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なんの加護もなく、いきなり異世界転移!  作者: 蘇我栄一郎
冬の到来の前に、やらねばならぬこと
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伯爵 その2

 部屋の隅から現れたサミュエルと呼ばれた男は、無表情にブロリーさんの横に座った。

 そして、サミュエルの目の前にパーカーさんが淹れたての紅茶を静かに置く。


 サミュエルの外見は、このエルドラドに来てから初めて見る黒髪黒目の男性で、服も全て黒を基調としており、どことなく暗いイメージを漂わせている。

 まるで暗殺者のようだ。


 そのサミュエルは、無言で紅茶を一口含むと、小さく"美味い“と呟いた。


 俺はそんなサミュエルを、少しだけ警戒しながら見つめる。

 すると、俺の警戒心を察してか、ブロリーさんが微笑みながら口を開いた。


「このサミュエルが先程言ったお抱え魔法使いで、非常に優秀な者になります。

 何か魔法のことで質問が有れば、何でも聞くと良いですよ」


 ディーンに聞いたのだが、普通はスキルのことなどは聞かれても答えない方が良いと言われたし、スキル取得の為のコツも秘密にしとけと言われた。

 何故なら、それは自分が努力した結果の成果であるし、それをホイホイと教えていれば良からぬ人が集まる可能性があるからだ。

 それに、どうしても教えて貰いたければ大金を払って教えて貰うのが普通だそうで、タダで教えるのは馬鹿以外居ないらしい。

 まぁ、一般的に誰でも知っているようなことなら話は変わるが……。

 ちなみに、スキル取得などのコツを教えてくれるのは、取得したいスキルに関係のある道場などがあるので、そういった所にお金を払ったら教えてくれるらしい。


 とまぁ、それほどスキル取得やスキルについての使用感などは、かなり神経質なほどに秘匿されていると言うことだ。

 なのに、それを簡単に教えてくれるとは………ぶっちゃけ、美人局的な何かじゃないのかと疑ってしまう。

 けど、ニコニコと笑顔を浮かべるブロリーさんからは、そんな怪しい雰囲気は感じないし……正直言うと、聞けるなら聞きたくもあるが……。


 俺が聞くべきか聞かぬべきかを迷っていると、サミュエルさんがニヤリと笑いながら口を開いた。


「坊主、心配すんな。これは御館様が本気で坊主を雇いたいと考えているから教えるってだけだ。

 実際、雇う時に坊主が強かった方が、此方としても都合が良いしな」


 俺の内心の不安を察していたらしく、物の見事に疑問に思っていたことを指摘されて、少しだけ動揺してしまう。


 ぬぬぬ、なかなかの遣り手ですな!


 警戒していたのがバレているのなら、もう開き直って聞いてしまっても構わないのでは?

 だって折角教えてくれるって言ってるんだしね。

 うん、開き直ってズバズバ聞きます!


「それじゃあ、容赦なく聞かせて貰いまっせ! あ、口調も普通通りで良いよね? 面倒臭いし」


「くくく、あぁ、俺は気にしねぇよ。御館様も構わないでしょう?」


「ええ、勿論です」


 サミュエルさんは悪役っぽく笑い、ブロリーさんは爽やかに笑って許してくれたが、俺はサミュエルさんにだけのつもりで言ったんですけど……。

 流石に、貴族のブロリーさんには敬語で話しますよ? 不敬罪で処刑とか絶対に嫌なんで、そこは当然です。


 まぁ、良いか。ブロリーさんも許可してくれたし、問題にはならないだろう。


「先ず、魔法のスキルの取得方法について教えて欲しいんだけど……魔法全書って本には、かなり曖昧にしか書いてなかったんで分からないことが沢山あるんだよね」


「はぁ? 坊主、そのタイトルの本は、もう誰も読まなくなったやつだぞ」


 おうふ……そうだったのか。

 しかし、それならば納得出来る。

 何せ、内なるエネルギーの訓練が魔法のスキル取得に必要とか書いてあったしね。

 ディーンに魔法剣の訓練だと言われた時に、薄々は気付いていたよ。


 でも、はっきり言われるとショックだな。

 十ヶ月の訓練は無駄だったと言うのが明確になった瞬間だよね……超悲しい。


「そ、そうなんだ。

 まぁ、それは置いておいて、魔法のスキルである属性の種類ってのは何種類なの?」


「基本が、火、水、土、風、の四属性だ。応用のスキルが、氷結、雷電、爆燼(ばくじん)、の三属性になる。

 ちなみに、基本の四属性は魔法使いならば誰でも取得出来るが、応用のスキルは才能がないと取得不能だ。

 そして、氷結なら火と水と風の三つのスキルを、熟練度5まで上げなければ取得出来ない。雷電なら水と土と風のスキルを、熟練度5までだ。最後の爆燼(ばくじん)なら火と土と風の三つのスキルを、前の二つと同様に熟練度5まで上げれば良い」


 サミュエルさんは、また無表情になるとスラスラと分かりやすく教えてくれた。


 応用のスキルとか有るなんて初耳だなぁ、そう内心で驚きつつ、俺は更に突っ込んだことを尋ねる。


「……一つ一つの属性の特徴は?」


「ほう、良い質問だな」


「どもども。

 実はずっと気になってたんだよね。火属性が攻撃ってのは分かるんだけど、水とかって攻撃に向かないでしょ?」


「あぁ、その通りだ。

 簡単に説明すると、火属性は最も攻撃に適していて、水属性は回復に適している。風属性は最も防御に適していて、土属性は攻撃と防御の中間って感じだ。

 まぁ、これは基本の属性のみでの話だがな」


「じゃあ、応用も入れるとどうなるの?」


 俺がもっと深い所まで尋ねると、サミュエルさんは顎に手を当てて少し考えるような仕草を見せた。

 そして、暫くすると口を開いた。


「……爆燼が最も攻撃に適している。雷電もそうだと言えるが、此方は最速の魔法で、威力なら爆燼だろう。

 氷結は土属性の上位互換って感じだと思えば良い」


 今日は狩りで精神をゴリゴリ削られたけど、魔法のことでかなり知識を深められたから、結果はプラマイゼロ………いや、完全にプラスだな。


 まぁ、それは兎も角、他に聞いておくことは有るだろうか?

