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2話 魔力

 俺が助けられて3日が経過している。毎日看病に朝早くから、エルフのテラは顔を出してくれている。

 何故こんなに献身的なのか? その理由は解らないが何時も笑っているテラの表情を思い返せば単なるお節介焼きなのかもしれない。


「アキノリ、おはようございます」


「おはようございます」


 朝日は温かな光を大地に注ぎ込む、その差日差しを受けてテナの白い肌か光っているかに見えてしまう。この3日間で俺はテナ以外の村人とも会っていた。誰もがテナが連れ込んだ男を一目見たいと言う野次馬達である。

 彼等を見て確信した事はやはり、この世界は異世界であると言う事だ。

 老人や子供や成人など、テナの村には50名程の人が暮らしているらしいが、その全ての者達が小説に出てくるエルフであることは見た感じで間違いないだろう。


 3日掛けて異世界に飛ばされた事を理解する事は出来たが、俺の心配はこの世界で今後どうしたらいい? に尽きる。

 ずっと考えて最終的にはなるようにしかならないと言う事で落ちつくしか無かった。

 

 帰れるのか? 帰れないのか? の前に生きていく術を手に入れる。そう決めた俺はテラに1つの提案をする事にしてみる。


「テラ、この3日間で体の怪我も大分良くなっているから、何か手伝いをしたいんだ。俺でも出来る仕事はないかな?」


「う~ん。病み上がりで余り無理をするのは…… それじゃもう一度魔力の動きを見てみましょう」


 そう言ってベッドに近づき、先日と同様に俺の手を握ると目をつぶり何かを感じ取っている。


「前回よりは魔力の流れも落ち着いていますが、やっぱりまだ何か変な感じがしますね。流れを調整する為にも魔力操作を少しづつやっていけば回復が速くなるかも?」


「魔力操作?」


 魔力と言われても日本にいた俺には全く理解出来ない。

 固まったまま動かない俺の様子に気付いたテラは優しく声を掛けてくれた。


「もしかして魔法の使い方も忘れて…… ううん。安心して大丈夫だよ。私が教えるから!」


 下を向いていた顔をテラへ向けると、太陽の光の様にキラキラと輝く笑顔が見える。


(テラは優しい人だな。魔法かぁ~、もし本当に使えるのならやってみたい)


「教えて貰えるなら、是非挑戦させて下さい」


 魔法と言う言葉に好奇心を刺激され、俺の魔力操作訓練が始まった。

 

-------------------------

 

 その後ベッドから降りて転移した時に着ていた会社の制服に着替える。

 練習場へと向かうテラの後ろを付いて行きながら村の様子を観察してみると、文明的には遅れているとしか言えない景色が広がっている。

 人が踏みしめて作ったような凸凹の道、家屋は雨風が防げる程度で防犯対策など皆無だ。日本で暮らしていた俺にとってこの風景は衝撃であった。

 またこの村では若い男性が狩りを行い。女性が山菜などを採取する。子供や老人は村で軽作業を行っているとの事。働かざる者食うべからず、そんな言葉が実践されている世界と思えた。


 到着したのは小さな広場で周囲には木々が繁っている。この広場も木材を採取した事で出来上がった人工的な広場だろう。


「それでは始めましょうか。まずは私がやる事をよく見ててね」


 広場の中央付近にある、大きめの切株の上に座りテラは目を閉じた。神秘的な姿に思わず息をのむ。

 

「アキノリさん、今私は手のひらに魔力を集めています。一度触れてみて下さい」


 言われるままに、差し出された手を握ってみると、不思議な感覚が俺の手を伝わって感じ取る事が出来た。


「何か…… 暖かい物を感じます」


「うふふ、アキノリは感覚が鋭いみたいですね。これなら習得も速いかも知れません。今、感じている物が魔力です。魔力は生きる者全てに備わっています。魔法はこの魔力を使い発動するのです。

