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「なんで、もっと早く……!」
「ごめんね。邦くん」
白い病室の白いベッドの上の彼は今にも消えてしまいそうで、俺は手を握り締めて立っていることしかできなかった。
それから、最後の日まで俺達はたくさん話をした。
「身体が良くなったら、海に行きたいな」
「約束だよ。でも秀治さん泳げないでしょ」
「僕は邦くんが泳いでいるのを見てる」
「えぇ?見てるだけなんてつまらなくない?」
「ずっと傍に居て、同じ物が見られたら、それでいいんだ」
果たせるかどうか分からない、むしろ果たせない約束ばかりが増えていく。
家に帰りたいと言う秀治さんの為に、医師を説得して自宅へ帰った。
それから暫くして、春の日差しが柔らかく辺りに降り注ぐようになったある日、秀治さんは俺の傍から居なくなった。