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9話 風魔法と土魔法

 ザッザッザッ


 草木をかき分けながら、目的地も無いまま数時間も歩き続けている。まだこの辺りはエルフ達がいつも狩りを行っている範囲内で今日はそれより先に進む予定を出発する前に話し合っていた。二泊三日の工程でスタートした捜索であるが、初日の数時間で既に俺の体力は限界に近い。当初恐れていた獣は一匹も現れず拍子抜けした後、歩き続けた事による疲労感がドッと押し寄せた結果である。


「疲れましたか? 一度休憩しましょう」


 シャトラの助け舟に「迷惑かけてすまない」と謝りを入れてから、近くにある木陰に身を隠し水筒の水を口に含んだ。


「アキノリさんはもっと鍛えないと駄目だ」


 そう言ってきたのはライラックだ。口数は少ないが言葉を出すと的確な事をズバズバと言ってくる。


「それは今日で十分思い知ったよ。土木作業なら要領を知っているから大丈夫だけど、何時間も歩くってのは余り経験してなくてな…… これ程疲れる事だったとは意外だよ」


「狩りの時はずっと走り回るんですよ。今日なんて楽すぎて欠伸が出ますよ」


 笑いながらシャトラが欠伸を出す真似をしていたが、俺の足裏が痛くてそれ所ではない。小休憩だけではすぐに痛くなるのは目に見えている。村を作ると安請け合いをした自分自身を呪いたくなる。


「今日はまだ歩くのか? 普段はどの辺りまで狩りに出ているんだ?」


 探りを入れるために話題を振ってみる。リーダーが俺なので実は出来るだけ休憩したいからだとは口が裂けても言えない。


「俺達もこの辺りまでしか狩りをしないから、此処から先は解らない」


「それじゃ、この先からは集中して周囲を確認した方が良いって事だな」


 ジンジンと足の裏に軽い痛みを感じていた事すら忘れて、未知なる領域を想像して期待に息を飲んだ。村を作る場所には幾つかの条件を事前に決めている。


 一つ目は平坦で広いな場所。これは村を作る上に大事な事だと言える。やはり平坦な場所は様々な物を作りやすく、住む人々も利用しやすい。更に平坦地では造成工事後の地盤沈下や地崩れなどの危険が少ない事が魅力である。地盤が固くしっかりしているとなお良い。


 二つ目は水場が近い事。川が近くに流れている。地面を掘れば水が出るなど、水脈に近い事は生活する上に重要だと言える。欲を言えば土地が肥えていれば完璧だ。エルフたちは小さいながらも畑を作っていた。土に水分が多いと栄養を貯めて肥えている場合が多い。しっかりとした硬い地盤で栄養が多い土地を探すと俺が矛盾している事は理解しているが、出来るだけ近い土地を探したい。


 最後は外敵から守れる地形。これはこの世界特有というか、シャトラとライラックから話を聞いているとどうやら獣は凶暴な種族が多いらしい…… 動く生物を見れば襲い。喰らうとの事で、俺がもしも一人で出逢えば確実に喰われる側に回るだろう。その為、夜も安心して休む事が出来る場所は重要だと判断した。


 それらを思い出して大きくため息をはく、理想は高く現実は厳しい。それを思うだけでため息が溢れ出てくる。

 その後30分程度の休憩を終えた俺達は未知なる場所へと足を踏み入れていった。未踏の地への侵入にシャトラとライラックも表情を引き締めて集中力を高めている。いつ獣に襲われても対応できる様な感じだろうか?


「雑草が多いですね。切り分けながら進みましょう。足を取られては獣に襲われた時に対応が遅れるかもしれませんので」


「シャトラの意見に俺も賛成だ。速度は遅くなるが仕方ないだろう。ライラックはどう思う?」



「俺もそれでいい。これだけ視界を覆われては魔法も使いづらい。今から風魔法で伐採しながら視界を確保して行く」


 そう声を返したライラックが呪文の様なものを唱えだす。俺は魔法を使う際には呪文など発しないが、普通は呪文が必要なのだろうか? 

 そうしている間に詠唱を終えたライラックが腕を水平になぎ払い声を発する。


「風の刃よ。草木を切り裂け!」


 ビュン!


