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5話 準備

 早朝目が覚め窓に視線を向ける。

 もう少しで朝日が木々の隙間からから顔を出す頃で辺りはまだ薄暗い。そんな事は気にせず大きめの袋を持って、俺は家から飛び出した。


 向かう先はテラの家、俺の家のすぐそばにあり歩いて2~3分程度でたどり着く。エルフ族の朝は早い、きっとこの時間でも起きている筈だと考えていた。

 ドアの前に到着した俺は近くの人達に迷惑が掛からない様に音を立てない様、軽くノックをする。

 

 コン、コン、コン


 すると家の中からガサガサと音が聴こえてきた。やはりテラは起きているみたいで、ドアに向かって近づいて来ている気配がドア越しでも解る。


「はーい。誰ですか~?」


 ドアを少しだけ開けヒョイっと顔を出したテラはまだ家着のままで、何時も着ている服よりラフな感じがする。

 そう言えばテラの家のに来るのは初めてだと気づく、俺が看病を受けた場所も空き家だと後日教えられていた。


「アキノリ? どうしたのこんな早くに!?」


「朝早くに申し訳無いけど、長くて丈夫なロープと筒の様な物を探しているんだけど持ってないかな? マクベスさんの家へ向かう道を直したいんだけど、その作業に使いたくって……」


「うーん、ロープに筒かぁ…… ゴメン此処には無いかな。あっでも、木工師のフェンスさんなら持っているかも…… 今はまだ時間が早いから後で私が紹介してあげる」


「そうして貰えると助かるよ。じゃあ時間をずらしてまた来ればいいかな?」


 少し考える素振りを見せていたテラが何かを閃いたみたいだ、手を叩いて晴れやかな表情を見せた。


「そうだ! まだ時間が早いから私の家で朝食でも食べない?」


 グゥ~


 そう言えば、まだ何も食べていない事に気づく。食事の話を振られて俺の意思とは関係なく体の方が反応していた。


「あっ お腹が勝手に!」


 恥ずかしさで額から汗が玉となって溢れている感じがする。俺は誤魔化すようにお腹に手を当てた。


「うふふ、お腹が空いているんですね。丁度私も朝食を食べようとしていた所ですから遠慮しないで下さい」


 部屋の中からは美味しそうな匂いが溢れている。テラが言った様に朝食の準備をしていたのだろう、美味しそうな匂いを嗅いでいると、お腹が空いている事を実感してくる。さすっているお腹も再び叫び声を上げるか解らない状況だ。それを理解した俺はテラの提案を受けて朝食を食べることを了承した。


「すみません」


「いえいえ、一人より二人の方が食事は楽しいですから、今日は卵とパンですけど大丈夫ですか?」


「大丈夫です。両方好物です」


「それは良かった、じゃあ早速中へ入って椅子に座って休んでいて下さい」


テラの指示した椅子に座るとテラ自身は台所へと向かっているようだ。その後香ばしい香りが先程以上に俺の食欲を刺激してくる。奥からはリズムの良いテラの鼻歌が料理がもうすぐ出てくる事を知らせてくれている風にも思えた。


「お待ちどうさま、おいしく無かっても残さず食べないと駄目ですからね!」


 笑みを見せてそう告げるテラにお礼を告げた。そして二人がテーブルを挟む形で向かい合う。


「頂きます」


 そう告げる俺の前でテラは目を瞑り祈りを捧げている。エルフ族の人達は食事の前に祈りを捧げる風習があるようだ。他の人達もそうしているのを何度か目撃している。何を祈っているのか解らないから俺は日本でやって来たように「頂きます」を通していた。


「うっ旨い!!」


 新鮮な玉子から旨味が溢れだし、口に含んだ黄身とパンの味がミックスされ味に深みを与えている。手が口にパンを運ぶ事を止めれらない。


「ウッ水、水」


 がっついて食べていた為、喉にパンが詰まり何度も胸を叩く。


「大丈夫ですか? はい、お水です。おかわりもあるからゆっくり食べて下さい」


 コップを受け取り、ゴクゴクと中に入っている水を飲み干す。丁度水がなくなった頃に喉の違和感も無くなっていく。


「すみません。美味しかったから……」


「ウフフ、ありがとうございます。そう言われると何だかテレますね。やっぱり一人より二人の方が食事は美味しくなりますね。また何時でもご馳走しますから来てくださいね」


 そんなやりとりをしながら楽しい朝食の時間は過ぎていく。テラといると何だか楽しい気分にさせられる事は内緒にしておこう。


「そろそろフェンスさんも起きてる時間ですね。それじゃあ行きますか!」


 いつの間にか時間が過ぎていたようだ。俺は食器を台所へ持って行こうとすると、台所は余り見られたく無いのか? 駄目ですと叫びながら俺の行く手を阻むテラが面白かった。何故台所を見られたくないのかは謎である。

 その後、テラに案内されながらフェンスと言う木工師の家へと俺達は向う。この村は大きく無い為、木工師の家もすぐに到着してしまう。


コン、コン


「フェンスさんいますか~? テラです!!」


 ノックをしてしばらく待っているとドアが開き一人の男性が姿を見せた。スラっとした体型の男性で髪は短く揃えられている。エルフ族の為、物凄く渋い見た目でハリウッドスターの様に思えた。


