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39話 取引

 馬車は重い荷物を引きながら遊歩道を進んで行く。俺達はその様子をジッと観察しながら並走していた。重い馬車が通る事で、板に掛かる荷重でどの様な影響をもたらすのかを見る為だ。


 だが心配していた程に遊歩道への影響も少なく馬車は問題なく最終地点まで到着する。

 最終地点には山の斜面を掘り大きな広場を作っていた。その場所には既に大量のセメントを運んでおり、木で作った箱にセメントを詰めて積み上げていた。その数は100個を超える。重さに換算すれば5tは超えるだろう。


「作りたてのセメントです。セメントは空気に触れると風化が速くなりますので、箱を開けた後は出来るだけ速い使用をお願いします」


 この世界に密封の技術は存在しない。そもそも密封状態を作り出す。ナイロン等が存在しないからどうしようもなかった。


「使用出来る期間としてはどの位でしょうか?」


「そうですね…… 箱を開けなければ2~3カ月はもつと思いますよ」


 積み上げた箱は平板で作っているのだが、セメントを箱へ詰めた後、全ての隙間を樹脂で埋めている。そのおかげで完全ではないが密封に近い状態で使用期限は長いとみている。


「それだけ持てば大丈夫です。では初取引を始めましょう。今回は用意して頂きましたセメントを全て購入させて頂きます。

 けれどずっと考えていたのですが…… アキノリ様はセメントの対価をどの位で考えていらっしゃいますか?」


 俺もその事は気になっていた。実際にこの世界におけるセメントの金額を算出してみると。


①採掘に掛かる人件費

②採掘した石灰や諸材料を加工場に運ぶ人件費

③加工する経費

④セメントを箱に詰めて此処まで運ぶ人件費


 これらの作業を俺達だけでやっているのだが、簡単に積み上げて行くだけでも結構な金額になってしまう。殆どの作業に魔法を使用しているので効率はいいと思うが…… 一人が一日働いた賃金が解らないから解らないままで考えるのを辞めていた。


「う~ん。取敢えず今は価格を決めるのは難しいと思います。儲かるに越した事は無いのですが、高すぎると需要が生まれませんし。シジルクさんが持って来たその荷物で幾ら分の価値がありますか?」


「確かに需要が無ければ商品も売れません。私は多くの者達に使用して貰いたいので出来るだけ低価格で提供したいと思っています。今回お持ちしました商品はお金に換算すると金貨10枚分位です。中身は色々とありますが、薬を持って来ているのでそれが少し高めになっていますね」


 テナに教えて貰ったのだが、この世界は銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨が存在しており。銅貨10枚で大銅貨と言う形で10倍で価値が上がっていく仕組みの様だ。


 セメントを詰めた箱の大きさは四方30cm。それが100個ある。セメントの比重は3.15だと記憶しておりかさ比重は1.5で箱を作った時に計算した結果によると、ひと箱の重さは50kgを超えた位だ。

 それが100個と言えば5tとなる。5tで金貨10枚と言う事は……


 「1kg当り銅貨2枚となるな…… それ位なら売れるか? 金貨10枚なら俺達の人件費も十分賄えるだろうし……」


 床板の上で計算式を書きながら俺がブツブツと言っている姿にシジルクさんも困惑した様子であった。


「それじゃ、今回は金貨10枚分の物資でお願いします。今後もっと安く出来る様ならば調整しますので」


「そう言って貰えると助かります。実はもっと高い事を言われるんじゃないかとヒヤヒヤしておりました。金貨も少しばかり持って来ていますので、そちらも受け取って下さい」


 今後また街に行く事が在れば金貨を持っている方がいい。俺は金貨分の追加セメントをライラックに運んでくる様に指示を出す。


「お金はありがたいので頂きますが、その分のセメントは追加で持って来ます」


 俺達は互いに握手を交わし、契約成立を確認し合う。

 セメントを馬車に積み込んだが、1馬車20箱程積んだ位で一度馬車を走らせるとギリギリ動くという感じだった。

 この時代の馬車は頑丈に出来て居らずに振動の衝撃が直に荷台に掛かる。無理をさせない為にも何度か往復して運ぶ事となった。

 

 一回目が出発している間は荷物の管理は此方の仕事となる。様子を見に来ていたルークがその役を買ってでて来たのは驚いたが、シジルクさんの耳元で何やら話している。


 シジルクさんは親指を上げて頷くと、ルークが飛び跳ねて喜んでいた。どやら何やら取引をしたようだ。

 どうせお菓子かそれに近い何かを要求したのだろう。それ位ならいいが、後でシジルクさんに確認しておくか。


 ルークを残し俺達はシジルクさんと交換した物資を村に運び込む。村の中心部で荷物を山に積み上げていると村中のエルフ達が近寄って来た。


「この荷物はなんだ! 商人から盗んで来たんじゃないだろうな」


 狩りから帰ってきていたガロンが俺に突っかかってくる。それをライラックが体を張って間に割り込んだ。


「これはセメントを売って手に入れた物」


「セメント? 何だそれは…… あぁ貴様等が山から運び込んでいた白い岩の事か!?」


 ガロンは俺達の行動を思い出してそう切り出す。ライラックは頷いてガロンを俺から引き離した。


「この物資は皆に均等に分けるつもりだ。今はテナに村長を呼びに行って貰っているから待っててくれ」


 俺の言葉に他のエルフ達は歓喜の声を上げた。そりゃ人間の商品には良い物が多くある事はエルフ達も知っている。それがタダで手に入れば誰でも喜ぶのは当たり前だと言えた。


 その後、村長が到着し俺は説明を行う。セメントを売る事は事前に話しているので、その事には何も触れすにお礼を言ってくれた。

 今後は村人の手を借りてセメントの製造をもっと大掛かりにするつもりである。そうなれば村の新しい産業、そして外貨入手の手段として役に立つ筈だ。


 村長との話が終わると、村長の指示の元で数人のエルフが物資を仕分けている。家族の多い者達には食料や布を多く別け与え、病気がちな者には薬を与えていた。

 村人の喜ぶ顔を見て、これで良かったんだと胸の底からわき上がる熱い想いを俺は感じていた。

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