 風斬り音が聞こえた瞬間、目前の草木が地面近くで次々と切断されていく。風の刃と呼ばれる魔法は緑色のブーメランに近い。回転する鋭い風の刃が勢い良く草木を切り取っている。


「おいおい。切れ味が良すぎるこんな魔法使われたら避けようがないぞ」


 他人の魔法に嫉妬してしまうが、風の魔法を駆使するライラックはそんな俺の心を無視して楽々と伐採作業を続けていった。

 それからは進路上の草木を伐採しては進み、また視界が悪くなると伐採する作業を繰り返しながら俺達の捜索は続けられる。

 作業で足が止まる為に進行速度はどうしても落ちてしまう、今回は余り遠くに行けないかも知れないが、ライラックの強さも確認出来た、何も見つからなくても捜索に出た価値は在ると思っていた。


-------------------------------------


 ポツポツと雨が頬にあたる。空を見上げると黒い雲に覆われた空からは少しづつ雨が降る勢いが増して行くのが解る。


「ヤバイな…… 何処かで雨を凌げる場所を探さないと」


 俺は周囲の木陰に隠れようと目を配り雨宿りの場所を探していると、背後からシュトラの声が届く。


「アキノリさん、雨宿りなら僕に任せて下さい」


「シュトラか? 何かいい場所を知っているのか?」


「いえ場所は知らないけど、場所なら作れます」


 そう言うと、両手の手の平を胸の前で合わせて、呪文を唱える。


「大地に願うは大きく高い祠」


 そう呟き、合わせていた両手を放して大地に手の平を押し当てた。すると地面がモコモコと動き出す。高さは2mを超えた程度で横幅と奥行も2m程度の正方形の箱を形成する。正面は空いている為にそこから俺達が入ることが出来る。


「土魔法はこんな使い方が出来るのか? これなら土で家を作った方が早いんじゃないか?」


 ふとした疑問を口にすると、シュトラは笑いながら答えてくれた。


「魔法は魔力が切れたら元の形状に戻ってしまうので家は無理ですね。持って精々1日って所です」


「そうなのか…… 魔法も全能って訳でも無いって事だな。でも魔法で道を整備した場合はどうなんだ? 魔力が切れたら元にもどるのか?」


「そうですね。魔法で道を作ればそうなると思いますが?」


 魔法に付いてはもっと勉強した方がいいだろう。使い方次第では様々な事が出来るはず、今はそれだけ理解れば十分である。

 その日はシュトラが作った箱の中で休む事を決めて、明日はもう少し奥へ進む事となった。

 夜はシュトラとライラックが交代で見張りをしてくれるようだ。俺も見張りをすると言ってみたが、戦えない者が見張りをして獣を見逃す方が危険との事で却下された。今回は彼等に甘えようと思う。


----------------------------


 翌朝、朝食を済ませた俺達は森の奥へと進んでいく。予定は昼過ぎまで捜索を続け、その後は来た道を戻る手筈だ。その為昨日よりも速度を上げて進んでいく。朝一から一時間程度進んだ所から木々の姿が見えなくなり、乾燥した地肌が見えている場所に出ていた。この辺りの土は岩盤質なのかも知れないと予想する。


 その茶色い土も更に奥に進むにつれてドンドンと白っぽく変わっていく。俺は新しい村の候補の事よりもなぜ白くなって行くのがが気になっていた。


「この辺りは殆ど白色じゃないか…… しかも硬い…… 何だこの岩盤は?」


 石は仕事でも色々扱って来ていた、花崗岩や御影石など種類も多く扱ってきたがこの白色はまだ見た事が無い。俺は一番白くなっている場所で膝をつき地盤を手で触ってみる。


「これは岩だな…… シュトラは魔法でこの岩を削り取る事は出来ないか?」


 俺の横を歩くシュトラにそう声をかけた。シュトラは俺が岩を欲しがっている様子に奇妙な表情を浮かべる。


「この白い岩が欲しいのですか? 大丈夫です。ちょっと待ってて下さい。 そう言うとシュトラは魔法で大型のハンマーを作成し、地面に向けて叩きつけた」


ガツン!!


 大きな音と共に、地面の岩の一部がポロリとこぼれ落ちた。シュトラはそれを拾い俺に手渡してきた。


「これで良いですか?」


「まぁ、これで良いんだが…… 魔法でもっと簡単に取れないのか?」


 素朴な疑問を投げ掛けてみる。土魔法なら土を切り取る位は造作も無いと思っていたからだ。


「魔法で切り取った土は魔力が抜けると消えてしまいます。ですから実物が欲しい場合は実際に掘るしか無いんですよ」


 魔法の弱点の一つを見た気がした。それから少し辺りを捜索した所で予定の時刻となる。俺達は今回の捜索はここ迄と判断して戻る事を決めた。俺が持ってきた手製のリュックの中には拳大程度の白岩が入っている。

 俺はこの白い岩を見て、ある仮説を立てている。この岩が俺の予想した物で在るならば、この先の仕事で必ず役に立ってくれる筈だ。家に帰れば早速それを調べてみたい。

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