6話 作業開始
翌朝、昨日と同じ位の時間から行動を開始すると俺は早速マクベスの家に向かう。
今日から道路を作る準備を開始するつもりだ。既設の獣道を通りながら周囲の地形や木々の様子を観察して行く、イメージは出来上がっているが実際にそれが建設可能か確認する必要がある。
木々の数は多いが幸い見た感じだと俺が計画した通路は設置できそうな雰囲気であった。その事にホッと胸を撫で下ろし、今日作業する箇所を見切りつけて行った。
「それじゃ、先ずは伐採からやるか! 一応草刈機やチェーンソウの代わりになる物は考えたが上手くか?」
丘の頂上までやって来た俺は、持ってきた一本の棒を握ると手を介して魔力を注いだ。水属性の魔力が棒を伝い突端で円盤状の形を取るとゆっくりと回転を始める。体外から放出された魔力の操作は難しいが体と繋がっている場合はそれ程難しくは無い事を俺は今までの経験で知っていた。
本当は難しいのかもしれないが、俺には相性がよく結構簡単に出来ている。
ヴィィィン
円盤の外周部分には草刈機の刃と同じようなブレードを形成してつけている。俺は魔法による擬似的な草刈機を作り上げたのだ。刃の厚みを出来る限りに薄くし、最大の圧力をかけると水の刃は高圧の刃と化す。これは訓練中に試行錯誤の末に気づいた事だ。その時に閃いたのが水の切断工具で在る。
試しに足元の草を刈ってみると水の円盤に触れた草が抵抗なく切断されているのが解った。次に少し太めの小木に勢い良く立ててみるとバターをナイフで切断しているかの様に2つに分かれる。
「これならイケる。よっしゃ! ドンドン刈っていくぞ」
頂上から麓に向けて、草刈りを開始した俺は作業範囲に掛かりそうな部分の木々をドンドンと狩っていく。細い木は草刈機で太い木は棒の周囲を回転させた擬似チェーンソウで切断する、刃を大きくし、力強く木棒の周囲を順序良く走る水の刃は大きな木も切断して行く。倒れた草や木は強化魔法を使って範囲外へと運んでいく。
ズドンッ!! 大木が倒れる音で家からマクベスが飛び出して来た。
「一体何の騒ぎじゃ!!」
作業音に気づいたマクベスは一心不乱に作業をしていた俺を見つけて何やら叫んでいる。
「ん? どうしたんですか~!?」
俺は頂上から15m程度降りた場所で作業をしていたので頂上で騒ぐマクベスに向かって大声で叫んだ。
「何じゃその魔法は!? さっきから見て居れば水魔法でそんな使い方見た事がないぞ!!」
「あぁ、木や草を刈る為に考えたんですよ~! 便利でしょ? まだ作業の途中なんでもう少し音が出ますが我慢して下さい」
それだけ伝えると再び作業へと戻る。マクベスはまだ何か叫んでいたが、これ以上時間をロスする訳にも行かない。彼の事はスルーして俺は麓に向かって木々を狩り続けて行った。
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「アチチ、汗をかき過ぎて気持ち悪い……」
そう呟き片手の手の平をを天に向けると、水を空に向かって吹き出させる。水は重力に負けて一定の高さから地上へと降り注ぐ、放出された水は魔力の減少と共に消えていくが、水を出した後すぐに消える訳では無いひんやりとした水が俺の体から熱を取ってくれると共に汗も流してくれていた。
「気持ちいいぃ。 後半分だ、一気に行くぞ」
この草刈りの魔法は魔力を一度放出し、それを維持している為に魔力消費も少ない。魔力燃費に優れた魔法だといえる。
マクベスの家から麓までやく50m程あるが道を作る予定の場所の抜木作業に一日を掛けて何とか終了させた。今回一番驚いたのは魔法の有用性である。この世界には無い機械の代用として魔法は想像以上の効果を叩き出していた。自分自身には強化魔法を掛けて重機の様な作業効率を叩き出し、道具は水魔法で代用する。
その結果が日本では10人以上の作業員と重機を使わないと出来ない作業をたった一人で完遂できた事実だ。
「魔法ってスゲー! しかも魔力を放出しなければ、コントロールをする事は精神的に負担はあるが、魔力の消費が抑えられて燃費も良い。これは慣れれば一人でも大きな仕事が出来るかもしれない」
取り敢えずは工程以上の進捗を叩きだした事に満足をした俺は頂上から作業をずっと見ていたマクベスに手を振り、今日の作業を終えた。
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家に帰ると明日の準備に取り掛かる。明日は伐木した箇所の測量作業だ。たった一人しか居ないが、一人で測量する方法も既に考えてある。
筒を手に取り試行錯誤を繰り返して居ると、テラが定時の夕食を運んできてくれた。
今日も二人で食事を取りながら作業の事を話していく。テラも楽しそうに聞いてくれていたので少々調子に乗って話してしまった。暗くなる前にテラも自分の家へと帰り、俺は再び作業に取り掛かる。
「よし完成だ。水魔法で本当に良かった…… 他の属性だときっとここ迄出来ていない」
何とか形になった事に満面な笑みを浮かべ、俺は水魔法に感謝をする。自分が出来ることなど土木建築の知識くらいしか無い、その知識を活用するには水属性魔法が必須だとこの時気づいた。
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真っ暗な部屋の中で蝋燭の淡い光が揺らめいている。周囲は耳が痛くなると勘違いしそうな程に静かだ。目を閉じて座り、意識を体の中へと向ける。そして体の中で縦横無尽に動き回る魔力を操作していく。
マクベスの教えを受けだしてからの日課である。最近良く解るようになったが、俺の体内にはマクベスが言った様に幾つかの魔力が存在しているようだ。水を出す時には全く動かない魔力達は一体どんな力があるのだろう。指示を出せば体内を動き回るが、放出しようと指示をだすがそれは通らない、きっと彼等にとって無意味な指示を俺が与えているのだろう。この魔力達の本当の使い方を知る事ができれば、きっと今日以上の事が出来る。そんな予感がしていた。
「ふぅ~ 今日は此処までにしとこう。明日も早い今日は此処までだ」
蝋燭の日に息を吹き掛けて火を消すと辺りは真っ暗な闇に包まれる。手探りでベッドを探して寝転ぶと窓の隙間から空から零れそうな位に輝く星が見える。日本で居た時は見る事が出来ない美しい星々に包まれていた。