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4話 村での生活と初仕事

 魔法を使える様になってから数日後、俺もテラの指示に従いながら村の作業を手伝っていた。

 もっぱら畑仕事や収穫した木の実の加工などが多い。それと意外な事だが俺の予想と違いエルフも肉を食べる事が分かった。狩りが出来る若者はパーティを組み弓を背負い早朝から森の奥へと向かう。帰ってくるのはいつも夕方で兎や猪に似た動物を数匹程持って帰る。俺も食べさせて貰ったが脂が多く甘みが溢れて出す極上の牛肉に近い味だ。

 それらを調理するのは女性達の仕事で、大物が狩れた時などは歓喜の声を上げて狩人達を褒めて盛り上げていた。

 50人程度の小さな村であるが、活気に溢れた良い村といえる。


----------------------------------

 今回はテラの手伝いで畑仕事の予定だ。


「テラ、水はこの容器に入れればいいのか?」


「うん! 一杯になるまでお願いね」


「水魔法で出した水じゃダメなの?」


「そっか、アキノリは魔法で出した物質が残らないって知らないんだったね。

 魔法で出した水は時間が経つと無くなっちゃうの。放出された魔力の減少と共に消えて行く感じかな? 火の魔法とかは木などに点火すれば本当の火となって残るから焚き火とかは出来るけどね。私の回復魔法も相手の自然治癒力を活発化させる事で怪我を治す魔法だから効果は残るの」


「なる程、何となく分かったよ」


 畑の側に設置された大きな容器の中へ、先程川から運んできたバケツの水を入れてみるが三分の一にも達しない。仕方なく満タンになるまで離れた川へ何度も往復しバケツで何度も水を運んだ。

 川までの道のりは険しく長い、強化魔法を使い走り続けて片道30分も掛かってしまう。一人で運んだ場合は容器を満タンにする為に半日以上つぶれる計算となる。


「これは思いの他重労働だな。強化魔法を使っていないと重くて運べないし、強化魔法を持続させる事もこれ程精神的にキツイとは思わなかった。訓練すれば楽に使える様になるのか?」


 整備されていない獣道でバケツを手に持ち、愚痴を零しながら走り抜けていく。歩くより時間短縮になるので精神的な負荷はこっちの方が少ない。休憩も取らずに水を運び続け何とか午前中で容器を満タンにする事が出来た。


「ハァハア、やっと終わった…… 村人たちはこんな事ばかりしているのか?」


 取り敢えず一つの仕事が終わったのには違いない。俺は畑仕事に精を出すテラの元へ次に行う仕事の指示を仰ぎに行く。


「もう、終わったのですか? 普通なら夕方まで掛かるんですけど……」


「そうなのか?」


 頑張りすぎた事に少々後悔を覚えた、もう少しゆっくりとやれば良かった。だが終わってしまうと手持ち無沙汰となってしまう。早く仕事を終らせる事は悪い事ではない。気を取り直して次の仕事に取り掛かるとしよう。


「そうですね~ 私の仕事の手伝いは大丈夫なので…… あっそうだ。マクベスさんの所へ食材を運んで貰えますか? 畑仕事が終わったら私が行こうと思っていたんです」


「マクベスさんの所ですか? いいですよ。 それでその食材は何処に?」


「食料庫にある木箱の中に選別しています。蓋の上には太陽のマークがあるので直ぐに判るとおもいますよ」


「解りました。それでは今から行ってきます」


「おねがいしますね。それが終われば今日は休憩して下さい」


 手を振りながら見送るテラを後に俺は食料庫へと向かう。食料庫は歴史の授業で習った高床式倉庫に近い形状をしていた。それを見てやはりどの世界でも知恵とは掛け替えのない尊い物だと実感する。良い物はどの世界でも通用する証明だと思えた。

 扉には施錠がなく誰もが入ることが出来る。不用心だと思うかも知れないが。この村の人達は誰もが助け合いながら生きている。エルフと言う種族がそうなのかもしれないが、泥棒などする者などいないと説明を受けていた。

 倉庫の中でお目立ての木箱は直ぐに見つかり中を確認すると、色々な食材とお酒が入っている。俺は再び蓋をし、木箱を肩に担ぐとマクベスの家へと向う。


-----------------------------


 コン、コン、コン


「誰じゃ?」


「マクベスさん、俺ですアキノリです。 食料を持ってきました」


「おぉ、アキノリか! 鍵は掛かっておらん、入って来なさい」


 許可を貰ったので、ドアを開けマクベスの家に入っていく。家の中では手製の前後に揺れるリクライニング椅子に座るマクベスの姿が目に入る。


「わざわざ、悪いのう。 あれから1周間ぶりか…… どうじゃ魔法の方は?」


 あれからとは俺の属性魔法を調べて貰った日の事である。丁度一週間前の出来事で俺自身も記憶に新しい。今回は歓迎されている雰囲気が部屋中を包み込み、何だか心が暖かくなる気がする。


「そうですね。今は仕事の手伝いをしながら夜に魔法の訓練などしています。結構使える様になってるんですよ」


「ほほぅ~ なら一度見せてくれるか?」


 この後は自由時間だと聞かされていたのを思い出し、マクベスの提案に頷くと俺とマクベスは家の外へと出て行った。


「それでは見ていて下さい。いま練習しているのは水魔法のピストルです」


 俺はテラを驚かせたピストルの魔法をマクベスの前で披露する。狙うは家の周囲に生えている大木で丁度三本重なる角度から狙ってみせる。

 最初は手全体に魔力を集めていたが、今では指先に大量の魔力を集めている。その方が威力も上がり、魔力の消費が少ない事に気づいたからだ。


 バキュン!!


