21話 仕事は下から順番にやるのが基本
作業を初めて3週間が経過している。昨日やっと敷地内全ての木根を処分する事が出来た。
根は太くて長い。幾ら魔法があるとしても掘り起こし撤去して行くには時間が掛かる。各自が作業を分担しながら効率よく進めて行く。
今は一日の作業を終え、簡易で作った休憩所にて明日の作業を打ち合わせている。作業開始前と仕事が終わってから打ち合わせを行うのが日課となっていた。
「いよいよ、明日からの作業は本格的な土木工事になって行く。
先ずは先行工事として下水道管を埋設して行こうと思う。後は水道管もだな」
「下水道管? 水道管? それは一体どの様な物ですか?」
シャトラが俺に尋ねてきた。シャトラはいつも自分が知らない単語が出ると詳しく聞いてくる勉強家だ。
俺も何度も夜遅くまで語り合っている。もし俺がいなくても今後シャトラがいれば大抵の事は処理出来るだろう。
「そうだな。先ずはそれから説明した方がいいな。下水道管とは食器の洗い、洗濯後の水など汚れている水を流す為に設置する管の事だ。それらの水は今まで地面に流して処理していたが、そんな事をしていると村中が臭くなるし、虫が湧く様になってしまう。だから新しい村では下水道管に汚水を流して一箇所に集めた後適正に処理する事に決めている」
「確かに…… 私もいつも処理水を流している場所は臭いと思っていました。アキノリさんが言うように下水道管に流す事によって清潔な村になるなら村中の女は喜ぶと思います」
花が咲いたような笑顔を見せてテナも喜んでいる。下水道管敷設自体は簡単な工事だ。今回マナトラの木を見つけた事でそれが現実となる。
「喜んで貰えるならやりがいがあるよ。それで次に水道管の説明なんだが、水道管とは水を運ぶ管の名前だ。今までは河に水を汲み長い距離を運搬しなければならず、それが重労働だった。だが水道管が在れば各家に直接水を送る事が出来るようになる」
「直接家に水を送る? それは無理だ。水が勝手に移動する訳がない」
「ライラック、お前が言う事も分かるが多分大丈夫だ俺に考えがある」
「本当にそれが可能ならばアキノリさんは歴代の大魔法士よりも名声を轟かせる事になる」
「そんな大層な事じゃない。原理さえ知っていれば簡単な事だ。この3週間で各材料も揃えている。明日は俺の家で集合してくれ、材料を運びたいからな。下水道管はコンクリートで作っているから大変だぞ」
夕方の打ち合わせを終えた俺達は各家へと戻っていった。俺は家に着くと家の裏で山になっているコンクリート製の土管とマナトラの木を加工して作って貰っていた仮水道管を見つめる。
水道管は直接マナトラの木を加工して塩ビパイプの代わりに使う。円形の土管を作るのにも大きなマナトラの木を型枠代わりに使ってコンクリートを打設している。
もしマナトラの木が無ければ下水も水道も難しかったかも知れない。
明日の作業が上手く行くようイメージを膨らませながら俺は家の中へと入っていった。
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翌朝、俺の家へ集まったメンバーは台車に土管や水道管を載せて何度も現場と置き場を往復していく。その日だけでは運搬しきれず。それから数日間は運搬作業に明け暮れた。
「俺とテナは現地でマーキングしてくるから、シャトラ達は引き続き運搬作業を頼めるか?」
俺はテナを引き連れて現場へと向かう。今の現場は何もない平地に近い多少の高低差はあるがその程度だと言える。俺はテナに寸法入のロープの端を持たせて延長を確認しながら、だだっ広い広場にテナに用意してもらった色粉で印を付けていく。
「この線は何ですか? ずっと一直線に引いていますが……」
「あぁ、これは管路が通る場所に印をつけているんだ。印をつけておかないと、この広い場所の何処を掘ったらいいのか解らないだろ?」
「そこまでシッカリとしないといけない物なのですか? 土の中に埋まる物なら何処を掘っても良いような気がしますが……」
テナは自分の考えを口にしていたが、それは大きな間違いである。
「もし、適当に管路を設置した場合、もし後で不具合が出た時に直したくても上に家屋とかがあったら直せないだろ? だから下水道管などの埋設物は通路になる場所に入れるのが一番なんだ」
「なるほど…… それもアキノリさんがいた場所の知恵ですか…… 言われてみるまで気づきませんでした」
「俺も昔から培われてきた知識をほんの少しだけ知っているに過ぎない。だからやれる事なんてたかがしれている」
「そのしれていると言っている事が凄いことばかりなんですけど……」
最後の方は聞き取れなかったが、呆れている様だ。俺は気にせずその後も整地しただけの土地に印を付けていった。
2日を掛けて、土地全体に管路図に合った印をつけ終わる。その頃シャトラ達も資材を運び終えたようで、俺達は掘削作業へと取り掛かる事になった。
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「俺の考えだが下水道管以外に埋める物もなく、道路を重量物が通る事もない。だから掘削深さは基本1m程度にしようと思う。後は勾配を付けて順に下げて行く感じだ。
まぁ高さ管理は俺がやるから、シャトラは以前作ったユンボの制作にとりかかってくれ。掘削作業はユンボでやった方が早いからな」
「あの巨大なユンボを俺一人で作るんですか? 無理です魔力が足りるわけありません」
「形は以前の通りだが、大きさは3割程度で大丈夫だ。それなら作れそうか?」
「前作った物の3割ですか…… それならなんとか…… でも作った後、魔力が無くなって何も出来なくなると思いますよ」
「あぁ、その後は休憩していてくれ。作業を見るって事も勉強になるぞ。俺も最初は見て仕事を覚えていたからな」
「そう言う事なら」
そう言うとシャトラは少し離れて、ユンボの部品を順番に土魔法で作っていく。今回は迷う事も無くユンボを作り上げていった。
そして最後の魔力を振り絞って組み立てた所でダウンしてしまう。
「ハァ、ハァ…… これで大丈夫の筈です。後はお願いします」
「あぁ、助かるよ。後はゆっくりしていてくれ」
そう言うと俺はユンボに乗り込み、水魔法のホースをシリンダーへと繋いでいった。シャトラとテナは救助活動の時に見ているので何も言わないが、ライラックは動き出しユンボを見て腰を抜かしていた。
そして俺はユンボをスタート地点に移動させると、順番に土を掘り起こして行く。
「いよいよ本番、先ずは地中の工事から開始して順番に上に施工していく。これが土木の基本だ」
俺は土木仕事と言う懐かしい感覚に歓喜を感じていた。




