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「秀治さん、もうすぐ木蓮が咲くよ」
木蓮の樹を見上げて振り返れば、そこに微笑を浮かべた秀治さんが居るような気がして。
でも、居なくて。
ずっと堪えていた涙が溢れた。
逢いたくて、逢いたくて、心が悲鳴を上げるけれど、馬鹿な事はしないと約束したから、いつか、俺を迎えに来てくれるのを待っている。
「あ、あっちで奥さんとヨリ戻してたらどうしよ」
そんな埒もない事を考えて、くすりと笑う。
たくさんの思い出と共に、いつかまた逢える日を、時々寂しさに痛む心を抱えて心待ちにしていればいい。
「ずっと、貴方だけを、愛してるよ……」
俺の囁きを聞くのは開き始めた木蓮の花たちだけ。