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8話 信頼と依頼

 俺が作り上げた道は瞬く間に村中の人達が知る事となる。小さい村だけに次の日には全ての村人は道を歩いては驚きの声を上げていた。


「まぁ、平坦な道で本当に歩きやすいわ」


「おい見てみろよ。階段の高さが全て同じだぞ」


「へぇ~。この柵に手を置くと楽に坂道を登る事が出来る!」


 様々な感想が飛び交う中で俺はニヤけた表情でそれらを見ていた。満足が行く作品を評価される喜びは格別である。

 村は人が踏みしめて自然と形になった凸凹の道しか存在しない。歩く摩擦で土が掘れ、木の根が地表に顔をだし躓く恐れがある道や雨が振ると水たまりが出来て歩けない場所ばかりの道に比べると俺が作っった道は次元が違うと言えるだろう。テラも手を叩きながら驚いて歩き回っていた。


「なぁ、提案だが…… アキノリ君に俺達の新しい村を作って貰わないか? そうすれば村はもっと良くなると思うんだ!」


 何処ともなくそんな声が上がると、同意の声が次々とそれに続く。そしてその声に後押しされる様に年配のエルフが俺の元へと歩いて来た。彼はこの村の村長だった筈。一度テラに紹介してもらっていたので、俺も記憶に新しい。


「アキノリよ。皆も言っておる事なのじゃが…… 村の人口も増えてきており、以前から移住の提案が出ておった。そこでじゃ、お主にその候補地を探して村の地盤を作り上げて欲しい。勿論働いて貰っている間は我々も君が村で生きていける様に協力しよう。

 お主には我々が知らない知識が在るようじゃし、もし良ければの話なんじゃがどうだろう?」


 それは願ってもない提案であり、やっと自分の仕事を見つけた瞬間でもあった。狩りの知識もなければ農作業も満足に出来ない。そんな俺がやっと世話になった人々に恩返しが出来る。

 俺はお礼を言いながらその提案を受け入れた。テラは俺の手を握り上下に何度も振りながら、俺よりも喜んでいた。


「チッ」


 微かに舌打ちする声が聞こえる。

 村人が歓喜の声を上げる片隅に俺を睨みつける視線を感じる。その視線を追っていくと狩りを生業としている青年エルフのグループだと解る。彼等は何故か俺に良い印象を持っていないようで、ずっと睨まれていた。


(理由は解らないが…… 彼等には好かれていないみたいだ。触らぬ神に祟り無しって言葉もあるし、今は出来るだけ接触を避けた方が無難だな)


 次の日より俺の新しい仕事のスタートだ。


----------------


 村の造成工事は大規模で1人でやれる仕事量を超えている。なので今回は俺の指示で動いてくれる若者を2名付けてくれた、2人共魔法を使えるらしいので魔法と言う桁外れの力を上手に使えば大丈夫だろう。


「シャトラです。土属性魔法が使えます」


「ライラックと言います。魔法は風属性、よろしくお願いします」


 村長の家で紹介された2人は礼儀正しく頭を下げてきた、それに釣られて俺も深々と頭をさげる。


「俺はアキノリ、魔法が使える協力者が出来て嬉しいよ。俺は水魔法が使えるから、それぞれの役目も変わってくる筈だ。迷惑も掛けるかもしれないけど、お願いします」


「貴方が作った道を見て感動しました。是非協力させて下さい」


 彼らは素直で礼儀正しい、良い人材と巡り会えたと村長にお礼を告げた。

 その後、村長宅を後にした俺達は俺の家で打ち合わせを行う為に集まる。まず最初に全く知識の無い2人に工程の説明を行うつもりだ。

 仕事はイメージだと以前先輩に教えて貰った事にある。この作業が終われば次は何を行い、その作業はどの様な物なのか? それが分かれば使用する道具も先回りして準備する事ができる。


 その為に工程や作業説明には時間が掛かっても理解するまで行う。


「先ずは候補地の選定その後に村の図面を作ろう。図面は知っているかい?」


 部屋に一つだけある円形のテーブルに椅子を設置し、3人が向かい合う形で語りかける。


「図面ですか……?」


 2人のエルフは互いに見合いながら、相談していたが遂に答えが出る事は無かった。俺はマクベスの家へ向かう道を作った時に採取したデータから簡単な平面図を作っていたのでそれを彼等に見せてみる。


