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なんの加護もなく、いきなり異世界転移!  作者: 蘇我栄一郎
街へ。そして冒険者としての準備
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冒険者登録

 オレンジを基調とした屋根と白いレンガで組まれた家が建ち並ぶ。

 道は確りと作られており、家とは違う真っ赤なレンガが敷かれていた。


 そんな光景が俺の心を震わせ、尚且つ、大通りだと思われる道では沢山の人々の波で賑わっているのが余計に感動を誘う。

 しかも、肉を焼く匂いが胃袋を刺激し、あるいは魚を焼く匂いが同じように俺の胃袋を刺激してくるのだ。


 もう最高ですよ! 何の文句も有りません!


 そんな風に感動する俺を乗せた荷馬車は、ゆっくりとしたペースで街中を進んで行く。

 そして、やがてその荷馬車は一際大きな建物の前で歩みを止め、御者台に座っていたディーンがダンディーな声色で俺に語り掛けた。


「荷馬車と馬を返して来るから、キリュウとお前達は先に冒険者ギルドの中に入ってろ。

 キリュウは冒険者になりたがってたから、受付で登録の手伝いをしてやってくれ」


「おう、任された!」


「アンタに任せるのは不安だから、キリュウのことは私に任せときなさい」


「うっさいわ!」


 ディーンの言葉を聞いたクロウとレナが、お互いに馬鹿にしながらサッと荷馬車から降りる。

 そんな二人に手を貸して貰い、俺も荷馬車から降りると直ぐに冒険者ギルドへと入った。

 中身は三十路のオッサンであるのだが、どうにも興奮してしまっているようで、まるで本当に子供の頃に戻ったかのように振る舞ってしまってます。


 荷馬車を何処かへと返却しに行ったディーン以外の面々には、子供らしい様子を見せる俺を見て好意的な視線を送ってくれているが、それが少し気恥ずかしい。

 まぁ、オッサンとは言え、男は幾つになっても子供なのですよ。


 そう思いますよね、皆さん? うん、自己弁護はこれくらいにして早速受付に行こう!


 冒険者ギルドの中は、ゲームでもよくあるように酒場も兼任しているらしく、沢山の冒険者と思われる人達で盛り上がっている。

 それを見て何時もこんな状態なのかと思ったが、今が夕方だからこんなに人が多いのかも知れない。


 俺はそんな風に考えながら、足を止めて酒場を眺めている間に先に行ったレナの背中を追って、受付と思わしきカウンターへと辿り着いた。


「すいませーん、この子の冒険者登録をしたいので、手続きの為の羊皮紙を貰えません?」


「おう。ハハハ、そんなチビなのに冒険者登録すんのか、坊主はなかなか根性が有るじゃねぇか!

 冒険者になって、街の手伝いの依頼を確りとこなせば小遣い程度は稼げるぜ。

 ちょっと待っとけよ、直ぐに羊皮紙を持って来るからよ」


 豪快に笑うスキンヘッドの五十代くらいの男性は、俺にそう告げるとカウンターの後ろにある棚に向かって移動した。

 ふむふむ、一言二言良いですか?


 何で受付がオッサンやねん! 普通可愛らしいお嬢さんやろ!!


