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0013 秘境

俺は表に出て、土精霊グノーメの集落がある方角へと進みだした。

『心戒』曰く、土精霊グノーメは『温厚で、自分よりも我らを優先するような優しさがあります』とのこと。それは優しさじゃなくて馬鹿なんじゃないかとも思うが、今回はここにつけ込ませていただく。

ちなみにルッツはお留守番だ。『心戒』とともに他の村をまわる。まあ視察だな。

この辺り一面は草に覆われている。この中に一つでも食べれるものがあるのではないかと思うが、そんなことは一切ない。

実はこの雑草たち、栄養価がほぼないのだ。こんなんで育つのかと問いただしたくなるなるレベルだ。

なので、これを食したところで喉が乾くだけ。紙をひたすら食べていることと同義なのだ。おそらく人間側はこのような土地だと知って住まわせたのだろう。人間側はこういうところだけはよく考えている。

この偽人族フェイクマンの集落に接触するまでそれなりの時間歩いたが、どうもこの辺りは木が少ない。途中から路ではないところを進みだしたところに理由があるのだろうか。結界の外は死ぬ!みたいな。

閑話休題。

草と小さな木以外何もないところをただただ歩いて行く。変わったことは何もなく、強いて言えば少しずつ木が小さくなり、草で隠れていた地面が見えるようになったくらいだろうか。

退屈である。歩くときは耳を塞いで脳内で好きな音楽を再生するという、はたから見たら近づいてはいけないタイプの人間のような行動をしていた俺だが、それでも音楽のレパートリーに限界はある。かれこれ1時間ほど歩き続きた俺には退屈で仕方ないのだ。『真理』の練習をしようにも出る表示は紙に近い雑草たちと所々に生えるメジキネ草のみ。見飽きるなという方が無理な話だ。

仕方なしに走りだす。走ると他の感覚が鈍くなるので、あまり取りたい手段ではないのだが、退屈すぎて死ぬかもしれない俺にとっては仕方ないことだ。そう、仕方ないのだ。

前の世界では運動出来ないわけではなかった。部活もやっていたし。運動の仕方なんかもなんとなくわかる。

走ると景色が瞬く間に後ろへと過ぎ去って行く。正直走るたびに自分の人外さを感じるという事も、走りたくないことにつながっていた。口ではどうとでも言っていても、人ならざるものになったような気がして嫌悪感がこみ上げることこの上ない。人間じゃないやつと喋ることはどうしようもないちぐはぐさを思わせるため、できる限り回避したかった。あ、偽人族フェイクマンの方々は別だよ?人だからね。

走りだすと周りの状況の変化が目に見えるようになった。木が数十センチ毎に短くなり、雑草も10本、20本と数を減らして行く。段々と不毛の地のように変化して行ってるのだ。方向が間違っているか、あるいは……。

さらに数分。もはや木と呼べるものは存在せず、雑草もほんの所々に生えているのみである。が、俺の視力は奥に一部分のみ青々と茂る森があるのを発見した。

辿り着くとそこはまさにオアシス。その部分に生命を詰め込んだような木々、鳥のせせらぎに水の音。全ての木は大きく育っており、一つ一つが神木と呼ばれそうなものになっている。

俺がさっきとあまりの違いに愕然としていると、耳に足音が届いた。油断せずに足音の主を待つ。

現れたのは子供だった。腰に草を巻いただけの簡素というのもおこがましい姿だ。それ以外見た目に変わったところは何もなく、ちゃんとした服を着ればただの人間にしか見えないだろう。しかし、俺の目には、いや『真理』には、真実が見抜けている。

『真理』には土精霊グノーメの文字がしっかりと映されている。つまり、こいつは目当ての土精霊グノーメって事だ。『真理』が無ければ原住民と勘違いしててもおかしくない。そのくらい人間と差異がないのだ。

