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0001 顔合わせ

気づくと俺は見知らぬ場所で寝転んでいた。周りは木が雑然と立っていて、日が木に隠れている。

周りを見渡して現場の確認を終える。そして正面に視線を戻すと、13,4歳くらいの男が起き上がったところだった。草むらに隠れて見えなかったのだろう。

その男は俺の存在を認めたようだが、気にしていないのか周りの確認をしだした。

相手の容姿はボサボサの茶髪に切れ長の眼だ。体の線は男らしくなく非常に細い。髪が短くなかったら女性と間違えてたかもしれない。身長は155位だろうか。

俺は事態の悪さに「「チッ」」…ん?

相手は俺と同じタイミングで舌打ちをしやがった。と認識した時に、

「なぜ舌打ちしたんですか?」

と聞かれた。俺の感覚に依る話だが、相手からはどうも俺と同じオーラを感じた。なんというか……仲間を見つけた感じだ。

「同時に言おうじゃないか。」

向こうも共感したのだろうか。俺と相手はせーの、と言い…

「「現状把握が不完全でない状況での他人との接触」」

俺と彼は大笑いした。まさか一言一句同じとは思っていなかった。

「周辺の探索をしましょうか?」

「もちろん。異変を発見したら…これを使え。」

彼の提案に俺は乗り、手元の雑草を抜いた。そしてその草でいわゆる草笛を作って手渡した。

「これは?いや、やっぱり説明はいらないです。息を吹けば音がなるのか……この方面の考えが……。」

「うわ、お前学者気質かよ面倒だな。」

前の世界にもそんな奴が居た。目の前にある事物が不思議で仕方ないと言ったやつ。

「ん、前のせか……?あっ、俺は……うっ、あああああぁあ!!!!!」

ついさっき、『1度目の死』の体験がフィードバックする。

腹部に走る激痛は刹那。

次に訪れるは腹部がそのまま上へと移動する感覚。

視覚には肋骨であろう赤くそまった物体が見えた。

激しい吐き気に襲われ、抗えずに吐瀉したものはなんだったか。

右目が内部から飛び、左目で自らの視神経を視認するという経験をした。

タイヤ一つ目で既に虫の息の俺には、あと四つのタイヤが残っていた。


――――――――――――――――――――


「おはようございます。気分はどうでしょう?周りに危険はないっぽいですよ。文字通り命懸けで探索した僕に平伏していただきたいものです。」

俺の目が覚めてから初めて聞いたセリフがこれとは、参ることこの上ない。

「何言ってんだお前。まぁ探索してくれたのはありがたい。なんてったって俺の目が醒めるまでここに居てくれるなんて正気とは思えないしな。見返りに渡せるものはないし、この恩は借り一つで収まるものか…。」

