24話 ハイエルフの村で
木陰に身を隠し周囲を伺うと木々の隙間から幾つかの明かりが見つかる。闇に紛れ気付かれないように明かりの方へと近づいてみると家屋から溢れる明かりだと解った。どうやら此処はハイエルフの集落の様だ。
ハイエルフの村はカマン村よりも質素な作りとなっていた。カマン村では家屋が多く立っている場所などの木は切っているが、この村は木々を切ったりしていない。木と木の隙間に家を無理矢理に建てているそんな感じに思えた。
「なるほど、彼等から見れば俺は大罪人だな。ハイエルフって人種は自然と共に生きているって訳か……」
そうと理解ればこの場所に長居は無用だ。脱走したのが見つかれば今度は牢屋など手ぬるい処置はしないだろう。俺はクルリと身を翻し退散を開始する。
だがその時美しい声が俺の耳に届く、透き通ったその声は逃げ出す俺の動きを止めていた。
「なんだこの声は?」
鼻歌を歌っているのだろうか? 単なる鼻歌だとしても人を引き付ける力が込められていた。
「何処から聴こえるんだ? あっちか?」
俺は自然と声がする方へと歩いていく。数件の家屋を過ぎた先に大きな家が見えた、その家にはこの村では珍しいバルコニーが設置されている。そのバルコニーで椅子に座りながら満天の星が煌く夜空に向かって歌を歌う女性がそこには座っていた。
「なんて綺麗な女性だ。テナより綺麗んじゃないか? それにこの歌は心に響く…… 悲しい歌」
俺は木陰に身を潜めたままその歌を聴き入っていると女性の歌がパタリと止んだ。そして俺に向かって声を掛けてきた。
「貴方は誰ですか? この村の人ではありませんね?」
ビクンと反応してバレた事に焦りを覚える。だが逃げ出すことはせず、木陰から立ち上がり彼女の側まで近づいてみた。なぜそんな事をしているのか自分でも解らない。ただ彼女の意思から逃れられないそんな幹事だろうか?
「俺はカマン村で世話になっている者、新しい村を作っている最中にこの村の男達に攫われた。今は入れられていた牢屋から抜けだして村に帰る途中だ」
「話は聞いていましたが、貴方がそうですか…… 説明された人とは感じが違いますね」
エルフの女性は椅子に座ったままそう告げる。
「俺が何て言われているか知らないが、そこまで悪いことをしたつもりは無いよ。アンタ達が森を大切にしている事もこの村をみて理解したつもりだ。後は話し合いで結論を出せばいいだろう」
「私もやり過ぎはイケないといつも言っているのですが…… 申し訳ございませんでした」
そう言うと頭を下げてくる。彼女は悪い人では無いようだ。
「それはもういい。所で何を歌っていたんだ?」
俺は先程の歌の事を聞いた、あの歌が耳から離れず何度も頭のなかを木霊している。
「この村に昔から伝わる単なる子守唄ですよ。私は出歩け無いので、歌を歌う位しか暇を潰す事が出来ないから……」
「出歩けない? 監視されているって事か?」
その問に彼女は首を左右にふる。
「いいえ、私は足が不自由で歩けないのです。この森は険しいので私には一歩も出れません。家の中でも誰かの手を借りなければ移動できませんから……」
「足が悪いのか?」
彼女はコクンと頷いた。
「少し近づいても大丈夫か?」
「えぇ構いませんよ。貴方は悪い人ではなさそうなので……」
言質を取ったあと、彼女の側まで近づく。遠くでは解らなかったが彼女の手足は細く、普段から余り動いて居ないみたいだ。
「この村の道は少々険しすぎるが家の中は意外とフラットだな。いつも家の中を移動するときはどうしている?」
「この魔法の鈴を鳴らせば助けが来るようになっています。決められた人がどんなに遠くにいても届く不思議な鈴です」
「どうだ? 家の中だけでも自分で動きたいか?」
俺の言葉に彼女は不思議そうな顔をして呆けている。
「何故そんな事を? 貴方は私の足を治せるのですか?」
「いや…… 俺に治療魔法は使えない。だけど別の方法で家の中位は動ける様に出来るはずだ」
「そんな事が本当に? 出来るならお願いしたいですが、今まで色々な治癒魔法使いに見てもらいましたが、私の足が動くことは一度も……」
「それは俺も一緒だ。俺がやる事は今の状態でも動けるようにする事。ちょっと待っていろ」
そう告げると俺は再び暗闇に身を潜め、少し大きめの木に向かって水魔法を使う。水のチェーンソウで大きめの木を切断し、手頃の場所で木をスライスしていく、木が倒れて回りの者が気づかれない様に強化魔法を使い切断した直後、倒れる前に木を掴みユックリと地面に寝かせていた。
スライスした木を再び加工し、俺は2つの車輪を作り上げた。中央部には車輪を軸に取り付ける穴をあけている。材料を用意した俺は彼女の元へ戻ると、彼女が今座っている椅子に加工を加え2つの車輪を取り付けた。
「おし、出来上がりだ。この2つの車輪を両手で回してみてくれ。重いかもしれないから強化魔法を使いながらの方がいいだろう」
「車輪を動かす…… はい、やってみます」
彼女は両手で車輪を掴むとユックリと回しだした。すると車輪の回転に合わせて彼女を載せた椅子が動き出す。
「動いています。凄い」
「これなら平坦な家の中だけだが、自由に動く事が可能だ。自分が好きな時に移動できる」
「有難うございます。貴方様になんてお礼をすればいいのか?」
「例ならいらない。礼が欲しくてやった訳じゃないから、それにあくまで動けるのは段差のない場所だけだから家の中に段差があるようだったら、改造してもらうといい」
「親切に有難うございます。もし良ければ貴方のお名前を教えてくれませんか? 私の名前はエイナと申します」
「あぁ、構わない。俺の名前はアキノリって言うんだ。また会う時があればよろしく頼むよ」
「アキノリ様ですね。私忘れません……」
その時、家の中から別の女性の声が聞こえた。
「誰ですか? そこにいるのは!!」
「ヤバイ!! 俺は消えるからエイナも頑張ってな」
家の中にいた女性は俺に気づき大声をだした。
「誰か!怪しい者が~」
俺はバルーから飛び降り再び闇の中へ消えていく。
その後村から飛び出し森を彷徨いカマン村を目指したが、方向さえも分からなくなる。
「どうやって帰ればいいんだ?」
そしてトボトボと暗闇の森を歩いていると突然足場が無くなった事に気づく、どうやら崖の様で暗闇で気付かず落ちたみたいだ。急な崖を転げ落ちながら俺は意識を手放していた。




