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0018 四人の男と紅一点

夕刻。日は帰り支度を始め、生物はこれから襲い、覆うであろう暗闇に恐れをなす時間帯だ。

「すみません、村長さんはいらっしゃいますか?」

「村長……と言えるかどうかはわかりませんが、『心戒』様の代理として私がやらせて頂いてます。」

まぁ真理で見たから知ってるんだけどね。

「立ちながらで申し訳ないのですが、実は土精霊グノーメの集落へ向かったばかりなのです。集落には土精霊グノーメが居なくなっていてました。またその土地は肥えているため、農業なんかもできると思われます。どうでしょうか?」

「え、ええ?でもそんな……。」

うう、なんかめんどくさいな。

「えい」

相手の肩に触れて思考を誘導する。困惑と猜疑が大半を占める相手の思考を肯定的な思考へと誘導する。

単発的な誘導のみならばおそらく生き方を大幅に変えてしまうような事はないだろう。その後に疑問は残るだろうし、もしかしたらそこから俺の能力が推察されてしまうかもしれない。普通なら悪手だ。

でもね、もう説得するの面倒の極みなんですよね。仕方ない仕方ない。

「ううん、とりあえず数人を土精霊グノーメの村へと連れていきます。」

「分かりました。翌朝出発したいと思います。集合は『心戒』様が使われてる家屋の前でよろしいでしょうか。」

自称村長は首を縦に振る。

「では、そういう事で。」

「待ってください!」

話は終わったとばかりにこの場を去ろうとする自称村長をルッツが呼び止める。振り返る自称村長に、

「晩御飯をご馳走になれませんか。」

と言った。ついでに泊めてくれとも言っている。日本人の俺には難しい話だ。

なお、飯も寝床も貰えました。過ごしやすかったです。


翌朝、俺らが最も大きな家屋の前に到着すると四人の男性と一人の女性が先にいた。

「おはようございます。お待たせして申し訳ありません。」

ルッツは挨拶と謝罪を述べながら真後ろにいる俺に右手を空気を切るように振った。これは敵対は避けるという合図だ。敵意などの動物的な気配にルッツはやたら敏感なので、敵対するかどうかの判断関してはルッツに任せている。

「問題ありません。出発しますか?」

「はい。かなり遠いので、早めに出発しましょう。」

そう言って俺が先導する。実際はルッツを連れた集団ならば往復で丸一日はかかると思うのだが、それを伝えると3時間ほどで帰って来た俺に違和感、ひいては能力の特定に繋がる可能性があったので伏せた。まあ肉体的能力の向上なら見せるのは許容範囲だと思っている。その都度『足が速くなる』だとか『耳が良くなる』だとかで言いくるめる予定だ。

歩き出してすぐ、ルッツが話し出した。

「ここから彼らの村まではかなりあるそうなので、暇つぶしついでに自己紹介をしませんか?」

すると男が答える。四人いる中で一番背が高い。運動ができるようには見えないので、恐らく土精霊グノーメ居なくなった原因などを探るための人間だろう。

「息が切れるのは僕が最も早いかな?ではさっさと挨拶させてもらおう。僕は……」

そんな感じで全員の自己紹介を聞いた。俺が感じた中で一番警戒すべきと思ったのは四人の男のなかで最も髪が長く、目が細い者だ。正直に能力を言った人間が二人、完全に嘘をついたのが二人の中で、こいつは本当のことを言いつつ、別の能力であるかのように誘導してきた。

特殊能力とは別に人生経験でつく能力があると門番先生から聞いていた。彼には話術――門番先生も有していたもの――があった。しかもレベルが9。警戒すべきはこの者だろう。

そのまま何もない道を進み続ける。自己紹介の終わった今話すこともなく、息苦しい空間になっている。文字通り何もないので、暇を潰せるものもないのだ。できればこちらには行きたくないと思う。

そこからさらに二時間ほど、しりとりは言葉が通じてるメカニズムが分からない今言っても不審がられ、ここからずっと遠いところに住んでいる人間だと憶測が立ってしまうので却下。じゃんけんもこの辺にあるか知らないので却下。もうここに居ることがつらくて走り出してしまおうかと思っていたところにあの森が見えた。テンションが上がってつい、

「森が見えました。あと少しですよ。」

と言ってしまった。俺の視力が異常に良いことがバレてしまうと危惧したが、他の人達も辟易していたのだろう。あと少しだって、とか本当ですか?などと少しざわつく。俺もテンションが上がってるんだから致し方ない。

ちなみにルッツは俺の背中の上でダウンしてる。体力の無さも大概にすべきだろう。あと背の高い男もダウンしていて、唯一いた女の人に背負われている。情けなくはならないのだろうか。

ゴールが見えてきたことで歩く速度が上がる。俺はともかく女の人がかわいそうだから背の高い男は歩いた方がいいと思うんだけど。

「にしても良く見えましたね。俺はまだ見えませんよ。」

そういうのは四人の男の中で最も体格の大きい、太った男だ。こいつがあのひょろ長を持てばいいじゃないかとは思うが能力の差とは恐ろしく、女の人の方が力が強い。でもそれでも女性に荷物を持たせるってどうなの?

「目がいいですからね。要は気合ですよ。」

軽く流す。髪の長い男が太った男を睨んでいるが、太った男は全く気にした様子はない。この男、なかなか図太いようだ。

「このもやしいつになったら起きんの?置いてっていいかな。」

そう口にするのは女の人。紅一点だ。体格も比較的華奢に見え、どこからひょろ長とはいえ一人を持ち上げる力が出るのだろうと思う。でもルッツはその二万倍くらい不思議に思っているのだろう。

「ダメだよ、今こいつを置いて行ったら誰が考えるのさ。僕たちは頭悪いんだからさ。」

と髪の長い男が口にする。こちらを誘導しようとしてるのはわかるがこちらをチラ見するのは減点だ。また今まで黙っていたのにいきなり発言するのは不審がられる原因になる。間違いなく悪手だろう。

と意味のない解析をしているうちに、

「あ、あれだ!あれだよ!」

と背の高い男が騒ぎ出した。耳元で騒がれて腹が立ったのか女の人が背負い投げの要領で背の高い男を地面に叩きつける。そして背の高い男は気絶する。お前らコントをするためにここにきたの?

「今の騒ぎでルッツも回復しただろ、もう歩いてくれ。重い。」

「僕は軽いですしヤツナギさんなら余裕でしょー。もうちょいで良いんでお願いですって。」

「ダメ。もしもの時は俺が戦わなきゃいけないんだから万全の状態にしとかないと。」

そういうとルッツは渋々降りてくれた。駄々をこねる子供か、と思ったが歳的にはまだ子供の範囲だ。すっかり忘れていた。

「貴方って戦えたの?こいつと同じでひょろ長いけど?」

女の人が唐突に話しかける。どうやらこちらの話に耳を傾けていたらしい。

「幸い筋力が人並み以上にありますから。自分とルッツの身ぐらいなら守れると思いますよ。」

「そう。もしもの頼りにしてるよ。」

これで会話は終わり。少し物足りないが、こういう性格の人間なのだろう。致し方あるまい。

「僕は今まで何をっ!」と叫んで女の人に腕を捻り上げられている姿を横目に森の入り口に到着する。

さて、あの死体達をどう説明したものか。

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