「ん? テラか…… 珍しいな。家の調子が悪いとか何か困った事でもあるのか? 」


「いえいえ、家はフェンスさんのお陰で快適ですよ。今日はアキノリがフェンスさんに用が在るようなので連れてきたのです」


「アキノリ? あぁ、お前が村へ連れて来た人族の青年だったな」


 フェンスと呼ばれる男性は気の抜けた表情で俺の方へと視線を移した。俺は欲しがっていた物が此処に在るかを訪ねてみる。


「突然、訪問してすみません。実はロープと真っ直ぐな筒の容器が有れば譲って貰いたくて来ました。ありませんか?」


「ロープに真っ直ぐな筒? 一体そんな物を何に使う気なんだ?」


 興味本位からだろうか? 使用方法を聞いてくるフェンスに簡単に説明をしてみる。でも何処まで理解出来るかは解らない。


「実はマクベスさんの家へ向かう道をもっと歩き易い様に作り変えたいんです。それで現状の地形を図る為に使用しようと……」


「ロープと筒を使って地形を図るねぇ」


「はい…… そのつもりですが、在りませんか?」


「在るには在るが、そんな物を使ってどうやって地形を図るのかが想像出来ないんだが……」


「その点は大丈夫です。もし在るなら分けてください」


 少し待っていろと声が掛かり、家の中へと戻っていく。それから5分後フェンスは再び戻ってきた。


「そら、ロープと筒だ! これでいいか?」


 手渡されたロープは何重にも輪になって整理されている物で長さは見た目で30m位はありそうだ。俺はロープを両手で持ち力いっぱい引っ張ってみる。

 ピンっと張られたロープは伸縮も少なくしっかりと編まれた物だ。


(これなら大丈夫だろう)


 次に筒を手にとってみる。木で加工された筒は直径15cm、長さ40cm程度の物で木工の飾りを作る過程で作ったまま使わずに置いていた物だと説明を受けた。


「うん。これなら大丈夫そうだ。ありがとうございます」


 理想の材料が手に入り満面な笑みでお礼を告げた。


「あぁ、その程度なら分けてやるが、お前がそれらをどう言う風に使うのか興味が湧いた。また話を聞かせてくれ」


「解りました、その時は必ず声を掛けます」


「あぁ、頑張れよ」


 俺はフェンスさんに礼をしながら家を後にする。ウキウキしている俺の後ろを歩くテラも何だか嬉しそうにしていた。


「ありがとう。テラのお陰で一歩前進したよ。俺は今からこれらの道具を加工するから一度家に帰るわ。仕事の時間まで作業するから今日は何処に集まればいいかな? 畑? それとも別の場所?」


 昼間の作業はちゃんと行い、空き時間で作業をするつもりの俺はテラに予定を確認すると、テラは顔を左右に振り、腰の裏側に両手を回し下から俺を見上げる仕草で告げる。


「いえ、今日は私一人で大丈夫なので、アキノリは自分の仕事をやって下さい」


「いや、これは仕事じゃない。俺がマクベスさんと約束した事だから、ちゃんと仕事は手伝うよ」


「ウフフ、村人の為に行う作業は立派な仕事です。良い道を作ってくださいね」 


 そんな訳には行かないと反発してみたが、半ば押し切られる形で本日の作業は無くなってしまった。


---------------------------------------


 自分の家に帰りフェンスさんから貰った材料を床に置くと、俺は椅子に座りため息を付く。


「何だかプレッシャーを与えられてしまった。これは何としてもやり遂げないと格好つかないぞ」


 その後コップに水を入れ、一気に飲み干すと早速作業へ取り掛かる。

 

 最初俺が手にとったのはロープである。日本から転移されたコンベックスをロープにあてがい1Cmづつ色の付いた紐を括っていく。括り方はロープを緩めて間に差し込み括るから使用しても場所がズレる事は無いだろう。用意した紐は白と赤と青で、白色は1cm単位の所、赤は10cm毎にそして青は1mづつの場所に括りつけて行った。10m枚には布の切れ端を付けて数字を記載する。

 これで簡易では在るが長尺メジャーの出来上がりである。後はこれを簡単に巻き取れる様に一本の棒に数字の8を描くように巻きつけて行くと完成だ。重量は結構あるが、強化魔法を使用すれば殆ど重さも感じない。試しに5mを図って見るとコンベックスで図った場合と5mm程度の誤差を確認したがこの程度なら大丈夫だ。


「よし、完成だ。次はレベルを…… っともう夕方か? 随分熱中していたみたいだ」


 辺りはもう少しすれば暗くなってくるだろう。電気の無いこの村で日が沈めば寝るしか出来ない。夕食を今の間に食べないと夜は暗くて動けなくなるからだ。

 集中の糸が切れた俺も昼飯を食べてない事を思い出し、お腹が減っている事に気づく。

 その時ドアをノックする音とテラの綺麗な声が聞こえてきた。


「アキノリいないの? 昼ご飯も食べてないでしょ? 夜は食べないと駄目だよ」


 天の恵みである。俺は駆け足でドアを開き食事を持ってきたテラを招き入れた。そのまま二人で食事を取る。明日は高さを調べるレベルを作って見よう。今日作った巻き尺と明日作るレベルが在れば計画図が書ける筈だ。

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