。

 腹も満腹になるし、喉も潤せる。これは最高の食材じゃないっすか!


 ただし、メッチャ余る……と言うか丸々余る。

 まぁ、五歳児とは思えない身体能力を持っているとは言え、流石に胃袋は普通なのだから当然だ。

 ……いや、多少は普通の五歳児よりも食べる量は多いような気もするが……それは子供を持ったことが無い為、正確なところは分からない。


 ともあれ、一応は満腹になったし、これからどうしようか……。

 ここはやはり、この真っ裸を改善するのが先決かな?


 そう、言ってなかったが、俺は裸なのだ。


 現代人の俺からしたら、裸で森を彷徨くのは憚られる。

 と言う訳で、その辺に落ちている葉っぱと蔓で簡単に大事な所を隠す。


 昔見たバラエティー番組に出ていた葉っぱ隊だな、これじゃ。

 だが、他にどうしようもないのだからしょうがない。


 まるで原始人のようで情けないのだが、少しは羞恥心を誤魔化したと言った所だ。

 そんな俺が次にやるべきことは?


 やっぱりこの場所の特定ということになる………それと、体が五歳児になった理由の特定だろう。

 だが、これは特定するのが困難だと思われる。

 現状では、多分ゲームの世界に入ったのではなかろうかと考えているのだが………まぁ、馬鹿な推論だと自分でも思うのだが、ゴブリンに似た化け物が存在する地域など地球には無かったのだから、当たらずとも遠からず、と言った所だろう。


「……ゲームの世界、ねぇ……」


 もしまた巨人に追われたとして、殺された場合は復活出来たりするのだろうか?

 ここがゲームの世界ならば、その可能性も有り得ると思える。

 が、それを試す気にはなれない。最悪の場合、本当に死んでしまうかもしれないのだから当然だ。


 ……駄目だな。色々考えてみても、あくまで出た答えは可能性の一つというだけであり、明確な正解ではないのだから。

 ならば、もういっそのこと現状を楽しむべきだろう。


 こんな非現実的な状況に陥った人間など俺以外に存在しないだろうし、そんなある意味幸運な状況に居るのだから、楽しまなきゃ損である。


「……ただ、何を楽しめば良いのだろうか?」


 この世界がゲームと仮定した場合、やはりレベル上げ? でも、レベルなんて存在するのか不明だし、それにステータスが見れないのだから尚更だ。

 ならば………って言うか、先ずは人に会いたいな。


 この葉っぱ隊という情けない状態を改善したい! したいったらしたい!


 良し! それじゃあ、ゴブリン擬きが居た方向とは逆に進むことにして、人が住んでいる街などを目指そう!


 気持ちも新たに、俺は謎の森を進み始めた。

 深い森というのに、俺は意外なほどにスムーズに歩みを進めている。

 巨大な倒木もなんのその、巨大な岩もなんのその。


 そんな感じで進むこと三時間。

 静かだった森の中で、突然叫び声が響き渡った。

 俺はその叫び声に反応して、思わず情けない悲鳴を上げてしまう。

 それが少し恥ずかしくて、周囲に視線を向けて誰も聞いてないのを確認したのだが、自分の姿が葉っぱ隊だったのを思い出して、それ以前の問題だろうと思い直した。


(そうだよな。原始人みたいな格好しといて、今さら悲鳴を上げたくらい何だって話だ)


 まぁ、それは置いておいて。さっきの叫び声は何だろう?

 位置的には、自分の進む先から聞こえたような気がする。

 このまま進んでも大丈夫だとは思えないが、ちょっとした好奇心が俺の理性を揺さぶり、俺の理性はあえなく敗北した。


 と言う訳で、恐る恐る抜き足差し足で進んで行くと、何故かウエストポーチが地面に捨てられているのが目に入った。

 俺はそれを拾い上げると同時に、見てはいけない物を見て思わず顔を顰めてしまう。


「……嘘だろ……あれって、人の指じゃないか?」


 ウエストポーチから五メートルほど離れた場所に、ポツンと人の指が落ちている。

 その指は、サラリーマンのような指とは違って職人の指のようにゴツい。


 俺はそれを呆然と見つめていたのだが、いきなりドスンドスンと大きな地響きが聞こえて怖くなり、近くに生えている大きな木に一心不乱に登った。

 そして登りきると、下の方へと視線を向けて絶句した。


「………あれこそまさに巨人やん」


 全長六メートルはあるだろうと思われる青い肌をした巨人が、人の下半身を食べながら歩いている。

 昨日見た全長二メートルのゴブリン擬きとは隔絶した体躯の巨人は、そのまま此方に気付くことはなく歩き去って行った。


 それをただただ呆然と見送った後、自身の体に異常を感じてハッとしたように下半身に目を向けると、何時の間にか膝を擦りむいていたらしく、赤い血が流れてズキズキと痛みを主張してきていた。


