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0011 未開発の村

道中はギグシャクとした空気が流れていた。無理もない。向こうの種族からしたら僕たちはまさに怨敵。今すぐ細切れにしたいレベルだろう。

道のりが長かったら気まずさと心労で吐血するかもしれないと思いながら『敬仰』と『警鐘』に連れられる。どうでもいいけど『敬仰けいぎょう』と『警鐘けいしょう』ってダジャレっぽいよね。あれ?これはもしかするとダジャレ好きな俺に対するこの世界の祝福……!

そんな不毛な考えが脳裏を巡っていた中、『敬仰』がポツポツといった風に話しかけてきた。

「……俺の能力『敬仰』は、その名の通り敬仰に値する方に仕える事でその力を発揮する。主様と明確に敵対した場合に肉体的ステータスが三倍になる。こいつの『警鐘』は、一方的に相手が敵対状態になって、なおかつ一度警告した上でようやく発動する。相手を死に追いやれない代わりに武器の扱いに長けるんだ。」

一通り言い終わると『敬仰』は数秒口を噤んだ。しかし、覚悟が決まったのか顔をこちらに向けこう問いを投げかけた。

「…お前らの能力は『こちら側』なんじゃないか?」

『敬仰』はどこでそう思ったのだろう。確かに今までの常識からは俺らの力は明らかに離れている。はっきり言って人間だと言い切るとなると難しいだろう。

が、偽人族フェイクマンの定義に沿ってるかと言われるとそれもまた違う気がする。俺らは武力を行使すると明確に書かれた特殊能力ではないのだ。

「なんとも言えない。ただ、能力に秀でた人間を人間と認めずに隔離する理由がわからないですね。あなた方を用いればより領地を広げる事ができるだろうに。」

すると『敬仰』も『警鐘』もひどく驚いた表情をして、

「お前らは俺らを人間と認めるのか?」

ああ、こいつらは人間と偽人族フェイクマンの中で揺れ、自分を見失いかけてたのだろう。

「一つ質問させてもらいます。あなた方は何から生まれましたか?」

「は?そりゃお母さんの腹の中からだろ……?」

「お母さんの種族は?」

「人間だ。」

「人間から生まれたやつは人間に決まってるでしょう常識的に考えて……。」

「しかし生命神の罰であると考えたら辻褄が合うだろう!」

「何言ってんだお前は!神がいちいちお前なんかに構うわけねぇだろうが!」

「うっ…それは……。」

「それともお母さんは神罰を食らうほどの大罪でも犯したのか?許せないね。そんなクソ野郎から生まれたんならお前は人間じゃないね!」

「いい加減にしろ!いくら人間とはいえ許せぬ!ひき肉にしてくれるわ!」

そういうと『敬仰』は槍を構え、俺に向かって突き出される……直前で『警鐘』に止められた。

「この御仁は護衛対象だ。もし危険に晒すならタダではおかぬ。」

「……チッ!」

『敬仰』は無造作に槍を元の構えに戻し、こちらを睨みつけた。

「親を敬う気持ちがあるのに神罰が降るほどの大罪人だと決めつける。人間から生まれて、なおかつ人間でありたいと思うのに人間である事を否定する。お前の行動はちぐはぐだ。俺たちの能力の研究をする前に自分の事をしっかり知ってくれ。」

「……あぁ、自分と向き合う事にしよう。」

『敬仰』は不本意ながらも引き下がった。

俺が激しい口調で言った言葉は今の待遇に不信感と怒りを覚え、反人間派ともいうべき勢力の一員になるだろう。

さっきまで空気だったルッツが小声で話しかけてくる。

「なんでわざわざ煽ったんですか?」

「俺は集落にお世話になるつもりだが居心地の悪い集落は嫌だ。だから二分させ、不安分子を皆殺しにする。」

「前準備ってわけですね。了解しました。」

ゲームで良くやっていたテクニックの一つだ。クラン同士の戦争だと多くのしがらみがあり、結局下層の無課金の奴らとかが割を食う事になる。だから二つのクランをひたすら焚き付けて、まるで親の仇であるかのように思わせるのだ。俺の中でこれを『同盟喰い』と呼んでいる。

「さぁ、そろそろ着くぞ。」

数分後『警鐘』が話しかけてきた。目的地だ。俺らの目の前に15軒ほどのログハウスが見える。これがこいつらの集落だろう。

ログハウスは比較的綺麗に作られているが、道は獣道とさして変わらず、畑に至っては見渡す限りどこにもない。今通ってきた道は魔力の都合上魔物が発生しないため、肉が補充できないはずだ。一体何を食って生きているのだろう?