ところで、能力の欄に面白いことが書いてあった。これが故意か、はたまた偶然かはわからないが、どちらにしろ交渉のキーにはなるだろう。

「お兄ちゃんこんにちはー。困ってることない?」

その子供が聞いてくる。やはり『相手が困っている』という事がこの種族の考え方の根底にあると考えて間違いはなさそうだ。

「こんにちは。俺はクーって言うんだ。土精霊グノーメの一番偉い人に会えないんだ。手伝ってくれる?」

話し方に少しコツがいる。要するに手詰まりである事を伝えるのだ。俺はまだ土精霊グノーメの長を捜し始めてもいない。が、事態が困窮しているような伝え方をすると相手は困ってると勝手に勘違いしてくれるはずというわけだ。

子供グノーメは一寸の迷いもなく了承した。無論俺には理解できない考えだが、そういうものなのだろう。全く、反吐がでる。

前述の通り周りは木々に覆われていて、土の見え場もないほどびっしりと草が生えている。空気を調べれば有毒ガスが少なく、魔力が充満している。非常に澄んだ空気と言えるだろう。

実はここに至るまで、少し息苦しさを感じていた。表すならば、サウナに数十分と入っていた時と言えるだろうか。その時にも空気を調べたが、有毒ガスや何か害をなすものがあったわけではないが、魔力も、酸素濃度も平均よりも低かった。魔力に至ってはほぼないと言っていいだろう。

閑話休題。

まあ、超緑豊かだよーって事だ。ここまでの道のりと合わさって、山登りに成功したような高揚感がある。これからの事を考えると胃が痛くなるというか、吐き気を催すというか、そもそも俺は緊張に弱いたちなので、できればこんなことはやりたくなかった。でもルッツってコミュ力0だし……。

また思考が他愛ないものへと移り変わっていった。相手に敵意を感じなかったことで油断しきっていたのだろう。足を草に引っ掛け、盛大にすっ転んでしまった。非常に恥ずかしい。【サバンナなら死んでるよ】状態である。

最近俺は弛んでると思う。なにせ生命の危機と隣り合わせであるとはいえ、実感が湧かないのである。とはいえ一度は取り囲まれ袋叩きの憂き目にあいかけたし、本気の殺意を向けられたこともある。主に『敬仰』に。あいついつかひどい目に合わせてやろう。

そもそもなんで建国しようとか思い出したのだろう。確かに枠に囚われたくはないが、かといってあちこちを敵に回さなくてもいいだろうに。思考がいつもと違ったのだろうか。確かにあの時はテンションがどうかしてたような……。

まぁいい。今は足場を手に入れるところからだ。

「こっちだよー。」

目の前の子供グノーメが言ってくる。正直話して欲しくないが、そんな欲をわめき散らしてはいられない。

日本人、ひいては民主主義国家の人間は自らを押し殺し、全体のために行動する生き物だ。それはこの世界でいう種族の価値観の違いとなんら変わらないものだろう。強いていうならば民主人ドモクラシストとでも言えるだろうか。俺はその一員だったわけだ。多少の不満は押し殺せる。そういう生き物である。

ちなみにこの思考が始まってから終わるまでコンマ1秒もない。さすが俺だ。

子供グノーメは道無き道をスイスイと進んでいく。身体能力が飛躍的に向上している俺だからこそ追いつけるが、普通の人は置いてかれるのではないだろうか。そして困り果てると……。種族の不思議だ。

さっきから俺は足元や頭上にも気を配っている。そのおかげで草結びや蔦にくくりつけられた木の実なんかをいくつも見つけて、回避している。向こうからしたら舌打ちしたくなるような状態だろうが、どうせ考察の域を出ないのだ。能力から性質の予想がある程度つくとはいえ、土精霊グノーメという種族をより細かく知る必要があるだろう。


――――――――――――――――――――

更新が数週間にかけて遅れたこと、ここに深くお詫びさせていただきます。申し訳ありませんでした。

醜いながら言い訳をさせていただくと、私事ではありますが麻疹を発症しておりまして、もともと皮膚が人より弱い節、麻疹が治った後もじんましんが消えず、完治に時間がかかってしまいました。

書きだめもなく、これからも1日2日と更新されぬ日があるかもしれませんが、その都度更新時の後書きに謝罪と言う名の自慰を載せさせていただきます。

繰り返しになりますが、更新が遅れたこと、申し訳ありませんでした。

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