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0003 職業:役者

いやー、歩いた歩いた。体感で半日くらいかな?馬車はあれから全く止まることなく進み続けた。というかあれ護衛はともかく、馬車馬超可哀想だよね。まさに『馬車馬のよう』な働きだな。馬車馬だし。

ルッツはすでに疲れがたまっている。さっきも「ふくらはぎがー」とか言ってるから間違いない。

それから1時間ほどで、建造物であろうものが見えてきた。

それはまさしく城壁で、初めて見るものは圧巻されそうなほどの存在感を放っている。実際俺もその存在感につばを飲み込んだ。

そしてルッツに、

「そろそろ着くぞ、頑張れ。」

と言ってあげると、

「もう無理……、ヤツナギさん……ウッ!」

といってリバースした。なんか、ごめんな…。

さらに歩くこと5、6分くらい。ついに城門前に到着した。城門は上側に金属らしきもの(汚れすぎてて木か金属か判別できない)がついていて、恐らく門が閉じる時はあれが降りてくるのだろう。

城門前には数組並んでいて、馬車から身なりの汚い者、鎧のようなものを身にまとう者もいる。

「さすがファンタジー、鎧とかなんかすごいな……。」

俺のつぶやきが聞こえたのか、ルッツが話しかけてきた。ちなみに仲直り済みだ。研究手伝うって言ったらコロッとな。

「ヤツナギさんのいた世界は争いがなかったんですか?」

「いや、あったよ。ただ、人数が多くてもどうしようもないくらいの兵器を何カ国も持ったから、武力での力の誇示はまるで意味を為さなかった。武力のない、人海戦術が通用するような国だけが内乱やら戦争やらやってたんだ。俺の住んでた国は武力こそ無かったけど、高い技術力に加えて、最強国の庇護下だったから争いにはならなかった。地理的にも攻めづらいし。ただ、武力面での衝突がなくても政治的なぶつかりはあったけどね。」

「ずいぶんと恐ろしい世界ですね。最強国と言ってもその『兵器』を使えば簡単に滅ぶってことでしょう?」

「ルッツの世界は魔法のせいで科学が発達しなかったってわけだ。」

「面目ありません。そっち方向の発想がなぜ出なかったのか今では不思議で仕方ありませんね。」

「ルッツ一人の責任でもなかろうに……。」

なんて話していると門にだいぶ近くなってきた。

「次の者、身分証明書を提示してくれ。」

身分証明書、無いなぁ。どうしようかなぁー。

「なっ、無いのか!?」

「あれ?口に出てた?」

「めっちゃくちゃ馬鹿にした口調だったよお兄ちゃん。」

「おにい……、いやぁ、久しぶりにお兄ちゃんって呼ばれたなぁー。ちょっと自分感動。」

「はぁ……、門番さん、実は僕たち身分を証明できるものがないんです。どうすれば良いとかありますか?」

門番さんは呼ばれて現実へと帰ってきた。あまりの会話に思考が停止していたようだ。

「あ、あぁ、その場合は詰め所で怪しく無いかチェックさせてもらう。怪しくないなら入国が許可されるって感じだな。」

「あぁ、お兄ちゃん。お兄ちゃんだってよ。聞きました門番さん。聞きましたよね?俺本当に聞いてましたもん。」

「静かにしないと放り出すぞ。」

そんなわけで俺らは優しい門番さんに詰め所に連れて行かれた。後ろに並んでた人たちまじごめんなさい。

詰め所はオフィスにある給湯室のようだ。地球にあった科学的な道具こそはないが、魔道具だろうか。あちらこちらに何かしらの日用品らしきものがある。何が何に使うのかはなんとなく想像はつくが、『固定観念は死に直結する』という事を忘れてはいけない。無意識のうちに適度に手を抜く俺ならすっかり忘れても不思議じゃない。

歩きながら俺は門番さんに、

「実は俺たちはずっと向こうの村に住んでてね、常識ってもんにてんで疎いんだ。できれば詰め所で行動が犯罪にならない程度に常識を教えてくれないか?」

「願ったり叶ったりだ。」

そういうと門番さんは声を潜めて、

「お前らを事情聴取してるうちなら俺は業務をサボれるんだよ。」

と言った。全く、門番がやる事は汚いなぁ。

俺たちが座ると、門番さんはお茶を入れて出してくれた。

「まずは長旅ご苦労さん。ゆっくり休んでくれよ。」

やべぇ、優しい。仕草も自然で何か企んでるわけじゃ……止めよう。人の仕草を見る癖は本当に直したい。

「ありがとうございます。お名前を教えていただけませんか?」

「そんな丁寧な言葉じゃなくて良いよ、そこのお兄ちゃんと同じ感じでな。」

そういうと門番さんはルッツの頭をなでる。ちなみに門番さんは見た目20後半といったところか。悪戯っ子のような顔だ。絶対に周りに1人は居るタイプ。

「さて、まずはお仕事の時間だ。お前ら、何しに来た?」

おっと、まぁ俺くらい観察眼が発達すると何かしらの道具に力を加えたくらいわかっちゃうんだよねー。多分嘘発見器的な奴だと思う。

「俺、自分のいるところがどこか分かんなくなっちゃってよ。前に家に帰る途中だったはずなんだけどな。で、馬車のタイヤの音がたまたま耳に入ったから、ついて行かせてもらったんだ。無論、ルッツも一緒にな。」

嘘は言っておりません!さて、これが『悪意ある発言』とかだと困るんだよな……。

「ふむ……、いや、疑ってすまない。実は嘘を見つける魔道具を使わせて頂いててね。お前の言ってることに嘘はなさそうだ。信用に足るな。もちろんなんで迷子になってんのか気になるところだが、そんなこと言われても困るだろ?」

「ああ、なんたって気づいたら森の中だからな。」

「おいおい……。妹ちゃんが何とかしてやってくれたら良かったじゃないか。寝てたのか?」

「男ですっ!」

あーあ。門番さん地雷踏み抜いたな。絶対口きいてもらえないよ。俺だってちょっとからかっただけで旅路半日全く口きいてもらえなかったもんね!

「なんだって!それは本当に申し訳ない!」

門番さんは勢いよく頭をさげる。

「二度目はないからね?」

「ああ、もちろんだ。君は立派な男性だよ。」

「じゃあ良いよ!」

うわ、ルッツの猫被り感が気持ち悪い。

「俺にはそんなことたまにしか言ってくれないのにな……。」

「えっ、たまに言ってくれるの?」

おいおい、門番さんの反応が怪しいぞ。こいつ本当に男だからな?粋がってるとかじゃなくて本当に男。

「さて、お兄ちゃんの方。お勉強の時間だ。」

「ひでぇ呼び名だけど、是非よろしくお願いします。」

さて、第二ラウンドだ。

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