43話 新事業
地震から数カ月が経過していた。俺はエルフの村でセメント製造の方法や土木作業の方法をエルフ達におしえていた。
地震で崩壊した街は順調に回復しているとの事だが俺が感じた事はまだまだ安全に対する技術が足りないと言う事だ。
セメントは地震の後に突如爆発的に広がりを見せた。それはシジルクさんがデモンストレーションでセメントを使った家屋を作っていたのだが、その家屋は自身の影響を受けずにいた。
その事が切っ掛けセメントは飛ぶように売れだし、今は毎日フル回転でセメントを製造している。この地域には石灰が豊富で少々の事で減る事はないだろう。
よってエルフ達は近隣の村に声を掛け共にセメントを生産しだす。土砂崩れにあった村は一番に村へとやって来ていた。住民が増えてもセメントの利益で村は豊かだった。その利益を狙って襲ってくるかも知れない野党をガロン達は村を守る警備団を結成し警戒をする。
大きな村となり、ここはもう大丈夫だと判断した時に俺はシャトラ達を家に招いた。
「お邪魔します。今日はどうしたんですか?」
最後の登場となったテナが来た所で俺は本題に入る。
「実は俺は村を出て行こうと思う」
その言葉に全員が驚く。互いに横の見渡し何か心当たりがないか探り合っている感じだ。
「村の者と何か問題でも……」
シャトラが危惧して聞いて来るがそれは間違っている。
「いや、この村の人達はみな俺に親切にしてくれている。あのガロンとだって今は笑顔で挨拶を交わしているしな」
「では何故村を?」
「地震の事は覚えているだろう? 幾ら文化が進んだ人種の街だって天災には叶わない。だけど俺が知っている技術で少しでも良い物が作れ、人々を守れるならやってみたいと思っている。
だから俺は人種の街に行く。そこで自分の店を立ち上げようと思っているんだ」
「そう言う事ですか…… 確かにアキノリさんの技術を大陸中に広める事は良い事だと思います。だけど私達だけでは……」
シャトラはそこで言葉を詰まらせた。他の者達も何も喋って来ない。
「まて、まだ話は途中なんだがその俺の店でお前達も働く気はないか? 俺は地震の後から今日までずっと村の人にセメントの作り方や簡単な土木の事を教えて来たつもりだ。もうこの村は俺達が居なくても大丈夫だと思っている。だけど俺の店にはお前達が必要なんだ」
暗く落ち込んでいた皆の表情に光が差す。俺の誘いに真っ先に手を上げたのがシャトラだ。ライラックとルークもそれに続いた。
テナは最後にチョコンと手を上げる。
「私は土木は得意ではないですが、働いた皆の為に美味しいご飯を作ります。私もいいですか?」
「勿論だ。是非来てくれ」
全員が来てくれる事となりホッと胸をなでおろす。これで次のステップへと進む事が出来る。
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俺達は村長に村を出て行く事を伝えて許可を取った。俺の功績が高かったお陰で特に問題は無く、2カ月後に村を出る事が決まった。
その後に村長とセメントの売上について話し合う。話の結果、利益の一割が俺の手元に入って来る事が決まった。製造方法は俺が考えた物でその利益で俺は新しい会社で使う資材を購入する予定にしている。
次にシジルクさんの元へと向かう。俺が街で新しい店を開く事を伝えると柏手を打って喜んだ。是非御贔屓にと頭を下げてくれた。
彼は俺が作った村を見ているので俺の技術を知っているから成功を疑っていない。今までも懇意させて貰っているのでこの関係は続けて行こうと考えていた。
店を何処に作るか相談した所、彼は何か所も物件を紹介してくれた。俺は下見を行い一つの土地を購入し事務所と材料を置いておく倉庫を作り始めた。
デモンストレーションを兼ねて作っているのは鉄筋コンクリート造の建物だ。鉄筋は工具を作っている鉄工所で俺が指示を出して作って貰った。
本当の構造物は構造計算を行い安全係数を算出しているのだが、無知な俺にはそこまでの知識は無い、ただ鉄筋を入れるだけで建物の強度は大きく変わる。多分この世界で一番強度な建物になるだろう。
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そして2カ月後、新しい事務所の前で俺は朝礼を始める。
全員の表情もやる気に満ちていた。
「みんな今日から道上建設が始動する。今日の仕事はシジルクさんが紹介してくれた。家屋の基礎工事だ。俺達の実力を示すいい機会だから頑張ってくれ」
これからも若手現場監督の俺とエルフの工事日誌は続いて行く。
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