7話 水魔法の使い方
本日最初の作業は測量である。測量とは平面的な長さや縦断的な高さを調べて、数値化にする作業だ。測量ではじき出された数値を基に図面を作る事を作図という。
測量作業は2名で行うのが基本で1人は計測機器を操作し、もう1人が計測ポイントに視準器やメジャーをセットする。
今は俺1人しか居ない為、2人作業を1人で行わなければいけない。気合を入れて作業へ取り掛かる。
まず最初は伐採した土地に適当な感覚で木杭を打ち込む。この木杭の場所で高さや距離などを測量して行くので、イメージに近い場所に打ち込んで行く。
木杭は昨日伐採した木をスライスして大量に作っている。使える物は全て使った方がいいだろう。打ち込んだ木杭には数字を記入して分別化していく。
次に俺は3本の棒を三角すいの形に成るように組むと、上部を紐でしっかりと縛る。縛った交点の先は数十センチ程度、棒が延びるいる状態で野球の記念ボールを置くスタンドの形だ。
今回はボールの代わりに三脚に魔力を流しながら作った水玉を丁度半分に切った形にして置く、下部が球状なのでスタンドの上にしっかりと固定する事が出来た。上部は平面なのでその上に俺は水魔法で蓋をした木製の筒を浮かべる。
コップや桶に水を入れた場合に水面は必ず水平を保つ。なので今回俺が浮かべた筒は今、水平だと言える。
「よし、筒の動きが止まったな! その状態で固形化」
俺のイメージを通して内部を流体にしていた半球体をガッシリと固め筒が動かない様に固定させた。
「後はレンズを付ければ…… 確かレンズは対物側が凸型で接眼レンズが凹レンズがだったな?」
俺は魔力操作で筒の両側の穴を水を加工して作った擬似レンズを貼り付け覗いてみる。筒を手に入れた時から練習していたので、どの程度のレンズを作ればいいか大体理解していた。
「おし、見える見える。倍率はこの位でいいだろう。後は対物レンズに十字の印をつけて完成だ」
今回作ったのは高低差を測量する時に使うレベルと呼ばれる機器である。簡易ではあるが今回使用するには十分だ。
俺は空いている片手から細い水を出して先端にロープを掴ませる。そして蛇の様に操り、先程打ち込んだ木杭の場所で垂直に飛び上がらせた。
「おっし、見える見える。えっと基準点の読値は…… 1m30cmっと」
杭の場所の地盤に0cmを当てて反対側を空中に上げてメモリを読む。一つのポイントが終われば次に打ち込んだ杭の場所で同じ事を繰り返す。幾つかその動作を繰り返した時に俺はある異変に気づく。
「あれ、魔法が上手く操作できない。魔力は放出せずにまだ手と繋がっているのに何故だ?」
20m程度離れた場所位から水の操作が出来なくなっていた。多分これは距離が離れすぎた為に起こっている可能性が高い。そう判断した俺はレベルを移動させて再度設置を行い再び木杭の高さを測量していった。
全ての杭の高さを図った後は木杭間の距離を図っていく。先程と同様に水魔法でロープを運ばせている為、俺自身が歩かなくても測量する事ができる。
「おし、取り敢えず図り終えた。んじゃ一度計算してみるか!」
そして胸ポケットから関数電卓を取り出す。これは俺が転移された時に来ていた制服の胸ポケットに入れていた物で電源は太陽光で光がある所なら使用する事が出来る。現場監督の必須アイテムだろう。
「1~2間は距離が20mで高低差が3m50cmっと、と言う事は…… 勾配が17.5%か…… これはキツい勾配だ。
幅員は2mは欲しいな! それで勾配を歩き易い様に8%固定で計算すると…… 1.9m階段を作ればいいのか…… マクベスさんが辛くない様に蹴上がり高さを低く設定し一段10cmで計算すると此処は19段だな」
テラから貰った紙に計算した結果やフリーハンドの図面などを書き込みながらスパン毎の計画を立てていく。
全ての計画が出来上がればそれに従って掘削作業を始める。生憎作業員は俺しか居ないだが計画を作った本人が作業するのでゆっくりだがスムーズな仕事が出来るだろう。
