プロローグと初日
取り敢えず、"毎日更新“を目標に書いていこうと思います。
宜しくお願いします。
では、本編をお楽しみ下さい。
俺の名前は桐生誠一郎。
溶接工として働く三十路のオッサンだ。
十代で会社に就職し、火傷などを繰り返しながら日々仕事に汗を流す毎日。
二十歳の時くらいから景気が一気に悪くなり始め、その不景気の波は俺が働く会社も巻き込んでいく。
まぁ、中小企業ならば避けられないのは当たり前の話なのだが、二十三歳の時には一年間は給料を三割カットになると社長から告げられた。
『一年間だけ我慢してくれ。だが、残業代や休日出勤した場合の給料は当然出す。
だから、全員でこの苦境を乗り越えよう!』
これが二代目である三十代の社長が言った言葉だ。
しかし、残業代や休日出勤代は出ることが無かった。
そうして俺は………いや、溶接工の俺や同僚達は、毎日サービス残業を繰り返し休みも無く働き続ける毎日に流石に疲弊していく。
日々増していく不満を感じながら、二代目社長の馬鹿が取って来たアホみたいに短い納期の仕事を無理矢理に仕上げていく溶接工の面々。
二代目社長が、俺達の職種を理解しているような人間ならば良いのだが、あの馬鹿はこの会社の前に勤めていた所がアパレル関係だと言うのだから余計不満が増していく。
溶接工の仕事を理解していない馬鹿は、従業員が絶対に納期に間に合わないと言っているのに無理な仕事を持って来るのだ。
しかも、"努力すれば出来るだろうが! お前達の努力が足りないから出来ないんだよ! 効率を考えて仕事をしろ!“と俺達を批判して仕事を押し付けてくる毎日だ。
それでも俺達溶接工は頑張ったよ。勿論、間に合わない時はやはり間に合わなく、その度に批判されていたが……。
そうやって一年が過ぎて、漸く三割カットされていた給料が元に戻ると喜んでいると、二代目社長の馬鹿はもう暫く三割カットを続けると宣った。
そしてその三ヶ月後、俺が二十三歳になってから二週間後のことだ。
連日徹夜しても絶対に間に合わない、そう告げたにも関わらず押し付けられた仕事の納期が来て、当然間に合うことがなく二代目の馬鹿に文句を言われる俺の直属の上司。
それを見て聞いた瞬間、俺の今までの不満が爆発した。
『出すもんも出さずに、俺達にふざけた納期の仕事を持ってきて何言ってんだよ。社長としてふんぞり返っていたければ、先ずはちゃんとした給料を払えや。
勿論、今まで払わなかった残業代も休日出勤代もだぞ』
溶接工がした仕事を検査する人達が、俺の肩を抑えながら"桐生君、少し落ち着こう“と言ってきていたが、どうしても自分の中にある不満を抑えきれず、更に文句を言い続けた。
すると二代目の馬鹿は、アホみたいな大声で俺に向けて口を開いた。
『いち従業員のクセに態度が可笑しいんじゃないのか!!? あぁ!?
おい、常務呼んで来い!! どんな教育してんだよ!!?』
この言葉で更に俺の怒りは爆発した。
『おい、コラ!! デケェ声出せば黙ると思ってんじゃねぇぞ!!
お前は、俺達の仕事を何一つ知らないクセに知ったかぶりで偉そうに物を言ってじゃねぇよ!! 舐めてんのか、俺達溶接工をよ!!? あぁ!? 答えろや!!!』
こんな俺の言葉に同調して、俺の直属の上司も重い口を開いた。
『桐生の言う通りですよ。こんなんじゃ、やってられないですよ。
俺はここを辞めさせて貰います』
上司も完璧にぶちギレた瞬間である。
で、当然俺もこの会社を辞めた。
ちなみに、溶接工の全員が辞めて行った。
その後、一年ほどしてこの会社は潰れたらしい。
そうして二十三歳の終わりに、別の会社に就職した俺は、またも溶接工として働き出した。
そこでは勿論、給料は普通に出たし残業や休日出勤をすればそれも普通に貰えた。
俺はそれを特別に感じるほど前に居た会社に毒されていたようだ。
そんな感じで働く毎日に充実した物を感じる一方、何か燃え尽きたかのような矛盾した気持ちを抱えながら日々を過ごして、気がつけば三十路になっていた。
これが今までの俺の人生………と言うか、社会に出てからの人生だな。
そしてここから話すのは、俺がそんな普通の人生とは隔絶した物であり、俺と同様の人生を送る人間など絶対に無いと断言出来る話である。
始まりは、毎日の楽しみであるビールとワンカップを飲んで寝た次の日のことだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
三十路のおっさんである俺の最近の流行りは、寝る前の晩酌である。
ひんやりと冷たいビールを一本と、ワンカップ一本が楽しみのおっさんです。
そんな何処にでも居る普通の俺なのだが、今現在は普通とはかけ離れた状況に混乱している………と言うか、混乱の極みです!