 フゥ………笑顔を浮かべながら内心でスキンヘッドのオッサンにツッコムと、少しばかり俺の憤りも下がったようだ。

 まぁ、でも普通に考えてみれば、冒険者なんて荒事に関わる仕事をしている連中を、可愛らしいお嬢さんでは制御するのは無理だろう。

 だからこそ受付は、さっきのオッサンみたいな人選になるんだろうな。


 そのスキンヘッドのオッサンは、暫く棚の方でゴソゴソとしてから此方に戻って来た。

 そして、ニヤリと笑いながら羊皮紙を俺に手渡してくれた。


「おらよ、羊皮紙と羽ペン、それに墨だ。

 坊主、字は自分で書けるか?」


「あたぼうよ! べらんめぇ、コンチクショウ!」


「クックックッ、クハハハハ!! そりゃ悪かったな!」


 何となく江戸っ子っぽく返答すると、オッサンは目を丸くした後に嬉しそうに笑った。

 そしてそのまま言葉を続ける。


「書くのは名前と年齢、そして種族だけだ。他は何も書かなくて良いぞ」


「何で? 戦闘タイプとか、スキルとかは?」


「何でって……そりゃ冒険者の秘匿する部分だろ。

 いいか、良く聞けよ。冒険者ってのは良い奴ばかりじゃねぇんだぞ。坊主と一緒に居る雷電の連中は別だが、なかには弱い奴から無理矢理報酬を奪う奴やモンスターの素材をイチャモンつけて奪っていく連中も存在するんだ。

 そんな奴らは大抵低いランクの奴らが多い……で、そいつらはスキルとかが分からない奴は襲ったりしねぇんだよ。

 だからこそ、スキルとかは無闇に人には教えちゃならねぇんだ」


 少し呆れたような表情も一瞬だけで、直ぐに真面目な顔に変えて詳しく注意点を教えてくれるオッサン。


 ふんふん、勉強になりました。気を付けます!


 小さく何度も頷いた俺に、オッサンは快活な笑みを浮かべる。

 そんなオッサンに、レナが内緒話するかのような小声で話し掛けた。


「(この子の種族のことで、ギルドマスターに話が有るの)」


 先ほどの快活な笑みは何処へやら、オッサンは訝しげに首を傾げ、俺へと視線を向けた。

 そして、再度レナへと視線を移すと、一度だけ大きく頷いてレナと同様に小声で呟く。


「(何か分からんが、ギルドマスターに了解を取ってくる。少し待っとけ)」


 そう告げるとオッサンは、受付のカウンターを別の人と変わり奥の階段から二階へと上がって行った。

 それを見届けながら俺は思った。


 種族一つで何でこんな面倒臭いことをせにゃならんの?!

 別に公言しても良いんじゃね?!

 ハイヒューマンが奴隷にされていたのは二千年前なんだし、今は奴隷禁止でしょ?

 それに、種馬云々に関しては迷信だと判明してるらしいし、問題とか一つも無いじゃん!


 なんて思うものの、多分俺には分からないこの世界特有の何かが有るのかも知れないし、ここは黙っておきます。

 沈黙は金なり、とか言うし。ぶっちゃけ、あまり意味は分からんが……。


 ともあれ、暫くするとオッサンが戻って来て、それと時を同じくしてディーンもやって来た。

 そうして俺と雷電の面々は、オッサンに案内されてギルドマスターとか呼ばれてる人の部屋の前で立ち止まる。

 そして、オッサンが見た目とは違って礼儀正しく扉をノックするのを見て、失礼だが少し笑ってしまった。


 オッサン可愛いな! ワロタ!


 そんな俺の反応に気付いたレナは、咄嗟に俺の目と口を両手で覆った。

 うむ、すいません。確かに失礼だよね。


「ギルドマスター、先ほど伝えた者達を連れて参りました」


「うむ、入ってくれ」


 部屋の中から聞こえた声は、意外にも女性のものだった。

 それに驚いた俺だったが、オッサンは当然としても雷電の皆すら驚いてはいない。

 周知の事実なのだろうとは察せられたが、冒険者を束ねるオッサンを従わせる女性のギルドマスターって、どんな人なんだろうという疑問が脳裏を過る。


「失礼します」


「「「「「お邪魔します」」」」」


 オッサンも雷電の面々も、皆礼儀正しく入って行く。

 きっとギルドマスターってのは、かなり偉い人なのだろう。

 俺も皆にならってそうしなければならないようだ。


 だがしかし、現在の俺は子供なのですよ。なので、ここは一発かましてやりまっせ!


「邪魔するんなら入ったら駄目やで! 俺は邪魔はせんから入らせて貰うでぇ!

 ……そんじゃ……邪魔すんでぇ!」


「「「「「結局お前も邪魔するんかい!!」」」」」


「クハハハハハハ!!」


 ダンディーなディーンですらツッコムとは予想外です!

