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「はぁ、情けないことこの上ないね。」

「俺のせいじゃないからな?」

「あれだけ目立った後にこんなショボいクエストを受けてる自分が許せないっ!」

「じゃあルッツ野宿な。」

「はぁ……。」

金がないことに気づいた俺たちは回れ右して、ギルドへと向かった。受付さんが可哀想なほど怯えてた。町変えなきゃかなぁ……。

俺らの受けたクエストは『メジキネ草の納品』だそうだ。なんでも、魔力の希薄な地域のみに生えているもので、自己治癒力を促進する効果があるそうだ。まぁ俺らが来た森は魔力が希薄だってルッツのお墨付きを頂いてるからな。そこを探索してる。

それにしても流石だね、地球にはそんなものない、あっても気休め程度だ。阻害する食事なら腐るほどあるのに。

まあ、それでだ。門を出るときにさっきの門番さんと、

「やあヤツナギ。冒険者ギルドにもう行ったんだろ?無論、行ったならわかるな?あそこはあんたみたいなひょろ長くんが行く場所じゃないよ。ガラの悪い社会人崩れが集まるゴミの掃き溜めさ。な、ルッツ。あそこはクソだっただろう?」

「うん…あ、もう演技しなくて良いのか。全くその通りです。あそこは程度の低いやつしかいないですね。あ、今思うと僕殴られたね。ぶち殺しに行こうかな?」

「お前、あのデブのチンピラ君を容易く斬り落としたんだから勘弁してやれよ。」

「は?え?なんでお前らそんな…え?」

「あの受付さんが泣いちゃうだろうがよ。」

「え?なに言ってるんですかヤツナギさん。受付さん涙目でしたよ。」

「はっはー、そりゃ気づかんかったわ。」

「後で報告しときますね。」

「ちょっと待って!まだ目をつけられたくない!本当にマジで!」

「なんですかその頭痛が痛いみたいな言い回しは……。」

「なあお前ら。」

「なんだ?」

「なんですか?」

「もう行っていいぞ。」

「いやでも俺まだ冒険者ギルドでの苦労を…」

「行け。」

「あっ、はい。」

なんていうやり取りがあったんだ。

……うん。客観的に見たらやばいな。絡んできた相手をビビらせてチビらせて物理的に彼の息子をおとしたわけだからな。それを平然と話す俺とルッツに恐れを抱くのが普通だ。なんたって目をつけられたらその瞬間に自分の息子が落とされる(物理)かもしれないんだからな。

となるとあの門番先生はかなり優秀なやつなんだろうな。顔にも最初こそ恐れが出てたけど、そのうちみるみる呆れてきて……最後には無表情だった。やべー、あのチンピラ君たちより全然怖いかもしれん。この辺りの最強は門番先生だな。

冗談だが。

まぁそういうことがあったんだ。ギルドでの事はともかくとして、門番先生にあの会話はないよね。え?ギルドでの惨状はお前のせいだし、門番先生との会話でも乗ってただろって?知らんな。

というかルッツは自重を覚えてほしい……っ!

俺らはその辺のやつらよりかは強いかもしれんが、ちょっとでも能力のある奴には簡単に負ける。更にルッツは肉体的能力は貧弱じゃねぇか。あいつ本当に俺と同レベルの頭持ってるの?馬鹿じゃね?

「ルッツ。」

「はい?」

「お前馬鹿でしょ。」

「は?縊り殺すぞ?」

「そういうっ!短絡的なところがぁ!やばいって!」

「なんだ?その幼稚な言語の方がずっと頭が悪そうですよ?」

「いやいや、俺ね、思ったの。」

「うん、聞いてあげますよ。」

「そうか、ありがとう。で、例えば権力を持つ人間が「従え」と言ってきたらお前めちゃ反抗するやん?」

「はい。」

「な?で、激おこした権力を持つ人間が俺らに百人して殺そうとするとしよう。俺らの能力は一見めちゃ強い。そりゃもう。てか一見じゃなくて普通に強い。」

「知ってますよー。」

「だが!それは個人向きだ。俺の思考制御の能力は触れなきゃいけないし、多分ちゃんと考えとかないと命令はできない。無力化はできるだろうがな。お前の模倣?する能力も、恐らく解析する時間が必要なはずだ。相手の動きに集中しすぎて後ろから切られるのは明白だ。

更に!俺は他の人より運動神経がいいだけの普通の人の能力しかない。」

「それだけは認められない。」

「言い方に語弊があるな。要するに、技能がないんだよ。武器なんか持ったことないし、人を刺すなんてもってのほかだ。」

「なんで刺すのがダメなんですか?」

「気持ち悪いから。まあそれはいいだろ。とにかく、俺らは対個人ですら搦め手しか使えないのに、能力がないのに目につく相手全部に喧嘩を売って、喧嘩をセットで買おうとするお前が本マジでやばいと思ってる。」

「本マジ?あ、いいや、聞かない。」

「本マジってのは『本当に…」

「最初に抱いた感情は間違いだったのか……。めっちゃ頭悪そうじゃないか……っ!」

「まぁ?俺みたいな完璧美青年なら?男に惚れられるのも仕方ないよね~。」

「切り落としても、良いんですね?」

「本マジさっせんっした!!」

「聞き取れる言語で、喋って、いただけますか?」

ゆっくり喋るのやめて本当怖い。俺は震える声で

「本当に、申し訳ありませんでした。今後、ルッツさんの性癖に関しては、あんまりイジりません。」

と、誠心誠意謝罪したのが今ね。二度殴られたけど機嫌が直るならそれでも良いさ!俺は学校という名の修行の場所で人付き合いは完璧だからな!

そして冒頭に戻ると。

「まだ見つからないんですか、ヤツナギさん?」

くそ、俺の劣等感を煽りやがって。まぁ適材適所だから致し方ないが。

今は俺がメジキネ草を探している。というのも、メジキネ草は非常に雑草とよく似ていて、更に厄介なことに、群生しないんだそうだ。まぁ俺には『真理』があるし、頼れる相棒がいるから、一本見つければ……。

「ん?これだ。」

手に取った草は、周りとの違いは全くない。これわかるわけないでしょう?ところが、そういう探すことを続けると『鑑定』という能力が付くらしい。受付さん情報ね。

まぁその『鑑定』ってスキルも、俺のには敵わねえな。絶対に。だってこれ脳がパンクする。

俺の眼前には、メジキネ草の名称から栄養素から一般的な相場からこれを好む生物までもが書かれている。こういう時は自分の脳のスペックに感謝だ。

「ルッツ君。仕事だよ。」

「オーケー、上手くいくといいな。『顕現』」

するとわずかに光が出た。光のおさまったその手には3本のメジキネ草と、その切れ端が一つ。

「「………しょっぺえ……。」」

彼の最もチートだと思っていた能力は、何かを代償にしなければならないようだった。


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