「大丈夫ですよー。僕が帰ってきてすぐ目が醒めたっぽいですからねー。」

「は?めっちゃ日傾いてるじゃねぇか。もうちょい分かりにくい嘘ついていただきたいものだ。」

俺は苦笑する。こいつは優しいのか打算的なのかまるでわからんな。

「そんなところで嘘つくメリットなんてありませんよ。貴方はずっと寝てただけですよ。」

とりあえずは納得しといてやろう。小さく頷いて話す。

「オーケーオーケー。貸し借り無しで俺たちは信頼関係が結べて幸せ。そういう事だな?」

「ハハハハハハ。流石ですね。是が非でも研究に協力していただきたいものです。」

「また今度な。ところでなんでお前はここにいるのかわかるか?」

「それが……。」

相手は言い淀む。数瞬後に覚悟の決まったような目をして言い放った。

「どうやら馬車にひかれて死んでしまったようです。」

俺は心底驚いた。なんたって俺と同じ状況の人間がいるとは想定していなかった。

いや、実際には可能性の一つとしてはあったのだが。

しかし、不思議な事が一つある。

「死んだと自覚したという事は、死んだ時の記憶が蘇ったんじゃないか?」

「ええ。馬に下腹部を潰された後、頭部がタイヤに絡まってヒモみたいになったっぽいですね。」

「リアルな描写いらねぇよ……。」

俺は血の気が引いた。こいつは自らの苦痛に疎いようだ。

「貴方は理由、分かりましたか?」

相手が青ざめた俺の顔を覗き込んできた。俺も話さねばなるまい。

「まずは自己紹介からさせてもらおう。俺の名は………」

そして俺は自分の経歴などの情報を渡した。

とは言っても、仕事がなんだとか、どんな感じで死んだかとかしか言っていない。

「質問良いですか?」

相手が言ってくる。好奇心が抑えられないといった表情だ。しかし、俺も相手の情報が欲しい。

「すまないが、先に君の情報を提供してくれないか?」

すると相手は薄い笑みを浮かべた。

「良いでしょう。僕の名前はルッツ。今年で16です。仕事は研究です。主に魔法の原理について研究しています。先ほども言った通り、馬車に轢かれて呆気なく死にました。貴方と組んでたら研究が進みそうですね。よろしくお願いしますね。」

そういうと相手――ルッツは微笑んだ。それは軽薄な笑みで、俺は震えた。

俺はルッツが恐ろしい…?いや、違う。これはもっと本質が違う震えだ。そう、俺は見つけたんだ。

「同類…。」

同類。同士。同種。ルッツは俺が求めてやまない、俺と双璧を成す頭脳を持つ男だ。恐らく向こうもそうだろう。

魔法だったり、見た目が13くらいなのに16と言っているところなど質問すべき箇所はある。とりあえずは認識の齟齬をなくそう。

「「質問…」」

またもセリフが被った。

「先にどうぞ。ヤツナギさん。」

「では遠慮なく。まず…」

ここで認識の食い違いを正した。主に違った常識としては

・ルッツは地球とはまた別の惑星、もしくは異世界人である。

・ルッツのいた所(仮として異世界と呼称)は技術レベルが低い。

・異世界には物理法則に逆らった法則があり、それを魔法と呼んでいる。

・人間以外の知的生命体も存在した。

・前の世界ではみんな魔法が使えたため、多分俺もできるということ。

・魔物が存在すること。

色々脅かされる事があったが、やはり一番の衝撃は魔法の存在だろう。目の前でライターほどの種火を出してくれたので狂人の戯言と一蹴出来ない。

逆にルッツは地球の『科学』に非常に興味を持っていた。さすが研究者といったところだろう。

なんでも、魔法の原理は全く解明されていないから、科学という根拠のある事象に触れる機会がなかったそうだ。

さて、恐らくルッツも気づいているだろう。

「さてヤツナギさん。愚痴らせてください。言葉が通じるのが仮にこの世界の法則だったとしたら、どれだけ僕たちの世界と違うのでしょうかね?それは僕たちにとって、どれほど致命的なものでしょうかね?」

「さあ、さっぱりだ。森の中だと魔物が出る可能性も否定できないだろう?まあこの世界では出現しない可能性も充分にあるけどね。」

そう、俺たちはこの世界の事を全く知らない。無論、同じ世界の可能性も無きにしも非ずだが、それは楽観視が過ぎるというものだろう。

「ああ、周辺には危険がないとしか言っていなかったですね。魔物の出現する条件として、魔力が充満していることが必要です。無論、法則が変更されていたり、別個体が存在する可能性がありますが、キリの無いことですから。」

確かにこの周辺の確認をして危険はなかった以上、さらに警戒をしてもどうしようもないというものだ。

空は、太陽の余韻を残しつつも黒ずんでゆく。夜がやってくるのだろう。

「さて、久々の早寝だ。時間を計る魔法とかないか?」

「あるにはありますが、ちょっと僕には…。」

「なら仕方ない。先に寝て良いぞ。月が最高到達点までいったら起こすからな。」

「月?」

「あの一際大きい星の……?」

俺が上を見上げても、月は存在しなかった。こういった固定観念は死へと直結しそうで怖いな。

「すまない、前の世界での話だ。しかしどうしようか。」

「僕が時間を計れたら良かったんですがね。」

「無いものをねだっても致し方な…っ!」

草を踏み分ける音がかすかに聞こえた。耳をすませば、東南の方角へ向かっている。車輪のような音も聞こえることから、知能を持った存在である可能性が高い。

そのことをルッツに小声で伝える。すると

「僕は身体能力に不安があります。実際僕にはそのような音は聞こえないですが、ヤツナギさんには聞こえるのでしょう?ならばヤツナギさんが適任です。ヤバイと思ったら僕とはぐれてでも逃げてくださいね。」

俺はルッツにいくつかの『合図』を伝えた。そして、了解のハンドサインを見せて、音の出所へと向かった。

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