 だが、そんな痛みより何より、さっきの巨人は何なのかという恐怖が大きく、それを考えると直ぐに痛みも感じなくなった。

 それほどのインパクトが有ったのだ、さっきの巨人には。


「……俺って、無事に人が居る場所まで辿り着くことが出来るのだろうか……?」


 ぶっちゃけ、自信が無い。

 数刻前までは、このゲームと思わしき世界を楽しもうとか考えていたが、そんな考えも吹っ飛んだよ。

 あの巨人を見れば誰でもそうなるだろう。


 だが少し時間が経ってくると、だんだん頭が冷静になり、こんな化け物が存在する場所でも人が確かに居るのだと気付いた。

 右手に持つウエストポーチがその証拠だ。

 ……それに、青い巨人に食べられた人も同じくその証拠だと言える。


 ならば、この場所で死ぬことが無いように立ち回ることが出来れば、(いず)れは人に出会えるかも知れない。

 可能性は低いだろうが、ゼロではない筈だ。

 そう思うと少しは勇気が出てきたが、出来れば武器が欲しい所である。


 拳銃、あるいはバズーカとか………いや、使い方を知らないのだから、持っていたとしても満足に使えないのだけど。

 だけど保険的な意味で、有れば安心するのだが。


 ま、まぁ無いものねだりしても仕方がないし、取り敢えずはウエストポーチの中身でも確認しよう。


「……ん? どうなってんだ?

 ……中身が見えないんだけど……ちゅうか、ポーチの中が真っ暗なんだけど、これは……?」


 ウエストポーチの大きさは、縦三十センチ、横二十センチほどだ。

 普通なら中身が空の場合、中を覗いたら底が見える筈。しかし、何故かポーチの底は見えない。まるで底が無いかのようだ。


 俺はその不気味なポーチの中へと、ゆっくり手を入れた。

 すると不思議なことに、肘までスルスルとポーチの中に入って行った。


 それにビックリして一度手を抜き、恐る恐るもう一度手を入れる。

 そして指に何かが触れるのを感じて、それを掴むと一気に引っこ抜いた。


「これは……ナイフか?」


 取り出したのは革の柄に納められた刃渡り三十センチほどのナイフだった。

 どう考えても可笑しいだろ! どうなってんだよ、このポーチは?!


 まるで四次元ポケットだ。

 俺は出したばかりのナイフを下に置き、更にポーチから次々に出していく。

 デザインが古いシャツが五着に、皮のズボンが五着。そして、肌触りの悪いトランクスのような下着が五着出てきた。


 はっきり言って、このポーチの何処にこんな量が入る余地が有るのだとツッコミたい。非常にツッコミたい!

 だが服関係の後に本が五冊出てきたので、この憤りも抑えてやろうではないか。


 何故か上から目線になっているが、これはこのポーチの理不尽さのせいである。通常の俺は、冷静と情熱の間に居るような男であり、今のように取り乱したりすることは無いと言っておこう。


 まぁ、それは置いておいて、風で服などが飛ばされないようにポーチの中に戻すと、俺は本を手に取った。


「タイトルは、モンスター解体全書? なんだこれ?

 モンスターってのは、さっきの巨人や昨日見たゴブリン擬きのことかな? あれを解体してどうするんだよ、まさか食べるのか?」


 様々な疑問が浮かぶが、取り敢えずこの本は後回しにして、次の本を手に取る。


「超一流冒険者に成りたい君へ………変なタイトル。

 って言うか、やっぱりゲームみたいだな。冒険者とかって、RPGの基本じゃん」


 やはりゲームの世界なのだろうか?

 他の本は、魔法全書ってのと英雄伝と書いてある本、そしてスキル全書ってやつだった。


 ますますゲームっぽい感じがしてくる。

 って言うか、文字が日本語で書かれているせいでファンタジー要素が皆無だな、これじゃ。

 いや、日本語じゃなかったら、それはそれで困るのだが、やはりゲームっぽくするのなら日本語じゃ駄目だろ。

 しかも、英雄伝というタイトルの本の中身を少しだけ見てみたのだが、平仮名が多用してあるせいで非常に読みにくい。

 もう少し漢字を使えと言いたくなるよ。


「まぁ、あの巨人を見て下に降りる気は無くなったし、今日はこの本を見て情報収集しよう。

 名も知らぬ人よ、お悔やみ申し上げます。そして、このポーチの中身を俺が使うことを許して下さい」


 ちょっと、と言うかかなり最低の行為だが、この四次元ポーチと中身は俺が使わせて貰おう。

 死んだ人は使えないし、良いよね?

 つうか、俺ってこんな酷い人間だったか?

 ……いや、この非常時なんだから仕方ないか。

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