0007 宣言
「なんでだよ。なんでこんなしょぼいのさ。なら『顕現』なんてカッコイイ名前じゃなくてもっとしょぼそうな名前にしろよ。出現とか模倣とかさ。あったじゃん。完全下位互換だよ。だって3本だよ?雑草3本で何ができるのさ。本当に。だいたい……」
おお、我らがルッツが乱心しておられる。
「落ち着こうルッツ。まだ使えないと決まったわけじゃない。」
「もちろん分かってるさ。目下一番怪しいのは、この世界で追加された法則のもう一つ、つまり……」
「霊力だな。無から有を生み出す能力なわけだからより大きな力を必要としてるのかもな。」
よかった。てっきり自分の能力がゴミクソそのものだから絶望して思考停止で全員殺害ってわけじゃないんだな。ルッツならやりそう。
「という事は、生物を片っ端から殺して霊力を集める必要があるわけだ。ヤツナギさん、僕は今最高にテンションが上がってるんですけど、生きとし生けるものを殲滅しにいきません?」
やっぱりご乱心してらっしゃる。
「でも、やっぱりここには人が来ますよね。」
「だろうな。ここは魔力が希薄だから魔物の存在がない。」
「訓練にはうってつけってわけですね。あー、僕たちも訓練したいですねー。」
「俺らが目立つとまずいんだって。特に俺の能力は対国家にとって致命的であり、最強だからな。」
なんたって要人と握手した時点で思考を掌握できる。握手だけに掌握。あんまダジャレっぽくないな。
「くだらない事考えてますね。殺意がわきますよ。同じ状況下だった以上霊力をあんまり持ってないと思うから殺さないであげますけど。」
「俺はすでに霊力扱いか…。」
ダジャレは最強なんだよ。異論はいらん。
「はぁ……。とりあえず目下の目的について整理しましょう。」
「この世界の情勢、常識についての把握は必須だな。物理法則に僅かなほころびを見逃したらそれで死ぬと考えたほうがいい。」
「魔術法則についても同様です。この世界では優秀な者が使えるという話でしたが、法則さえ見破れば使用できる人間も出る可能性があります。」
「仲間も欲しい。特に常識に秀でるものな。俺らに武力を授けてくれる能力を持つやつなら尚良い。」
「そうですね。武力の確保は他の二つより比較的容易です。イレギュラーである固有能力の解析、霊力による戦力増加、魔法学の研究が優先すべきでしょうか。」
「最後はお前がしたいだけだろ……。」
「それは置いときましょうよ。結構重要だと思うんですけどね。後は財力、権力については人脈を確立してからですね。ヤツナギさんの能力を使えば容易でしょう。」
「それについてなんだが、俺はその能力は切羽詰まった時にしか使用せずに、それも敵に限定してしか使わないつもりだ。」
「それは……価値観の違いですね。僕は人を刺す事に抵抗はありませんがヤツナギさんはあるのと同じ事ですね。」
「いや、まぁそれもあるんだが……。」
「?」
「一番は寂しいからだ。一人で話してるみたいでさ……。」
「あ、そういう気持ち悪いアピールやめて頂けますか?」
「ちょっとだけより丁寧な口調になってんじゃねぇよ。小学校抜けるまで孤独に生きてきた人間が可哀想だと思わねぇのか!」
「僕は話し相手いませんでしたよ?」
「あぁ……うん。なんか…その……ごめん…。」
「はあ、まぁその能力には期待するなって事ですよね。」
「おう、舌戦でなら負ける気がしないぞ。」
「情けない。喧嘩でも勝てるって言ってみなさいよ。」
「うっせぇ軟弱者。お前なんか吹けば折れるような数値だったじゃねぇかよ。」
「無能の枠じゃないんで。」
「いやまぁ確かに門番先生の話を参考にするならな。というか流石に脱線しすぎたな。とりあえずもう雑草探して帰るか。後でまた計画を立てよう。」
「了解です。」
俺は『真理』を行使する。強そうな名前の能力なのに使用法は雑草に混じってる薬草探しか……。ちなみに『真理』を行使する時に光は出ない。これが霊力を用いてないからなのかは分からない。とりあえず制限があると考えておこう。どうしても状況に余裕を持つと俺は手を抜くからな。自己把握のできる男はモテるんだよ。あ、一時期モテ期来てたけどね。