「さぁ、とりあえず『心戒』様の御自宅の客人の間まで案内しよう。ついてこい。」

『敬仰』はそういうとさっさと歩き出した。俺と『敬仰』が喧嘩もどきを始めてから俺らは会話らしい会話を交わしていない。恐らく俺の言った言葉を必死に飲み込んでいるのだろう。俺の思った通りの展開になってくれたらなお良いのだが。

この辺りで最も大きな家の前まで来た。とは言っても周りより一回り大きいだけといった具合だ。

中に入ると柔らかな木の匂いが鼻腔をくすぐる。恐らくヒノキだろう。隙間はなく、建築技術の高さが伺える。

さて、なんでこれだけの技術がある中、道は放りっぱなし、畑は一つも作られないほどひどい村なのだろうか?

「ここで待ってろ。」

『警鐘』はそれだけ伝えると、二人はいなくなった。

この部屋は特筆すべきものが何一つないただの部屋だ。家具は机と椅子とランタンの電飾。それらは良く掃除されている。この部屋はよく言えば清潔、悪く言えば空っぽといったふうだった。

ルッツにハンドサインで伝える。左人差し指を立てた状態でルッツに向け、左人差し指の腹に右人差し指を引っ掛け引っ張る。これは『行動に制限が掛かっている』という意味合いのハンドサインだ。

この中は言ってしまえば腹の中だ。監視があっても不思議ではない。近くに呼吸音は聞こえない。さっき通った家の中からは生活音であろう音は聞こえたが、ここからは何も聞こえない。しかし何か地球にはなかった法則があっても文句は言えない。例えば音を消す呪文だったり、遠くから監視できる魔法があっても俺にはわからないわけだ。

だからこそのこのサイン。これだけでルッツは今の状況を察してくれるだろう。

ルッツには今回置かれた状況、周りの地形や全速力で街までどのくらいかかるか、『敬仰』や『希薄』などの弱点などなど、解析に回ってもらった。

ルッツはコミュ力は真下に振り切っている。『敬仰』らと話させるのが不安で仕方ない。というかお話(殺し合い)が始まる。間違いない。

ルッツには『探求』という特殊能力がある。これは知覚した事物、事象を模倣するというものだ。この能力の使い方をちょっと工夫すれば『真理』と同じことが出来る。それはもう一つの特殊能力の『賢者』で、脳内シュミレートをする事だ。模倣するという事は解析をする事となんら変わらない。『真理』の上位互換と言えなくもない。ただ目に見えるように表示されないからどんなものかがわかりにくいだけなのだ。だが、『賢者』の脳の限界を超える能力で脳内に『状況を模倣』する事でそれらを理解できる。

特殊能力に関してはルッツの方が上なのだ。ただ俺の能力の汎用性が高いから目立つだけ。

まぁ、そんな事があったからルッツは現状把握を完璧に近い状態で終わらせているだろう。今のハンドサインは確認のようなものだ。ルッツは察しが良いから分かっているだろう。

そんな分かりきっている事を頭の中で反芻していると一人の女性が部屋に入ってきた。

その女性は美形と評される容姿をしている。だがそんな事は些事にしか感じなかった。その女性は清廉な気配をまとっていた。地球の現代には決して存在しないであろう、疑う事を知らない、澄み切った心を持つような風だ。

静謐な雰囲気を辺りに振りまく彼女はこう話し始めた。

「良くいらっしゃいました。『心戒』と申します。この辺り一帯の領地を人間の方から任されております。ご承知頂けましたら幸いです。」

――――――――――――――――――――

遅れた事、お詫び申し上げますm(_ _)m

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