0021 死損じた者
眼下に広がる骨の群れ。それらは直立して、全てがこちらに顔だったものを向けている。
さあ逃げようと足に力を入れた時、ガシャンガシャンと大きな音が下で鳴った。思わず下を見ると、骸骨たちが最も大きなもの以外全て縮んでいた。いや、しゃがんでいる。または跪いている。というか骨の間が透けて向こう側が見えるせいでなにをしているかがわからない。
――木の上におられる御仁。どうかこの卑小な死に損ないの話を聞いて頂けないだろうか――
こいつ、直接脳内に……!?
頭の中に浮かぶ言葉。それは違和感なく、まるで後ろから友人に話しかけられたような。下を見てもさっきとなんら変わらない状況だ。最も大きな骸骨のみが上を、こちらを向いている。もしあの現象を起こしたものがあるならばあの最も大きな骸骨だろうか。
――もし、もしも聞いて頂けるのであれば、どうかお答えしてくだされ――
そんなこと言われても。
「あ、あー。聞こえてますか。」
――ええ、聞こえております――
「一分くらいで済ませてください。」
骸骨たちが俺に跪いくこの状況は少し楽しい。今から聞く話もきっと面白いものになるだろう。
――誠にありがとうございます。では手短にお話しさせて頂きます。我々は卑小な死に損ない。生を謳歌する者たちからは『死損じた者ども』と呼ばれています。我々は元々人間として生きておりましたが、死した後にこうして卑しきものに成ったのです。我々には自決する方法がございません。死に損ないはいつまでも今世を離れることができないのです。生者に頼めば冥府へ逝けると言われているのですが、我々の浅ましき姿を見るとどの生者も恐れをなして逃げ出してしまいます。我らが集結している場所がございますので、どうか我々を殺しきって頂けないでしょうか――
話長いわ。三行で説明しろよ。恐らく死に切れない理由は自我やら霊力やらなんかが死ぬ時に消えきらないから死なないんだろう。で、生者が殺せば吸収されるから死ねると。なんとも哲学的な話だが、ともかく殺してくれってことだな。そのためについてこいと。
「ここに全てを集結させることはできないですか。」
――中には足のパーツがすでに壊れているものもおるもので――
うーん、この霊力が大量に手に入るであろうイベントを逃したくはないのだが、罠が怖い。相手が骨なのでいつもの読心もあまり通用しない。予想ではこの骸骨、『死損じた者ども』の感情は恐れと喜びだが。
「まあ良いですよ。その代わり条件があります。」
――どんな条件でも承りましょう――
「溜め込んだもの全ての権利は俺にあると約束していただきたい。地図や道具なんかもあるのではないですか。」
『死損じた者ども』の筆頭は答える。
――承りました。今ここで全ての権利があなたにあると宣言いたします――
これでデメリットがメリットへと変化しただろう。あとはルッツを呼ぶだけだ。俺は手元の葉を千切り、複雑に組み合わせて草笛をつくる。三つほどの音階が出せるように工夫もした。幼稚園の頃、虫がさわれなかった俺の唯一外でできた遊びであり、今現在までの特技である。
ピッ、ピー、ピ。
ルッツは耳は人並みだ。だが元々人間の耳はだいぶ遠くまで聞こえる音域というものがある。さらに恐らくルッツは周りをなんらかの方法で索敵している。予想では風とかだが、魔法に関しては無知というのもおこがましいので今は予想の範疇を出ない。
それは良い、とりあえずルッツがこちらに向かってくるのを待つとしよう。
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次に書きたい話の関係で短めです。




