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0020 成れの果てと強さの定義

一分弱この場を離れるとルッツに伝え、それがいる場所に駆け出す。空を赤く染め上げる夕日以外に俺の姿を視認できるものはいない、そう思えるほどの速度だ。大木、若木、雑草。それらも差はなく背景として後ろへと流れていく。対象がこちらに気づいたようだがもう遅い。一瞬で首を蹴り飛ばしてやろう、そう思った時だった。

それは小さな、しかし大きな存在感を示した音だった。草を踏み、土を踏みしめ、何か硬い音を鳴らしながらこちらへと向かってくる。それも一つではない。百、いや二百はあるだろうと思われる。木に阻まれそれらの視認はできないが、脅威であることに違いない。それも『アレ』よりもずっと重要だろう。土精霊であるだろうから何かを彼らに喋るかもしれないが、その辺はルッツがいい感じに調整してくれるだろう。時間に差異が出るのもこの緊急事態では致し方ないことだ。

方向を僅か斜めに変える。全速力で走ると風の音で正確に周りの事を把握できない。大雑把に感じるのが精一杯だ。だから近づいていくというわけ、当然ながら近い方が聞こえるのだ。

大木を反射神経と運動能力のみでかわしていく。

もともと運動神経は悪くないものだったが、これは論外だ。なんか能力を自覚した時よりも滑らかに動けるような気がする。一対一ならば負ける確率は低いのではないだろうか。

緊急事態にもかかわらず思考が逸れていっていた俺だが、視界は確かにその音の正体を捉えた。

人型の二本足で直立したものだ。俺より少し高めだから約二メートルといったところか。しかし生き物とは到底言えないだろう。それは生物としてあるべき臓器がなく、肉がなく、皮がなく、表情がない。

それは、背後に一回り小さめのものを引き連れ、まっすぐこちらに向かってきていた。大きさなど極僅かな違いこそあるが、身体としては全く変わらない。特徴など存在し得ない。

それは骸骨だった。一度生を終えたであろうそれらは原因こそ、原理こそ分からないがまるで未だ生を主張するかのように歩いている。関節の部分が動くたびにこすれ合い、硬いものを叩きつける音が鳴っている。音の正体は間違いなくこれだろう。また、頭蓋骨であろう部分は一歩足を踏み出すたびに左右に揺れ、独特の不気味さを醸し出している。見たところ人間の骨格のようだ。人型のナニカの骨はない。もしかしたら人間の成れの果てのみがこうなるのかもしれない。

骸骨の一体あたりの強さを把握するために『真理』を使用しようと、木に登ってから近づく。万が一あれらにバレると絶体絶命だが、このままあれらが直進すると村と衝突する。どうにかできる可能性も充分に有るが、もしあれらが人間よりも強い力を持っているならその勝率は絶望的になる。俺はその情報を提供すべきなのだ。嘘だと疑われたなら……どうしようもないか。その時は『心戒』を連れて逃げよう。

ふと、ジャンパーのポケットをまさぐった。いつもならばスマホ、財布、リップ、ティッシュにハンカチと四次元ポケットと化していたのだが、今はそれらは一切入っていないのだ。なぜジャンパーだけは残っているのかは甚だ疑問だが、今気にしても仕方ないだろう。

ポケットをまさぐった俺の左手に、ネチャネチャしたものが付着した。原因はメジキネ草だ。あの草の説明を詳しく聞いておけばよかった。『真理』では情報が多すぎてまともに読んでいなかったのも原因だ。恐らく擦れ合うなどの刺激でこのネチャネチャしたものが分泌されるのだろう。そしてこれがケガに効くと……。なんでポケットに入れっぱなしにしておいてしまったのだろう。そしてなんで今のタイミングでポケットに手を入れてしまったのだろう。

少しイラっときた俺は、メジキネ草をポケットから取り出して捨てようとメジキネ草を掴もうとする。しかし掴めない。掴もうと力を入れるたびに滑ってしまうのだ。限りなく摩擦が無くなる、これを分泌することで自分の葉や茎が傷つかないようにしているということか。余計腹が立った。

気を取り直してあれらに近づく。このステータスが必ずしも正しいとは限らないのだが、目安にはなってくれるだろう。というか俺とルッツは知力が天元突破してるよな。世界が俺らの頭脳を認めてくれているとなると少し嬉しいものがあるかもしれない。気のせいか。

左手が何も掴めなくなってしまったので、右手だけで身体を支えながら木を渡る。枝から枝へ、木の幹を蹴り、わずかな歪みをも足場にする。大木ばかりだからなのか、葉の一つ一つもしっかりとしていて、音がなることもない。比較的簡単に『真理』が使えるであろう距離まで到達した時、突拍子もなく、本能が警鐘を鳴らした。

思わず足が止まる。が、向こうがこちらに気づいた気配はない。周りになにがいるわけでもない。居るならば耳が捉える。『希薄』だって意識さえすれば聞き取れるのだ。骨風情が俺の索敵能力を欺けるわけがない。そんなわけはないのだが、足は、本能は止まれという。あれに近づくなと。

だがあれらは何も知らぬと、まっすぐ進んでいく。これは千載一遇のチャンスだと必死に自分に言い聞かせ、『真理』を行使する。

――――――――――――――――――――

固有能力

・威嚇…範囲内の生物を恐怖させる。なんらかの方法で強さが露呈すると効果を失う。

――――――――――――――――――――

まるで蟻が食べ終えたカエルから身を引くように、恐怖が薄れ、消えていった。ステータスは人間でいう無能の域だ。あれらと俺は今のところ全く衝突していないが、それでも強さが露呈したと言えるのだろうか。性格、反射神経、技能テクニック、武具。社会的地位に資産、仲間の数や跡継ぎに知力。その全てを合計してようやく『強さ』と言えると思う。そもそも強さとは数値で測れるものだろうか。ある程度、それこそ十段階くらいなら可能だろうが、一の位まで精密に測定できるものではないだろう。それこそ気分ですら強さというものは変動するはずなのだから。

思考が逸れる、逸れる。気づいた時には最も大きな先頭の骸骨がこちらにその、かつて眼球なるものが存在したであろう二つの穴をこちらに向けていた。走って逃げれるだろうと思っていたのも理由にある。最も大きいこの個体で無能の域のステータスなのだ。他に警戒する理由はないだろうとタカをくくっていた。

しかし、物事は思わぬ方向へと進みだす。

――――――――――――――――――――

だいぶ不定期になってしまっています。本当に申し訳ありません。スマホぶっ壊れたのでまだまだ更新は遅くなりそうです。お金をください。

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