 こんな都合の良いことはそうそう無いと断言出来るし、聞けることは全部聞いておきたい。

 ……でも、焦れば焦るほど思いつかない。


 俺が質問するのを止めて暫く考え込んでいると、今まで黙っていたブロリーさんが俺に声を掛けてきた。


「どうです? 聞きたいことは聞けましたか?」


「え、ええ。勉強になりました」


「他に聞きたいことが出来たら、何時でも訪ねてくれて構いませんよ」


「良いんですか?」


「ええ、勿論ですよ」


 ブロリーさんの提案が俺には都合良すぎる気もするが、有難いのは事実なので甘えることにしようかな。


 そう考えていると、パーカーさんが眼鏡をクイッと上げるのが見えた。

 あれはまた嫌味を言おうとしているのではなかろうか?

 事実、今まで嫌味を言う時はかならず眼鏡を中指で上げていたので、多分間違いないと思う。


 その証拠に………


「キリュウ様、御館様は非常に暇なお人なので、本当に何時でも訪ねてくれて構いません。

 何せ、仕事は家臣に任せっきりですので」


「グッ……私も毎日頑張っていると思いますが?」


「御館様、今のは執事ジョークという物です。

 キリュウ様が気を遣わず気軽に来れるように申し上げただけですのに………それを本気にするとは……実に嘆かわしい。

 もう少しだけで良いので、心にゆとりを持つような大きな人間になって欲しいものです」


 あえてブロリーさんに嫌味を言う隙を出させるという高度な駆け引きを見せつつ、パーカーさんは再びハンカチを取り出し流れてもいない涙を拭き取った。


 ブロリーさんは"ヤられた!“という表情で、一瞬だけ顔を顰めるものの、直ぐに爽やかな表情へと変えて口を開く。


「いえいえ、本当は気付いていましたよ?」


 爽やかにそう述べているが、膝の上に乗せられている手は震えており、怒りを我慢しているのが明らかだ。


 そんなブロリーさんに、パーカーさんが留めとばかりに天井を眺めて芝居がかったように呟く。


「先代の当主様は寛大な方だったと言うのに、息子のブロリー様は直ぐにお怒りになる。

 私の指導が悪かったのてしょうか? ええ、そうでしょう、そうなのでしょう。私が悪かったのですよ。

 先代に何と詫びればお許しになってくれるのでしょうか?」


「ググッ……い、いえいえ、パーカーの指導のお陰で、私も一端の貴族となれたと思っています。

 パーカーには感謝してもしたりませんよ」


「ほう、やはりそうでしたか?

 いやはや、私の執事としての腕は実に高かったのですね。自惚れでは無かったと気付けて嬉しく思うかぎりです」


「ングッ……は、ははは」


 もう駄目………面白過ぎる。

 俺の腹筋は限界ギリギリです。


 そんな俺とは反対に、サミュエルさんは慣れているのか余裕そうに紅茶を飲んでいた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 絶滅した筈のハイヒューマン。

 その子供であるキリュウさんが屋敷をあとにした直後、私は家臣の一人であるサミュエルに尋ねました。


「キリュウさんを見てどう思いました? 貴方の正直な感想を聞かせて下さい」


 サミュエルは、さっきまで居たキリュウさんを思い返すように目を瞑った後、ゆっくりと語り始めました。


「……そうですね……。

 おそらく、気配察知のスキル……その熟練度は3は有るでしょうね。俺が気配遮断のスキルで、熟練度3未満の者なら気づかない程度に気配を消していましたが、坊主は俺の正確な位置は分からなくとも俺が室内に居たのは気付いていたようでしたので、間違いないと思います。

 それと、あの質問内容……あれには驚きました。六歳の子供が尋ねる内容ではありませんでしたし、成人した者……いや、そこそこの魔法使いでも理解しようとせずに感覚で使っているのに、あの坊主は自分の頭で確りと理解しようとしていた。

 それから……これは根拠の無い、俺のただの勘でしかありませんが、おそらく坊主はレベル25前後だと思います。六歳の時点でレベル25など尋常ではありません。どんな修羅場を潜り抜けてきたのか興味がありますよ。

 これらから鑑みて、坊主は非常に優秀な冒険者になれる器だと思います」


 サミュエルとは長い付き合いになりますが、ここまで人を誉めているのは見たことがありません。

 きっと、キリュウさんは優秀な冒険者となるのでしょうね。


 キリュウさんという人物とコンタクトを取れたことは、私の野望に大きな影響を与える筈です。

 勿論、それは悪い方ではなく、良い意味であるのは間違いないでしょう。

 キリュウさんが成人する頃には………いえ、それは早すぎるかも知れません。ですが………。


 ははは、興奮しているのか気が逸ってしょうがないですね。

 焦らずじっくりと待ちましょう。

 それまでは、キリュウさんの成長をサポートするのを念頭に動いた方が賢いですね。

 それと、奴にバレぬように戦力の拡充もしなければなりません。

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