 まずは自身の中にある魔力を感じ取って下さい。感じ取る事が出来た後はその魔力を体全体に巡らすのです。そうすれば体は活性化し、普段以上の動きが出来るはずです」


「分かりました。やってみます」


 俺はテラの横にある一回り小さい切株に座ると、目を閉じてみる。意識を体の中へと向け、テラから感じた暖かい力を探した。だが幾ら探しても魔力なんて見付ける事は出来ない。

 そうしているとテラが俺の背中に手を当てる感触が伝わった。次に背中に当てた手の平から暖かい魔力を俺の体に流し込んで来るのが解る。


「そのまま、意識を体に向けて! 今私はアキノリに治癒魔法を掛けています。私の魔力を追って下さい」


 テラの指示に従って魔力を追って行くと、体中を駆け巡りながら俺の体内にある何かと結合していくのが判る。

 今度は結合した物を追って行くとそれは体中で見つかり、動き回っているようだ。


(もしかして、これが魔力? じゃあ、俺の意思で動かせるのか?)


 そう考えた俺は魔力と思しき物に意識を向けて、手に集まるように念じていく。

 すると、暖かい熱を発しながらその力は手の方へと移動を開始する。


「もしかすると、分かったかも知れません」


「本当ですか!? 普通ではもっと時間が掛かるのですが、速い人で30日、遅い人で100日以上かるのに…… 記憶を失う前はきっと凄い魔法の使い手だったかも知れませんね」


 それは無いなと思いつつも褒められて悪い気はしない。

 意識は魔力を捕まえたままで、俺は次の指導を受ける。


「次は魔力を体の内側から外側に向かって膜を張る感じで満たして下さい。すると魔力膜が一枚に連結されて魔力が突っ張った感じになる筈です。出来ればその状態を維持。

 その状態は身体能力や防御力が魔力膜の補正を受けて向上しています。失敗しても良いので一度やってみて下さい」


 指示に従い、魔力膜を形成するイメージを膨らませる。俺の意思に従い魔力が体を巡る。


(膜を張ったぞ! 次は維持だけど…… 結構難しいなぁ)


「何とか出来たけど、なかなか難しいですね」


「えっ!? 初挑戦で出来たの? 本当ですか?」


「はい、出来たと思う……」


「本当なら凄すぎます。じゃあ一度試してみましょう。向こうにある大きめの石を持ち上げて見て下さい」


 テラが指さす先には岩場があり幾つかの岩が転がっていた。俺は魔力膜が切れない様に慎重に立ち上がる。


(体が軽い…… 軽すぎる、まるで背中に羽根が生えてあるみたいだ。これならば!)


 軽い体は速度も上がっており、オリンピック選手の様なスピードで岩場まで移動する事が出来た。

 岩場に着くと俺は転がっている岩の中でも高さが2m程の一番大きな岩を掴み力を込めてみる。


「ちょっと、いくら何でもそんな大きな岩なんて…… え~っ!!」


 遠くから叫んでいたテラが驚きの声を上げた。

 実際、持ち上げた本人が一番驚いている。


(魔力すげ~!! まるで、人間ユンボじゃないか)


 腰の高さまで持ち上げた大岩をドスンと地面に置いた後、俺は万遍な笑みを浮かべてテラの元へと駆け戻った。


「アキノリさん、貴男は一体どうなっているのですか! 普通はあれだけの大岩持ち上げられませんよ」


「そんな事言われても……」


「本当に魔法は使えないのですか? 私を騙しているんじゃないでしょうね」


「違います。本当に使えないんですって! 信じて下さいよ」


「う~! 凄すぎて信じたくないけど、騙してるなら今見せずに隠しておく気がするし~ わかりました信じます。アキノリは凄い素質をもった記憶喪失者さんです」


「テラ、ありがとう。それで今後は魔力を体内で動かす訓練をしていけばいいって事かな?」


「普通では魔力操作の訓練を何年もやるのですが、アキノリは規格外なので、この際自分の属性も知っておきましょう」


 自分の属性…… 正にファンタジーだ。新しい未知なる力を想像して俺のテンションも急上昇していった。

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