「これが図面だ。仕事はこの図面と呼ばれる絵に合う様に作って行くんだ。この図面は事前に地形や敷地を図って作られているから、ちゃんとやればこの図面と同じ物が出来る筈、がんばろう」


 ある程度理解してくれた筈なので、次の説明に移る。まず最初にやる事は前回と同様に測量の作業だが、彼等に測量と言ってもきっと理解出来ないだろう。なので図面を作る為の作業として俺が指示を出し、彼等に動いて貰う事となった。


「先ずは場所の選定だから、村の周辺を明日から捜索しよう。俺は村の外の事は全然知らないから、頼りきりになると思うけどお願いします」


「解りました、村の外には獣も出るかもしれません。ですから装備は整えた方がいいかもですね」


一人のエルフに言われた言葉で俺の額から一筋の汗が流れ落ちる。

 異世界の獣を想像してみると、ボキャブラリーの少ない俺はケルベロスの様な異様な物ばかり想像してしまい、恐怖で背中がブルブルと震えだす。


「アキノリさん大丈夫ですよ。俺もライラックもいるので、この辺りに出る獣はそんなに危険な奴もいないし」


 シャトラの言葉にホッと胸をなでながら、装備の事を聞いてみた。


「俺は装備を何も持っていないけど、何処で手に入れればいいんだ?」


「俺とライラックが使っていた物が余っている筈なので、それらを合わせれば十分足りると思います。早速今から取りに戻るので待っていて下さい。ライラックもそれでいいかな?」


「あぁ、装備は余っていた筈。在るだけ持ってくるよ」


 二人は俺の家から飛び出して行った。どの位で戻って来るのか解らない俺は、手持ち無沙汰を誤魔化す様にマクベスから教わっている水のジャグリングを練習しながら時間を潰す。


 以前より少しだけ上達しているジャグリングは不規則な軌道を描きながらも、ゆっくりと手のひらの上を交互に回転している。


「へっチョットは上手くなって来たかも。まだマクベスさん程じゃあ無いけど練習を続ければ何とかなるかな?」


 クルクルと水球を操作しているとすぐに飽きてくる。同じ作業の繰り返しは面白くない。俺はジャグリングを続けながらも何か違う事が出来ないかを考えてみる。


「うーん。何をしよう…… 取り敢えず、ジャグリングを止めない事は絶対条件でプラスα何かを加えたい……」


 空いている方の手で顎を撫でながら、考えていると在る事を思い出す。それはマクベスが俺に教えてくれた、俺の体に在る水属性以外の力の事だ。水球を操作する為には水属性の力を手に送り続けている。それじゃ今使っていない魔力は違う力になるのだろう。

 探ってみると様々な魔力がただ体を巡って動いているのを感じ取る事が出来た。それを理解した俺は在る事を思いつく。


「……混ぜてみるか?」


 ポツリと言葉がこぼれた。水の魔力に違う魔力を混ぜてみる。やっていいい事なのか解らないが、ちょっと位なら大丈夫だろうと勝手に判断を下す。


「それじゃ、水の次に多い魔力を少しだけ…… 手の方へ……」


 体の魔力に働きかけ、水と混ぜて送り出して見ると、水球にある変化が見て取れた。


「これって…… 水球の中で泡がもの凄く出ている。もしかして沸騰しているのか?」


 水球は鍋で水を沸騰させた時と同じ様にブクブクと下から上に向かって泡が立ち上っている。そして物凄い水上気が水球の上に立ち上る。

 試しに空いている手の指で水球を触ってみてみると、ビックリするほど熱く飛び下がってしまった。

 その結果、俺が操作していた水球は空中で破裂し、床に熱湯が注がれる。


「アチチ! やはり間違いない! 魔力を混ぜたら熱湯になっている。もしかして他の魔力を混ぜるとまた違う事が起きるのか?」


 確信に近い予想を行う。マクベスにも相談したいが、俺は異世界から来た。自分が出来る事が普通の事なのか? 規格外の事なのか解らないので、迂闊に動くのはヤバイ。取り敢えずの間は一人で試行錯誤していく方が良いと答えを出した。


 その後、シャトラとライラックが装備を抱えて戻ってきた。2人に装備を選んで貰い。明日村の外に出て場所を探す事を話し合って今日は終わりとなった。


 村から遠く離れる事に不安も感じるが、それ以上に楽しみという気持ちが溢れてくる。

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