 俺の指から放たれた高圧力の水鉄砲は3本の木を穿ち4本目の中腹で止まる。

 テラの時と同様にマクベスの驚いた顔が俺の横にはあった。


「なんじゃその魔法は? 誰に教えてもらった!」


「自分で考えたんですよ。結構良さそうでしょ?」


「自分で考えたじゃと? これ程の威力の魔法をか? それが本当なら恐ろしい事じゃ。半分冗談で言ったが、本当にお主は大魔法師になれるやもしれんな」


「大魔法師ですか?」


 俺の言葉を聞き流しながらマクベスは真剣に何かを考えている様に見える。少しの沈黙の後にマクベスは俺の目を見てある提案をする。


「どうじゃ? お主が良ければの話じゃが…… ワシが今まで得た魔法の知識をお主しに託したい。ワシの元で魔法の修行をせぬか? ワシも若い頃はそれなりに名の通った魔法師であったが、この歳になるまで大魔法師には成ることが出来なかった。その夢をお主に託したい…… 」


「大げさな…… 俺にはそんな大それた人にはなれませんよ。今でもテラが居なければ食事も用意出来ないですから」


「その事なら大丈夫じゃ、これ程の才能を埋れさすのは惜しい。 テラや村人にはワシから話を付けておいてやる」


 俺は顎に手を置いて考えてみる。確かに今の状態で手に職がないのは心細い。魔法と言う知らない分野でも出来ることが多いに越したことは無い。そう考えた俺はマクベスの提案を受けることにした。


 こうして俺とマクベスの魔法の訓練が始まる。


--------------------------------


 俺がマクベスの教えを受けて1月が経過している。昼間はテラの手伝いを行い夕方からマクベスの教えを受けるそんな毎日だ。


「違うじゃろ。魔力操作は体内では簡単じゃが一度体外に出れば不安定で維持が難しい。もっと形を想像して魔力に働きかけるんじゃ。 見ておれこうじゃ!」


 俺の目の間で手の平を空に向けその上で3つの火玉がジャグリングの様にグルグルと回転している。マクベスの魔法操作技術は俺の何倍も凄かった。


「もっと強く念じてそのイメージを固定する」


 俺は水の玉を想像しながらマクベスと同じように手の平で回転させる。今の所出せる玉は2つで形も不安定だが毎日少しづつ上達しているのが解る。今では魔法の一部が肉体に接している状態であればどんな形状も創りだす事が可能となっている。だがまだまだマクベスにはかなわない。


「よし、今日の所はこれでいいじゃろう。後は家に帰ってゆっくりと休みなさい」


 授業終了の許可をもらった俺は今まで気になっていた事をマクベスに提案する。


「マクベスさん以前からやりたかったんですが、此処にくる道中の道を直してもいいですか? 今のままでは不安定で歩き辛いでしょう。 ずっと直したかったんです」


「なんじゃと? 道を直すと? またおかしな事を言う奴じゃ。歩きやすくならなら勝手に直せばいいじゃろう。ワシも今のままでは遠くに行くのは辛い、余り期待せずに待っていてやるわい」


「解りました。早速明日から準備しますね」


 俺は工事の許可を貰ってウキウキしながら家路につく。今は俺個人の家を作って貰っている。食事はテラが毎日運んできてくれているので困らないが、このままではテラに対して貸しばかり増え一生掛けても払えなくなるのが心配だ。


 家に帰ると俺が異世界に転移した時身につけていたコンベックスを取り出した。これは現場で長さを図る時に使う道具で、人によってはスケールとも言う。

 小さなプラスティック製で出来た箱の中心にバネが取り付けられており、メジャー部分はクルクルと巻かれた状態で先端だけが箱から顔を出している。長さを図る時は先端をつまみ引っ張ると巻かれている部分が伸びて長さが刻まれた部分が顔を出す。図り終わった後は手を離すとバネに引っ張られてまた箱の中でクルクルと巻かれて収納される仕組みだ。


「明日はこれを使って測量だ。やるからには高さも図ってビッシっと決めたい。そうだ高さを測るレベル機も作ってみるか!!」


 俺は久しぶりに土木に関する仕事が出来る事に興奮していた。やるからには出来るだけ良い物を作りたい。ベッドに潜り明日の事を楽しみにしながら俺は深い眠りへと落ちていった。

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