昨日伐採した木材で作った木のスコップを手にして俺は地面に深々と突き刺した。予想通り、豆腐に箸を入れる様に抵抗なくスコップが地面に突き刺さる。
このスコップも周囲を高圧の水を回転させて使用している。土を掘っているのはスコップの力では無く、高圧で回転する水の力だ。強化魔法の力も借りて掘削作業はドンドンと進んで行った。
掘り起こした土砂は通路の邪魔にならない場所に置いていく。階段部分は一箇所10段までとし、1~2間20m区間で2箇所作成する。それ以外は一定勾配の緩やかなスロープだ。一定の距離を掘削すれば高さをレベルで確認する、平坦性も考慮して作業を進めていく。
今回階段は臨時で伐採した木材で平板を作り、重ねる様にして代用している。本当は石材が良いのだが、手頃な石が見つからない為の代用品だ。今後石を見つければ交換すればいい。平板には滑らない工夫として切り込みを入れてグリップ力を高めている。
いつも集中すると回りが見えていないと注意を受けていたが、今回は止める人がおらず、気づけば夕方になっていた。今日は全体の1/3程度仕上げる事が出来たので、明日朝からやれば完成する筈だ。
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次の日朝から夕方まで掘削や床付け、階段の設置などを行い続けて何とか夕方に新しい道が完成した。
今回は丘の頂上に家が在る為、丘の傾斜に沿ったジグザク状の道を作り上げた。商業施設でよく見かけるバリアフリー対応の道と同じである。
そうしないと緩やかな勾配を維持出来なかったからだ。ジグザクに曲がる場所には踊り場を設けて休める様にしている。後は転落防止の柵を取り付ければ完了する。柵も木材を加工する事で何とか形に出来るだろう。
「後少しだ。やっぱり土木は楽しいなぁ~」
久しぶりの作業に感激しながらその日の作業を終えた。
最終日に俺は水魔法で道の端に穴を開けながら転落防止柵の支柱を打ち込み支柱の上部に手すりの木をくくり付けて行く。これは素人の仕事に近いが俺の専門は土木で在るため仕方ないと言える。
全ての作業を終えたのは昼を過ぎた頃であった。
「やった~ 完成だ!!」
雄叫びを上げ両手を空へと突き上げた。嬉しさの余り強化魔法を駆使して何度も自分が作った道を往復して行く。
「うん。歩き易い、走っても大丈夫だ! これならマクベスさんも歩ける筈。早速呼んでこよう」
強化魔法を掛けたまま最高速度でマクベスの家へと向かう、そして家にたどり着きノックも忘れてドアを開いて家の中へと飛び込んだ。
「マクベスさん!! 出来ました。 俺が作った新しい道です!」
「やけに早いのぉ なら早速見せて貰おうか」
椅子に座り本を読んでいたマクベスはパタンと本を閉じてゆっくりと立ち上がる。そして俺と共に新しい道の所までやって来た。
「ほ~ これは見事な道じゃわい。 美しいと言えば良いのか? 規則的な導線が続いておる。ワシの膝が余り上がらない事を考慮してか…… 階段も一段一段が低く作られておる」
「一度歩いてみて下さい」
「ふむ、そうじゃな、ならば一度歩いてみるか。 ほほぅ、この木の柵に手を掛けて進めば下りも安全に歩けるぞ。そして下りでも膝に負担が少ない様に緩やかで一定勾配を保っている…… とても良い道じゃ。
だが…… アキノリよ、お主一体何処でこの技術を学んだ? 何を隠しておる?」
「マクベスさんが歩き易い様に一生懸命考えただけですよ俺は自分の考えで作った。それでは駄目ですか?」
「……まぁ、それでも良いわ。この道のお陰でワシも家から出歩く事が出来る。本当にありがとう」
これだ、この感謝の言葉を待っていた。工事が完成した時に掛けられる「よく出来ている有り難う」この言葉を聴くと全ての疲れが吹っ飛んでしまう。
拳を強く握り「ヨッシャーッ!」っと声を上げて俺は喜びを表した。