 そんな雷電の面々とは裏腹に、オッサンは実に楽しそうに笑っていた。


 うむ、一発かましてやりましたぜ!!


 満足した俺は室内に入り、声の主であると思われる女性に視線を向けた。

 女性の年齢は七十代くらいだと思われる。

 真っ白く長い髪は腰まで届くほどで、年の割りには腰は曲がっていない。


 そんな女性であるギルドマスターは、俺を見て面白そうに微笑みを浮かべていた。

 俺もギルドマスターにニコッと微笑むと、来客ように用意されていると思われる長椅子に腰を下ろす。

 ちなみに、ギルドマスターが座るまで雷電の皆は座ることはなかった。

 実に礼儀正しい人達ですよ。俺は六歳児なので許されるけどね。


「ようこそ。それで、その子の種族について問題が有るとか?」


「えぇ、実は……」


 レナが代表して口を開いたのだが、一旦言葉を途切らせると、俺に視線を向けた。

 俺が自分で言えってことかな?


 そう思ったが、どうやら違ったらしく、俺のことを喋って良いのか迷っているらしい。

 なので、ここは自分からズバッと切り出すことにした。


「俺は、将来ビッグな男になりますよ。

 なもんで、冒険者ランクを一番高いやつにしといてちょ。どうせ今か後かの違いでしかないんだしね♪」


「そうじゃないだろ」


 ウィンク付きで告げると、ダンディーなディーンから拳骨されてしまった。

 

 超痛い! 少しふざけすぎたかも知れません!


 少し涙目になりながら、いまだに微笑みを浮かべるギルドマスターに今度はちゃんと説明を始めるべく、俺はゆっくりと口を開いた。


「皆が変に緊張してるから和まそうと思っただけだよ。

 まぁ、それはそうと、実は俺の種族が……絶滅した筈のハイヒューマンなので、皆が気を遣ってくれるんですよ。

 俺からしたら、ただの種族の話で気にし過ぎなような気がするけどね」


 ギルドマスターの後ろに立っているオッサンは、眉間に皺を寄せて俺をマジマジと見つめてきた。

 一方のギルドマスターは、少し目を見開くだけで然程驚いた様子を見せない。


 うむ、流石はギルドマスターである。

 門番のハインツは、パニックになってパネェパネェと五月蝿かったけど、そこは荒くれどもを束ねる長は違うな。


 そんな風に俺が感心していると、オッサンが少々うわずった調子の声で尋ねてきた。


「……本当にハイヒューマンなのか?」


「間違いないですよ。門番のハインツも、マジックアイテムの水晶球で確認して驚いていましたし。

 勿論、その場に居た俺も確認しました」


 俺に代わってディーンが、相変わらずのダンディーな声色で答えた。

 すると、ますますオッサンの眉間の皺が深くなっていく。


 もう少しで左右の眉がくっつきそうです。


 俺はオッサンの眉が気になるが、もう伝えることは全て伝えたので、無言で羊皮紙に名前と年齢と種族を書き込む。

 そしてそれをギルドマスターへと手渡し、そのまま部屋を出る為に椅子から立ち上がろうと………


「まだ駄目だ」


 立ち上がれませんでした。

 何故か俺の行動を読んでいたディーンに、ガシッと肩を抑えつけられましたよ。


 ならばと俺は悔し紛れにウエストポーチから、何処かで売ろうと考えていたサイクロプスの目玉とかオークジェネラルの肉塊を取り出しテーブルの上へと置く。


「これって冒険者ギルドで買い取ってくれたりするの?」


「ちょ、坊主! これはお前が採取したのか?!」


「「「「「おぉい、マジで?!」」」」」


 またもやダンディーなディーンさえも予想外に驚いていて、それを見た俺は何故かしてやったりな気分です。

 と、ここまできて流石にギルドマスターすらも少しは驚いたらしく、一瞬ビクッと体が揺れていたのを確かにこの目で見た。

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