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0024 神と呼ばれた(自称)男

――――死を讃えよ――

その言葉に、世界が揺れる、揺れる。

寒気を感じ後ろを向けば、やせ細っている上半身裸のものたち、土精霊だ。しかしその姿は半透明で、足元は存在を主張するものを視認できない。幽霊的な存在であると予想できる。また、地面が割れ、骨の姿をした犬や人型の何か、熊や鹿などの動物。何かの虫なのか、外骨格のみの姿のものなどがワラワラと這い出てきた。

――――死を畏れよ――

その言葉に、世界が傅く、傅く。

その仮初めの命を与えられたものたちが一斉にこちらを、ひいては空に浮かぶ男を向く。人型のものは傅く姿勢をとり、獣や虫もどきなども姿勢を伏し、従順の意思を示している。

――――死を受け入れよ――

その言葉に、世界が消える、消える。

どさりという音が後ろから聞こえた。振り返れば、背の高い男と横幅の大きい男が倒れていた。耳の良い俺ならば分かる。この二人は即死だ。前触れもなく死んだ。

――――死よ、王の帰還を讃えるのだ――

その言葉に、世界が狂う、狂う。

正面の湖からボコボコと泡が発生する。数秒後には『死損じたものども』と思われる骸骨らが現れる。彼らは呆け、つかの間の救いが奪われた事に気付き、発狂する。互いを壊しあっている、それは破片に至るまでだ。

俺が覚えているのはここまでだ。神経が摩耗したのだろうとは思うが、気を失ってしまった。

――――――――――――――――――――

「おはようございます。気分はどうでしょう?周りには危険しかないっぽいですよ。文字通り命懸けで彼と話し合った僕に平伏していただきたいものです。」

どこかで聞いたセリフで目が醒める。俺は木にもたれかかって眠っていたようだ。ルッツから目をそらすと、あの男が居た。恐怖が湧き上がってくる。

そんな様子を見てその男は困ったように眉をひそめた。

「ああ、そんなに怖がるな。私は危害を加える気は全くない。貴殿のおかげで私はここにいるからな。感謝こそすれ攻撃する気など毛頭ないのだよ。」

「気さくな方ですよ。」

自己紹介がまだだったな、とその男はニヤリとして続ける。

「私には名前がないのだが、まあシオンとでも呼んでくれ。私はかなりの昔には死神やライフ・コントローラー、後は邪神ルジェスなんかとも呼ばれていたりした。まあその昔に下手を打って封印されてしまってな。死にゆく魂に自らの存在を重りにして封印から抜け出していたまでは良かったが現世に残った魂を壊して存在を取り出す術を有していなかったのだ。その術を編み出すのにまだかかると思っていたのだが、貴殿らのおかげでこの通りだ。恩に着るよ。」

邪神ルジェス。それはかつて門番先生から聞いて話の中に出てきたものだ。転生を司って楽しんでるとかなんとか……。ルッツの方はいつもの薄い笑みが消えていて、それは真顔というよりも感情の抜け落ちた顔といえるかもしれない。

ルッツ、と名前を呼ぶとこちらにその無感情のままの顔を向け、その瞬間にいつもの到底笑顔とは読めない笑みが浮かんだ。

「考え事をしていました。で、なんでしょうか。」

「いや、意識飛んでるのかと思って。」

「いくら僕でもこんな重要な時に寝ないですよ。」

昨日寝たじゃないか、と言おうとしたのだがそれは叶わなかった。シオンが小さく咳払いをしたからだ。かつて神と呼ばれた(自称)を放って置くわけにはいかない。

シオンは一転、真顔になって話し出した。

「ああ、もう良いね。では本題に入ろう。そう、貴殿らに私はそれはそれは深く感謝していてね。私のできる範囲ならばなんでもお礼をしてあげたいんだ。力でも、知識でも、特殊能力でも譲渡できる。そのくらいなら幾らでもね。」

俺とルッツは視線を送り合う。そしてルッツは俺の居る側、右足首を伸ばすように回した。俺に一任するという意味のサインだ。クソッタレめ。

「なんでも?それは例えば『貴方を殺せる力が欲しい』と言えばくれるのか?」

するとシオンは一瞬意外そうな表情を浮かべ、すぐに苦笑する。

「私は殺されるのかい?まあ私自身には死の概念は存在しないわけだから別に良いのだが、それが願い、というわけではないのだろう?」

見る限りの嘘はない。次だ。

「なんで俺らにそこまで感謝する?俺らが居なくてもいずれ復活できたのだろう?」

「いや、私もすぐに体を破ることはできると思っていたのだが、意識の断片の影響か、骸を見ると生物が全部恐れ、逃げ出しちゃってね。不純物を取り除かなきゃいけないから大変だったよ。そうだ、死損じたものどもと呼ばれた彼らは身体が壊れても死なない。その代わりに失うものがあるんだ。分かるかい?」

ルッツが顔を上げて答える。一任するんじゃなかったのかよ。

「影響力ですね。腕が壊れたものも足が壊れたものも、背骨がなくなっているものも動けるようでした。だけど手がなければものは何も掴めない。足がなければ歩けない、走れない。頭蓋骨にあたる部分がなければ視覚と聴覚を失っていたようでした。だが死には届かない。そういうことでしょう?」

シオンが手を叩く。

「御名答。完璧な回答だ。あの出来損ないの残りカスは私の復活を妨害したのだ。許せることではない。」

だから私は、とシオンは笑った。心の底から愉悦が漏れ出ている笑みだ。

「生き返らせてやったんだ。あれらは『もう一セット』さ。君たちのような有能な、勇猛な生物には次は何世紀後に出逢えるんだろうなぁ。」

今までの話に嘘はなかった。

「さて、そちらのさっきまで気絶していた方。」

「ハチです。」

「そうか、ヤツナギ君か。」

なんで分かるんだよ。

「そんな疑い深い君に一つ、私たちのみが知っていてこの世界に住まうもののほぼ全てが知らない情報、これを与えよう。」

その情報は、俺がようやく少しずつ慣れてきた力を疑わせるのに充分な言葉だった。

「ステータスに、意味なんてないのだよ。」

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