3話 属性魔法
どうやら俺の魔法属性は此処では解らないらしい、テラに先導されて一件の小屋へと連れて行かれた。
再び家屋が多く建つ通りを抜けて少しの間歩いて行くと一軒だけポツンと建つ家屋に辿り着く。
家屋の中には様々な道具が陳列されており、一人の老人が何やら作業に勤しんでいるのが目に映る。
老人はギロリと鋭い視線を俺に向けて怪しんでいる様に思えた。
「テラか…… 何の様じゃ? それにお前が拾ったと言う噂の男まで連れてきおって!」
鬱陶しそうに吐き捨てながらも老人は作業を続けている。
「マルクスさん、そんな邪険にしないでよ! 今日は彼の魔法属性を調べて貰いたいの」
「魔法属性じゃと? その年齢でまだ自分の属性も知らないのか?」
「アキノリは記憶を失っているから、自分じゃ分からないみたいなの。お願い!」
「仕方ない…… なら酒じゃ今度来る時に酒を持ってきてくれ。それで手を打とう」
「はいはい。お酒ね、でも余り飲みすぎないでね」
「分かっておるわ。じゃが足腰も弱くなってからは、家から出るのも億劫なんじゃ。酒くらい飲んでも構わんじゃろう」
確かにこの家に続く道は坂道で地表から木の根が無数に盛り上がってきており、凸凹で老人には歩き辛いと思える。
「それなら強化魔法を使えばいいじゃない。スイスイと歩けるわ」
「馬鹿者が! 強化魔法を使っても間接の可動域は変わらんのだぞ」
「マクベスさんは普段体を動かさないから弱って行くのよ!」
「年寄り相手に何て酷いことを言うんじゃ」
二人の言い合いは長時間続いたが、最終的にはテラが折れる事で決着が着いた。
勝利の笑みをうかべ一息をついたマクベスは、二人の問答をただ見ていた俺に気付き手招きをする。
「確か…… アキノリとか言ったな、約束通り属性を調べてやろう。向こうにある椅子に座って待っておれ」
言われるままに、マクベスが指さす椅子に座り俺の後ろにテラが立つ。マクベスは棚に置いて箱の中から拳大位のガラス玉を取り出して俺の元へと舞い戻る。
「アキノリよ、お主運がいい。我々は魔法に特化したエルフ族…… 人の街では知ることが出来ない秘めた力さえも知る方法をしっとる。さぁ、この水晶玉に手を載せるのじゃ」
マクベスの持つ水晶球は七色の光を放ちながら俺の手を待っている気がした。ゆっくりと水晶の上に手を乗せると、水晶球の中心で様々な色の光が渦を描く様に回りだした。青い光が多く、少ないながらも様々な色を確認する事が出来る。
「お主は一体何者じゃ…… 属性の数が異様じゃわい。わしもこれ程の数は今まで見た事がないぞ」
水晶の中では光が渦を描き幻想的な光景を作り出している。俺自身もあっけに取られながらその様子を見つめていた。
「お主の主属性は水じゃ。じゃが、それ以外にも様々な属性を持っておるようじゃ。語り継がれる大魔法師達は幾つもの魔法を使い。様々な奇跡を起こしてきたと言う。もしかすると彼等もアキノリと同じような光を持っていたのかもしれんな……」
「水? それが俺の属性」
「そうじゃ、主属性は水で間違いない。魔法とは想像する力、理を覆す発想とも言える。わしもこれを見てお主の未来を見て見とうなったわ。何か解らない事があれば此処を訪れるとよい」
「マクベスさん。ありがとう魔法の事は良く解らないけど、きっとまた此処へくるよ」
初見で感じたマクベスから発する警戒する感じは今はない。先ほどの言葉を聞くと俺の属性はレア物のようだ。魔法は想像。理さえも覆す。その言葉がずっと俺の心の中で木霊していた。
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その後、元いた家に戻ると俺とテラは早速魔法の訓練へとシフトして行く。身体強化の魔法は教わったがそれ以外は検討もつかない。
テラいわく、教えるのは基本のみ後は自分で磨いて行くのが魔法だと言う。決まった詠唱や儀式は人によって様々だ。各自自分に合った魔法を構築していく。魔法とは絶え間ない努力と膨大な時間を掛けて磨くものだと言っていた。
「それじゃ、アキノリ準備はいいですか? 魔法の基礎である魔力を手に集め放出する事でその属性魔法が発動されます。私の場合は治癒魔法…… アキノリの場合は水魔法が発動される筈です。
マクベスさんも言っていましたが、魔法とは想像する力です。強く願いながら水が手から飛び出す事を想像して下さい」
「解ったやってみるよ」
広場でやった身体強化魔法の感じを思い出し、体内にある魔力に命令を与える。
(俺の手の平に集まり水鉄砲の様に飛び出せ!)
ピロロロ~
俺の手から水は出たのだが、それは噴水とかにある小便小僧の様な勢も無い貧相な物であった。
「やった~ 水がでたぞ!!」
ガッツポーズをする俺の横でテラがクスクスと笑っている。嬉しさに浸っていた俺もその様子をみて多少はカチンときてしまう。
「何故そんなに笑うんですか!!」
「ウフフ、ごめんなさい。アキノリって規格外の事ばかりしていたから今回の事が意外で面白くって。
ウフフ、誰も最初はこんな感じですから気にしないで頑張りましょう」
両手の拳を握りファイトっという感じでガッツポーズを決めるテラを見ていると何だかバカにされている様で腹が立つ。
次を見ていろと俺は再度目を瞑り、イメージを膨らませる。
(魔法はイメージ、考える事が大事。俺には様々な経験がある。水を強く飛ばすために必要な事を考えるんだ。なら今度はアレをイメージしてやってみるか!!)
再び俺の指示を受けて体の中で魔力が動き出すのが解る。物凄いスピードで手の方へ集まった魔力はドンドンと量を増やしていく。体内から溢れだす魔力は手の平で圧力を増す。丁度、蓋をした注射器を思いっきり押している感じに近い。そして圧力で手の筋肉がギシギシと音を立て始める。十分溜まった圧力は出口を探して爆発寸前である。
俺はその手をピストルの様な形に変える。ジャンケンで言うと変則的なチョキだ。準備が出来た俺は目を開き人差し指の銃口を壁に向けて叫んだ。
「発射!!」
バキュン!!!
その小さな音を発し俺の指から発射された水はレーザービームの様に一直線に指から飛び出し、木製の壁を貫通させ外で雄大に生えていた大木をも撃ちぬいた。
「なっ 今のは…… 今度もですか! また化物の様な事を!!」
テラはあんぐりと口を開けたまま放心状態になった後、おでこに手を当てて頭痛を緩和させる仕草をとる。
十分すぎる結果にしてやったりとピースサインを出し俺は笑みを浮かべた。
それにしてもイメージ通りに魔法が使えた。これは色々な使い方が出来るかもしれない。そんな事を考えながらドンドンと溢れだすアイデアを忘れない様に俺は何度も頭の中でシュミレーションを繰り返していく。