16話 雨が止んで
俺達が村へ戻ってきた時には降り続いていた雨もやみ、厚い雲の隙間から陽の光が顔を覗かせ辺りを照らしていた。村は酷い有様で俺とケイブはその状況を見て言葉を失う。崩れた土砂は一回目の上に覆い被さり村の大半を土砂で覆い尽くしている。もし避難が遅れていれば作業に準じていた人は全員埋まっているだろう。
村が在った形跡は殆ど見当たらず残っているのは村の端に建てられた家屋のみで村には人影が見えない。もしかして巻き込まれた?と考えていた時、林の方角から声を掛けられた。
声を掛けてきたのはノエルである。ケイブがノエルに村人の状況を確認すると全員無事に避難しているとの事であった。その言葉を受け俺はホッと胸を撫で下ろす。避難が完了して少し経過した後に土砂が崩れて来たようだ。
今は林の中で仮の避難場を作って避難しているとの事で俺達はそこに案内された。
「アキノリ殿、貴方のお陰で村人の命が救われました感謝します」
俺が避難所に辿り着くと、村長が飛んできてお礼を告げる。
「巻き込まれる人が発生せず良かったです」
「仰る通りです。だが生き埋めになった者達はこれでもう……」
「まだ諦めるのは早いです。今は土砂崩れが発生してから3日程度しか経過していません。まだ家屋の隙間に隠れている人や魔法で生きながらえてる人がいるかもしれない。俺は崩れた場所にいたけど、亀裂も無くこれ以上の土砂崩れは発生しないと思う。もし俺に任せてくれるなら少々乱暴なやり方になりますが土を撤去してみます」
「アキノリ殿が? 確か属性は水だと聞いていましたが…… どうやって?」
「まぁ、上手くいく保証はないのですが、やってみる価値は在ると思います。もし救助を諦めているなら俺に一度だけやらせて下さい」
俺達の話を聞いていた者達は、変な事を言う奴だ!そんな雰囲気を醸し出しながら見ていた。普通で言えば彼等が正しい。土魔法使いが10人総掛かりで一日100m3の土を移動できるとすれば最初の土砂で3日、今回崩れた量を合わせれば3倍以上の10日以上は掛かってしまう。そんな長い間では土中に埋めらた人達が生きている可能性は殆ど無いだろう。
だけど土砂の撤去が2日程度で終わればどうだろう…… 当初の予定と余り変わらない。そうなると生存者がいるかもしれない。今回の方法は少々荒っぽく埋まっている人が怪我をするかも知れないが、死ぬよりはずっといいだろう。
長い沈黙の後に、村長は俺に任せると言ってくれた。
俺は土魔法使いを土砂の前に集めて今から何を行うかを説明する。
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「んで、この土砂をどうやって撤去していくんだ? 最初のやり方だと10日は掛かるぞ」
リーダーが誰もが感じている疑問を投げかけた。
「今までのやり方では魔力に無駄が多く運べる土の量も少ない。だからやり方を変えようと思う。俺が今から指示する物を土魔法で作り上げて欲しい。この物の出来上がり具合で作業の進捗が変わるとも言える。魔力の殆どをつぎ込んでいいから耐久性の高い物を作り上げて欲しい」
そう告げると、俺は彼等に一枚の図面を見せた。それはプラモデルの部品を手書きで書いた程度のお粗末な図面である。けれど物が作れれば後は何とかなると思う。
それから制作に半日が費やされたが、何とか目的の物が形になる。これを作るのに半数の土魔法使いが魔力を使い果たし地面でグッタリとしている。
俺は久しぶりに見た大きな機会を前に懐かしさを思い出していた。
(久しぶりだ。この世界でユンボを見れるとは…… でも浸るのは後だ。今は実際に動かしてみないと)
今回作らせたのは土魔法で形を真似したユンボである。俺には機械の知識など殆ど無い、だから見てくれはユンボと同じ物体と言える。今のままでは動く事は無い。
俺は土で出来たシートに座ると前方を見据えて両手の一本一本から水魔法で作った水のホースをユンボの関節部分に付けられたシリンダーへと伸ばしていった。シリンダーに水が接続されるとシリンダー内部に魔力水を充満させる。シリンダーの隙間は魔力で塞いでいるので水が漏れる心配はない。ブーム部分やアーム部分、全身後進を行う車輪の部分にもホースを繋いでみせた。
本当ならシリンダーには作動油と呼ばれる油を注入して油圧の力でシリンダーを伸縮させる事によりユンボを動かすのだが、今回は水魔法でそれを代用した形となる。
「それじゃ、動かすから離れて」
そう声を掛けた後俺は指の一本一本に意識を向けて魔力水を出したり引っ込めたりしてみる。すると土魔法で作られたユンボはゆっくりと動きだしてくれた。
周囲からは驚きの声が聞こえてくる。だが今はそれどころではない。操作レバーもないユンボを動かすのに合計10本もの魔力を調整しなければならない。気を抜けば頭が混乱して動かなくなってしまう。
ユンボが土砂の側までゆっくりと移動すると、その腕を大きく振り上げ先端に付いている大きなバケツを土砂の中へと押し込んだ。そしてそのまま土砂をすくい上げゆっくりと旋回を始める。
腕の届く範囲には大きな台がありそこに土砂を置く、この平台にはユンボと平行に作らせたベルトコンベアがあり、1台に一人の立たせていた。彼等はギアに魔力を注ぎベルトコンベアをゆっくりと動かしていく。5人の者達が魔法とベルトコンベアを使い50m程度先に土を運んだ。運んだ場所はこの場所より低く整地を行えば十分、今回崩れた土砂を受け取ってくれるだろう。
ユンボのバケツの大きさは2m3にしている。大きくすればそれだけ作業効率も上がるだろうが、今回は土砂の中に人もいる為この大きさを選んだ。
10人の土魔法使いが100m3動かすのに1日掛かるが、このユンボなら50回すくえば100m3となる。一日何百m3も移動させる事が可能である。周囲の者達はユンボの性能に驚き大きな声を上げていた。
「よし、このまま作業を続けるぞ。家屋の瓦礫を見つけたら、ユンボでの作業は中止し、別の場所の土砂を撤去するから、その間に魔法で土を動かしてくれ」
「オオォォォ!」
指示を飛ばして俺達は土砂撤去の作業を続けた。それから数時間後遂に家屋の一部をみつける。
「家屋の廃材を見つけた。シャトラ達はこの場所を頼む」
「解りました」
俺が違う場所の土砂を撤去していると後方から歓喜の声が聞こえてくる。どうやら生きている者がいたようだ。
俺は笑みを浮かべて、引き続き作業を続けた。そして日が沈む頃にはかなりの土砂が撤去されて、明日には全ての土砂がなくなるだろう。火属性の魔法で松明を作ることは出来るが、掘削作業時にユンボで巻き込んでしまう危険もあるので作業を中止する。
今日助けられた人は大人子供合わせて10名、みんな衰弱はしていたが命に別状はないとの事。どうやら強化魔法などを使用して瓦礫や岩の隙間でジッと耐えていたようだ。
後一日で全ての作業が終わる。まだ救出出来ていない人がいるなら何とか耐えて欲しいと祈っていた。
その後、避難所で食事を出された瞬間に俺の意識がボヤける。ユンボの操作は魔力の放出はそれ程でも無いが魔力操作に置いて想像以上に負担が掛かっていたようだ。倒れた俺を心配する様に人が集まってきているがどうする事も出来ずに視界は暗闇に包まれてゆく。