俺は今、手で雑草を持ち、それを見ながら脳内で
『真理』と頭の中で念じる。(俺は文字を脳内で書いて想像する)
すると情報をまとめた半透明のステータスが出現する。これの上の方に名前が出てくるというわけだ。
なぜいきなりこのスキルの説明をしたのかというと……めんどくさい。手間がかかりすぎる。後三ついるっているんだから驚きだ。慣れてるやつはすごいな。あ、もしかしたらこうすれば……。
「ヤツナギさんー、もう帰りたいです。夜になりますよ。」
「待って!今素晴らしいアイデアが浮かんだから!」
見据えるは雑草の群れ。いつも通り脳内に『真理』と書いた後に、『メジキネ草』と続けた。
すると、雑草の群れの中で三つステータスのアイコンが出た。
「素晴らしい!さぁ摘んで帰ろう。」
「ああ、範囲で見たんですね。」
「え?気づいてたの?」
「すみません、あのゴミスキルをどう処理してやったら良いのか分からなくて……。」
「そういう事じゃない。まぁ良いさ、早く帰って寝たい。」
「徹夜明けですからね~。」
アイコンの下にあるメジキネ草を引っこ抜いて、そのまま街へと向かう。
「明日は昼くらいまで寝ない?」
「賛成です。僕の研究の美学に徹夜はしないってのがあったんですけれどね。」
そう言ってルッツは笑う。
こいつが研究に命を注ぐ姿がありありと想像できる。白衣着て、緑色の液体の入った試験管を見てニヤニヤしてる姿とかね。
「何ニヤニヤしてるんですか。」
おっと、考えが表に出ていたらしい。
「ルッツって研究者っぽいなぁってさ。」
それを聞いたルッツはそっぽを向いて、
「早く帰りましょう。」
と言った。ルッツの耳が赤くなっていたので、
「俺のイケメンな言動に惚れたか?」
と冗談交じりに聞いたけれど、
「男色家じゃないんで。お願いだから脳を傷つけずに死んでください。」
ってさ。俺も願い下げだわ。アイムノーマル。
あ、そうだ。
「ルッツ、俺の最終目標なんだけどさ。」
「聞くだけ聞きますよ。男のみのハーレムを作るとかですか?だったらこれから半径120km以内に近づかないでくださいね。」
「ホモじゃねぇっつってんだろ。それは良いんだ。違くて最終目標!」
「早く言ってください」
「そう焦るな。俺の目標、それはっ!」
俺は天を仰ぎ、高らかに宣言した。
「王になるっ!」
ここでちょっと痛ましいポーズも忘れない。数秒その状態で固まり、最高に決まった事に満足して目を開けると、ルッツはもう10メートルほど先へ行っていた。
ルッツはこちらに振り返り、
「良いですね、それ。」
と。
はは、つれないやつだ。俺はお前の評価がバンバン上がってくよ。あ、ホモじゃないんで。
俺は走り、ルッツの肩を叩く。
「痛った!」
「ははははははは!ルッツ君!我らが伝説だ!新たな1ページだっ!」
「え?こういうキャラだったんですか?」
俺を舐めんな。気に入らないやつは追い出し、好きな事のために全力を注ぐ。話すメリットのないやつとは話をしないし、必要とあらば豚と1日会話してやっても良い。俺はそういう人間だ。
ああ、覚悟ができた。もう何を殺すのも、どんなやつを蹴り落としても、絶対に俺のしたい事をしてやる。これはまさに生まれ変わった気分だ。なんて高揚感なんだろう。思わず笑いだしてしまいそうだ。
「さあ、この世界を知る事から始めるぞルッツ!」
「本当にどうしちゃったのさ……。」
ははは、ルッツの敬語が取れてるが気にしない。どうせ敬う気なんて毛ほどもないだろう。同類だからこそだ。
「ははははははは!!」
「うわ、もう絶対関わりたくない。」
制してやる。絶対に、この世界を制し、強大な居場所を作り上げてみせる!
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BL展開は絶対にないです。一ミリでも期待した人がもしいたらごめんなさい。