「ここは何処だ? 昨日は、晩酌を楽しんだ後は自宅で寝たはず……なのに、何で森に居る?」
自分が今居る場所は、見たことも無い程の大きな木々が生い茂る深い森。
こんな場所に、どうやって来たのか不明だ。しかも、記憶が確かなら晩酌の後は通常通りに寝たはずである。
マジで謎だ。
そして更なる謎が、五歳児くらいまで小さくなった体だ。
自分は三十路でおっさんなのにも関わらず 、何故か子供になっているのだから、驚きを通り越してある意味冷静になってしまう程です。
そう、もう冷静になりつつある。
それもある意味では謎と言っても差し支え無いが、まぁそれはこの際どうでも良い。体が縮んだこともどうでも………
「いやいやいや! 体だけ縮んだって可能性もあるのか?!」
もしも、体だけ縮んで顔はオッサンだった場合、想像すると最悪でしかない!
はっきり言ってキモ過ぎだろ!
目が覚めると突然森に居るという状況も気になるが、先ずは顔を確認したい!
「民家とか……無いよな。なら、水溜まりとかでも良いんだけど」
辺りには民家どころか人の痕跡すら皆無で、鏡を期待するのは間違いだろう。
ならば、水溜まりや川とか有れば顔を確認出来る筈。
と言うことで、先ずは顔を映せる物を探そう。そうしよう!
ってことで、探し始めて三十分程が経過して無事に自分を映せる物………つまり、小さな湖を発見出来た。
まぁ、湖と言うよりも泉って感じだが……。
何はともあれ、顔を確認出来るのは間違いない。その為、俺は直ぐに泉に駆け寄って確認した。
すると、幸運なことに顔は普通の五歳児だった。
それは良かったのだが、問題が一つ………
「……誰だよ……?」
泉の水面に映る顔は、自分が五歳児だった時とは別人だった。
何せ青色の髪をしてるし、眉毛も青色なのだ。瞳に至っては、紫色だぞ。
マジで誰だよ!
俺は普通の日本人で、黒髪黒目だぞ。何で中二病全開の姿をしてるんだよ。
……頭が痛くなってきた。
水場を探している最中に、何故こんな場所に居るのかを考えていたが、その時より混乱していると言っても過言ではない。
ちなみに、ここに何故居るのかの答えは不明である。
「夢じゃないのは間違いないし、これが現実なのは理解している。
……だけど、この姿は受け入れ難いなぁ。恥ずかしいの一言だよ」
何となく空に視線を移して呟いていると、今俺が居る場所の向かい側から物音がした。
その方向をジッと見つめていると、人影がチラリと見えた。
目が覚めてから苦節一時間。
漸く人に出会えたと思ったのだが、そのチラリと見えた人影は緑色の肌をした巨人だった。
まぁ、巨人と言っても二メートル程度でしかないのだが、五歳児の俺からしたら巨人だ。
って言うか、問題はそこではなく、緑色の肌をしているという部分だ。
緑色の肌ってなんやねん!
いや、自分の髪色や瞳の色も変ではあるが、流石に緑色の肌は非現実的過ぎるだろ。
もしかしたら、滅茶苦茶体調が悪くて緑色になって………いや、やっぱりそれは無いわ。
そんな風に考えながら呆然と見ていると、ふとその巨人と視線が合った。
「ギルギル!」
「は? 何語……?
って言うか、何なのその不気味な笑み」
不気味ではあるが、漸く出会った人だ。
ここが何処なのか聞きたいし、この異常な出来事を尋ねたい。
であれば当然、頭を下げ挨拶をするのが礼儀である。社会人の俺は、その辺の礼儀くらいわきまえているつもりだ。
「こ、こんにちは。……あのー、ここは何処でしょう? 目が覚めると、何故かここに居まして……」
「ギルギル! ギィィイイ!!」
巨人さんは突然叫ぶと、ドスドスと音を響かせながら俺の方へと走り出した。
その姿はゲームに登場するゴブリンの巨大版の様であり、はっきり言って怖い。
つうか、怖すぎ!
これって、俺を襲おうとしているのじゃなかろうか?
そうであれば、非常に不味い!
巨人さんの虫の居所が悪いという可能性も有るが、俺を食おうと考えている可能性も有る。
それは困る………非常に困る。
ということで、ここは一旦逃げよう。そうしよう!
「ひぃぃぇぇええ! 怖すぎぃぃ!」
「ギルギル!」
「こっち来んな! その笑みを俺に向けんなぁ!」
泉から離れて森の中に素早く入り、そのまま一直線に走り続ける。
少し大きめの石を飛び越え、時には大きな倒木を飛び越え、一心不乱に走り続けること二十分。
漸く俺を追うのを諦めたらしく、巨人さんの姿は見えることも無くなった。
こんなに走ったのはマジで久しぶりだよ。
上司に無理矢理連れて行かれたマラソン大会以来だ。
一応巨人さんが追って来ている可能性も考慮して、二股になっている大木に登り疲れを取る。
そしてふと思ったのだが、五歳児にしては異常に持久力が高くない?
水場を探して三十分歩くのも凄いし、二十分も走り続けるのも凄い。尚且つ、今は十五メートル程の高さまで木を登ってる。
持久力もそうだが、筋力も普通の五歳児とはかけ離れているのは間違いない。
目が覚めると謎の場所、五歳児になり奇妙な髪色と瞳の色、そしてゲームに登場するゴブリンに似た存在。
極めつけに、五歳児とは思えぬ尋常ならざる身体能力。
謎がどんどん増えていく現状に、疲れた脳味噌と体では対応出来ず、俺は木の上で眠りについた。
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