11話 コンクリート
最後の材料である、鉄鉱石などは石灰石の少し先で見つける事ができた。これで全ての材料が揃い、いよいよ俺はコンクリートの制作に取り掛かる。
全ての建築、土木工事で必須の材料と言えるコンクリートを作り上げる事は重大な意味を持つ。高層建築物や強靭な外壁などにはコンクリートは大きな役割を担ってくれる筈だ。
そのコンクリートの主材料となるセメントを作り上げた。その他の材料は砕石と砂である。砕石は硬い青石を砕いて、砂は近くにある河から採取し集める事ができた。
全ての材料を俺の家の前に運び早速コンクリートを制作してみる。日本ではミキサーに全ての材料を適量放り込みドラムを回転させて練り合わせるのが普通だが、この世界にはドラムミキサーなんて存在しない。
だが機械の能力を超える魔法があった。今回も魔法を使ってコンクリートを練り上げる積もりだ。
「よーし! じゃあ早速生コン作ってみるか! みんなもよく見ていてくれ」
俺の周囲にはシャトラとライラック、テナと弟のルークがいた。誰もが俺が作る物を想像しながらワクワクしている様に思える。
俺の目の前には平板を釘で打ち付けて箱を作っている。この箱を俺達は型枠と読んでいた。型枠を様々な形に組み上げ内部にコンクリートを流し込む事で建築物を作るだ。今回は実験の為簡単な箱の形を選んでいた。
「先ずは砕石1tに対して砂が700kg、次にセメントが350kgで水が200kg…… 普通なら図りを使うけど今回は実験だから見た感じでやってみるか」
「シャトラは砕石をバケツに20杯、ライラックは砂をバケツに10杯づつ型枠の側に置いてくれ。俺はセメントと水を運ぶから」
「「解りました」」
俺の指示を受けたシャトラ達は機敏な動きで砕石と砂を型枠の側に運びだした。俺もセメントをバケツに放り込み5杯程の量を山にする。最後は水を数杯のバケツに汲み取り準備は完了した。
「んじゃ、やるぞ!」
俺は水が入っているバケツに手を付けると魔力を流し込む。するとバケツから水が溢れだし。横に並べられたバケツの水を次々と飲み込んでいく。その後、横で山になっている砕石や砂、セメントも飲み込みながら空中で渦を描き出した。
これは魔法による簡易ミキサーである。俺の魔力で水の量を増やした上にそれを操作し、そのまま生コンを練っているのだ。洗濯機と同じ様に渦を描き練り合わされた生コンは色をねずみ色に変えている。本来ならば水の量は少ないくしないとコンクリートはひび割れて強度が落ちてしまう。だが練り合わせや作業時にだけ魔法を使う事で流動性は増して作業効率がアップする。型枠に流し込んだ後、魔力水だけを抜けば品質的に劣化しないと言う計算であった。
3分程度練り合わせた後水を操作し、そのまま型枠へと流し込んでいく。これ程簡単なコンクリート打設は今まで経験した事が無い。型枠に流し込みながら少しづつ魔力水を抜いていけば丁度型枠の天端に生コンが収まっていた。
「これが生コンですか?」
シャトラの問が聴こえてくる。
「あぁ、そうだこのまま数日間放置すれば石と同じ程の強度を持つ筈だ。生コンの良い所はどんな形状にも作る事が出来ると言うことだ。石を加工するより時間も掛からない。」
「言っている事が本当ならば凄い事ですね」
「今回は実験段階だから、上手く行かなくても大丈夫だ。試行錯誤をしていけば俺が思い描く生コンが出来る筈だから。今日はこの後新しい街の予定地に測量を行いに行こう」
俺達はセメントの材料を集めながら街の予定地も探していた。地形や地質、近くに川などがあるのか? 色々と考慮しながら探していると、良さそうな場所が見つかっていた。
この村より半日程度離れた場所で日頃水を組んでいる川の近くだ。コンクリートを作った後は終に街の造成に着手する。
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「こんな風に魔法を使う人は初めて見ましたよ」
「画期的だ!」
予定地に付いた俺とシャトラとライラックは伐木作業に取り掛かっていた。前回と同様に水のチェーンソを駆使しながら、バッタバタと木々をなぎ倒していく俺を呆然と見つめながら二人が驚きを隠せずにいる。
「そうか? 水魔法を使える者がいれば誰だって出来ると思うぞ」
手を止める事無く、言葉だけを投げ返している俺に向かってシャトラは頭を書きながらボヤく。
「こんな発想が出来る者なんてこの世界にいるのだろうか? 見ただけでその魔法を真似出来るならこの世界は大魔法使いだらけになっていますよ」
そのボヤキは木々の倒れる音にかき消され薄れていく。
それから数日を費やし何とか伐木作業を終え、測量作業に取り掛かる。今回は前回と違い一人ではない。
手元が2人も居れば作業効率が格段に上がる事だろう。
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「改めて見ると、平坦でいい場所だ! これならいい街が出来る」
日が昇り周囲が見渡せる朝一に俺達三人は伐採を終えた場所の中央に立っていた。
昨夜遅くまで、伐採した木を一箇所に集める作業をしていた為に周囲は暗くよく見えなかったが、今見てみると此処を選んで間違い無いと思えた。
「じゃあ、早速測量に取り掛かろう。作業内容は昨日説明した通りだ。三人いれば早く終わる筈だ、がんばろう」
二人に声を掛けて、作業の開始を告げる。今回は前回の測量とは違い、角度も利用して測量する予定で、角度の目盛りをつけた円盤を用意している。レベル測量機の下にこの円盤を敷き回転させる事である程度の角度も知ることが出来る。これでこの辺りの平面図が掛ける筈だ。
その後、作業を進めて行くにつれ当初不慣れで作業しづらそうにしていた二人も要領を得て動きが良くなってくる。
日本の先輩の口癖だが、仕事はリズム。その意見に俺も同意である。
要領を覚えてリズムが良くなって行った俺達はドンドンと測量作業を進めていった。野球の球場程ある平地の測量を何とかその日の内に終え、数日ぶりに村へと帰る事となった。
次の作業は俺一人がメインだ。測量したデーターを元に図面を起こし、街の計画をたてる。