41話 新しい村と小さな異変
今日は新しい村のお披露目の日である。朝から多くのエルフ達が村の中央に集められていた。全員が揃った後、ついに新しい村のお披露目となる予定だ。
「どんな村が出来上がったのか楽しみじゃわい」
「マルクスさん期待していて下さいよ。新しい村は歩きやすい様に道の勾配にも気を付けていますから」
魔法の師匠であるマルクスさんは足が悪い。そんな人の為にも道の勾配は出来るだけ緩やかに作っている。
全員が揃うと俺が先頭に立ち全員を誘導し村へと案内をする。最初に連れて行くのは村を一望できる丘と決めていた。
全景を見て貰い、その後に村の詳細を説明するのが俺が考えた方法だ。
エルフ達が小高い丘の上から村を一望すると誰もが息を飲み驚きの声を出す。
「これは凄い……」
村長もその言葉を吐いた後は暫くの間、何も語らずジッと村を見続けていた。
呆然と立ち尽くすエルフ達に声を掛け次は村の中へと案内する。村には既にシャトラ達を行かせており色々と準備をしていてくれている。
村に入ると遠くから見ただけでは気付かない物が多く在りエルフ達はあれやこれやと指さしていた。
俺が最初に連れて行ったのが入口の一番近い地区でその中心に設置されている井戸を紹介する。
今までは河で水を汲み入れ物に入れて水を使っていた。なので地面の中に掘られた井戸にエルフ達も興味津々と言った所か?
井戸は縦長の穴を掘り周囲に石を詰め上げて作り上げている。定期的に石を清掃している限り綺麗な水が使用できるだろう。井戸の上には枯葉などのゴミや雨が入り込まない様に屋根を付け、その屋根を利用して滑車を設置しバケツを上げ下げ出来る様にしている。
滑車があるので少ない力で水をくみ上げる事が可能だ。先行していたライラックが実演してみせると再び驚きの声が広がる。まさか地面の中から綺麗な水がわき上がるとは思っていなかったみたいだ。
次に案内したのは少し離れた所に設置している一本のマナトラの木だ。これは1区画に1か所づつ作っている。この木の先端にはフェンスさんに加工してもらいコックを取り付けていた。マナトラの木を追って行くと地面からかなり高い所まで伸びている。その高い所には水平に走るマナトラの木が設置されている。全て地面から支えている為にマナトラの木が走っている場所の下には鉄骨の塔の様な木材でくみ上げられた骨組が山の方までずっと続いていた。
「これは何なんじゃ?」
俺に親しいマルクスさんが不思議そうに訪ねて来た。
「まぁ見てていて下さい」
そう言って俺がコックを90度回すと細いマナトラの木の先から勢いよく水が飛び出して来た。
その勢いは水魔法を使った様な感じであった。
「また水か!? 先ほどの井戸と言う物も水が出て、ここでも水が出るのか?」
「またかと言われればそうですが、水の資源は多い方がいい。こっちの水は山の河から直接運んで来ています。どちらかに問題が発生しても、もう一つが残る。そうなれば水に困る事はもう二度とない」
「良く考えておるわ。他には無いのか? お主が見せる物はワシらの常識を超えた物ばかりじゃ。興味がわいて仕方にない」
マクルスさんはニヤリと笑みを浮かべた。喜んで貰って何よりだ。
次に一番近い家屋に入る。家に入れる人数は限られているので、テナやシャトラ達が分散して村人を別けて説明を始めた。
「まず最初に見て貰いたいのが台所だ。今後は料理を此処で作って貰いたい」
台所にはキッチン台と蛇口を取り付けていた。蛇口はマナトラの細い木で作っており先を追って行くと台所の横に蛇口よりも高い場所に桶が置かれている。桶に入っている水が自重で送り出されて蛇口のコックを回すと水が出る仕組みを作っている。桶に水を入れるのは重労働だと思われるがエルフ達は強化魔法が使える。水を運ぶ位ならどうってことはない。
俺のデモンストレーションに女性達が大いに反応していた。予想していたが喜ばれてているようだ。
「その蛇口って所から流れ出た水は何処にながれているんだい?」
一人の主婦が声を上げる。その質問は聞かれると思っていた事で、俺はドヤ顔で説明を始めた。
「水や食器についた汚れはこの穴に流せば村の外まで自然と流れ出る。これからは家の外で水を捨てて村に悪臭が漂う事もない。ちょっとついて来てくれ」
俺が連れだした場所は村の下水道管の最終地点だ。地中の管のは最終的に正方形に四角く掘った穴の中に流れ出る。この辺りは砂質土の地層で水をドンドンと吸い取ってくれる。資格に掘った中には河岸で拾い集めた栗石を敷き詰めている。これはフィルターの替わりで水だけは栗石を通りながれゴミだけが栗石の上に残る。残ったゴミは火炎魔法で燃やせば灰になり無くなると説明する。
みな感心しながら俺の説明を聴き入っていた。その後は家の間取りの説明や子供が遊べる公園を説明する。どれも日本に在る物ばかりで有用性も実証されている。
子供は俺が作った遊具で遊びとても楽しそうだ。
全ての説明を終えた時に村長が俺に深く頭を下げていた。
「これ程の村を作ってくれていたとは…… 感謝します」
俺はすぐに村長に寄り添い下げた頭を持ち上げた。
「助けて頂いた上に他人の俺を住まわせて頂いたお礼です。でも俺一人では作るのは無理でした…… シャトラやライラック、テナ、木工師のフェンスさんなど皆に助けて貰ったお陰です」
村人に感謝されながら俺達の村は完成を迎えた。引っ越しは明日から順次開始されるとの事で俺の大きな仕事が一つ終了した事になる。今後はセメントの採掘などをやって行くのだろう。
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それからまた数カ月が過ぎた。最近はセメント生成ばかりで少々退屈した日々を過ごしている。
今日はシジルクさんとの取引の日で毎回出荷量が増えて来ている。セメントも少しづつ広まっている証拠だろう。
俺達が何時もの場所でシジルクさんを待っている時に突然地震が起きた。だがその震度はテレビで報告している震度4程度の揺れで、揺れの時間は少し長い程度の物だった。
俺がそんな事を考えているとシャトラやライラックまで地面に頭を付けて何やら祈りをささげていた。
「大地が怒っている。どうかお沈み下さい」
俺の隣のテナはブルブルと震えながら俺にしがみついていた。
「そんなに驚く事じゃないだろう? 単なる地震だ。揺れも大したことないし直ぐに止まるよ」
「何を言っているんですか!? 大地が揺れているんですよ! こんな事は今まで一度も無かったのに……」
どうやらこの世界では地震が少ないみたいだった。俺の言った通り地震はすぐに止んだがシャトラ達は何時までも祈り続けていた。
俺がシャトラ達を起こして地震について説明してやっても誰も信じていない。それ程のインパクトが在ったんだろう。
そんな事が在ったその日はシジルクさんが来る事は無く。変だと思いつつ次の日も待っていたが来る事は無かった。不思議に思い俺はシジルクさんの元へ向かう事を決めた。
今回は日帰りの予定なので一人で向かう。俺は翌朝速くから村を飛び出してシジルクさんが住む街を目指した。