10話 実験
シャッシャ
ゴリゴリ
異様な音が辺りに木霊している。音の中心には俺とシャトラとライラック、それに応援で火属性魔法が使える者を呼んでいる。俺達は家の前に作業ヤードを作り、互いの魔法属性を利用しながら各々の作業に打ち込んでいた。
「これ位でいいですか?」
砂のように白く粒子の細かい粉を見せてきた。俺はそれを指で摘むと指の平でこすり合わせながら粒子の大きさを確認して行く。
「これなら大丈夫だろう。悪いが残りの材料もこれと同じ位になるまで粉砕してくれるか?」
シャトラは土魔法で作った岩のローラーを操作し、二つのローラーの間に岩を放り込み回転させながら粉砕していく。回転するローラーの間をくぐり抜けた岩は砂よりも小さな粒子となって反対側へと押し出される。
「解りました。では早速残りの作業に取り掛かります」
シャトラを見送った俺は今出来上がった白い岩の粉を木で作られた容器ごと受け取り、そのまま今回応援で呼んだ少年へと手渡した。
「ルーク、説明した通りに頼めるか?」
「うん! 良いよ。この粉に火を当てればいいんでしょ?」
ルークと呼ばれる少年はテナの弟だった。テナは親元を離れ一人暮らしだがルークはテナの両親と暮らしている。
「火属性の魔法を使える者を知らないか?」 とテナに尋ねた時に弟が火属性魔法を使える事を教えてくれた。
ルークはまだ12歳だが大人顔負けに魔法を使えるとの事。若手ナンバーワンの魔法の才能を持っているらしい。見た目は背も低く、肩で揃えられた髪型がオカッパにしか見えずに実年齢より幼く見えてしまうが、ハキハキと物を言う活発な少年だ。
ルークは俺から受け取った容器を見つめると、手の平から炎を出す。そして容器ごと業火で炙り出した。
「おい! 容器ごと燃焼させてどうするだ? 中の粉だけでいいんだぞ!!」
作業を見ていた俺が止めようと声をかけると、ルークはニヘラと笑って大丈夫だと返す。
「アキノリにいちゃん。容器は燃やさないから大丈夫だって! まぁ見ててよ」
そう言われて足を止めてみるとルークの言う通り容器が燃えている感じは見えない。炎はガスバーナーと同等の勢いがあるのに不思議である。
俺が首を傾げているとライラックが助け舟を出してくれた。魔法は自分の意思で効果対象を選ぶ事が出来るらしい。今回ルークは白い粉だけを対象にしている為に幾ら炎と接触していても他の物には影響が出ないのだ。
「魔法ってスゲーー!!」
魔法の有用性にビビりながら、ルークの作業を見つめていた。
「ルークもっと火力を上げれるか?」
手の平から放たれる業火を見ていたが、炎の色は赤く手のひらの近くだけが薄っすらと青い感じだ。
確か温度は高くなるに連れて青白く変わっていく筈であった。ろうそくの火は赤く温度は900℃前後程度だと聞いた事がある。ならば勢いのある今の炎は1000℃を超えた辺りだろうか? 俺が求めているのは1200℃を超える火力である。今のまだだと延焼温度が足らない可能性があった。
「無理無理、これで精一杯。魔力を幾ら放出してもこれ以上の炎は出せないんだ」
作業を続けながらもルークは左右に首を振る。
「炎の勢いを上げる方法……」
俺は眉に指を掛けて、何度もなぞる。これは俺の癖で考え事をしている時についやってしまう行為だ。
集中している時によく出ているみたいで、自分でもやっている間は落ち着いて考え事が出来る。
「今のルークはガスバーナーの様な感じだ……
カセットボンベにバーナーの火口が付いているだけ。幾ら火力を調整しても最大以上の火は出てこない。
じゃあバーナーよりも火力の高い物と言えば…… あっ鉄を切断するガス切断機があるじゃないか!!
となると切断機はアセチレンと酸素と使うのが一般的でアセチレンは火を付ける気体で酸素を流し込んで火力を調整する。ならば今の状況に酸素を流し込めば切断機と同じ仕組を作れるんじゃないのか!?」
続けて酸素を送り出す方法を考える。それはライラックが風魔法を使えるのでそれしか無いと安易に思いついた。
俺はルークの隣にライラックを立たせると少しづつ炎の中へ風を混ぜるように指示をだした。
二人共俺が何を言っているのか理解出来ない様子であったが、言われるままに行動を開始する。
ボワッ!
「駄目だ。それじゃあ単に風を炎の側面に当てているだけだ。炎が出ている根本から風を送り込んでくれ! それと風は炎をよく見て、青い炎が大きくなる様に魔力の種類を調整してくれないか?」
「魔力の種類ですか? 取り敢えずやってみますが……」
「あぁ、普通に体の中にある魔力を放出するだけじゃなくて、魔力を分別する感じで…… 解る?」
俺の説明に困惑している様子のライラックは迷いながらも試行錯誤を繰り返していった。
シュー!!
するとある時、炎全体の色が青く輝き出し、勢いが上がっていった。
「そう、その色だよ。やっぱり出来るんだ。二人共頑張って」
俺は予想道理の結果に喜びを表し二人に声援を送る。
「アキノリにいちゃん。凄い熱量だよ。こんな事今まで経験した事ない」
「まさか、2つの魔法を合わせると威力があがるとは……」
ルークもライラックも驚いていた。十分な火力で延焼されている白い粉も既に完成しているだろう。俺は二人の作業を止めて一度実験を始める事にする。
延焼作業を終えた白い粉をコップの中へ入れて上から水を注ぎ込む。その後よくかき混ぜていくと白い粉は水に溶け込みコップの中は透明になって行く。
「おし! 次はマナトラの茎をコップに差し込んでっと」
マナトラの茎とは、村の周辺に生息している花の名前で茎の部分がストローの様になっている。これはテナから教えて貰った事なのだが、この世界の小さな子ども達はこの茎を使って水などを飲んだりしているようだ。
マナトラの茎をコップに差し込んだ俺は、ストローの先からブクブクとコップの水に息を吹き込んでいく。ブクブクと泡を出す様子を見ていると、コップの水は少しづつ白い濁りを発生させていった。
その様子を確認した俺は自然と笑みがこぼれて行く。
「間違いないだろう…… これはやっぱり石灰石だ。地球と同じ素材がこの世界にもあるのか? なら他の材料も集めればアレが作れる筈だ」
子供の頃に授業で習った事があったが、石灰水と二酸化炭素を混ぜると白く濁る。
何故、白い粉を延焼させたかと言うと、石灰石は炭酸カルシウムで石灰水は水酸化カルシウムで違うものである。だが石灰石を延焼させる事で科学変化が起こり酸化カルシウムに変化する。それに水を混ぜると水酸化カルシウムが出来る訳だ。
何故俺がこんな事を知っているかと言うと、一度先輩と共に大きな金額の公共工事を行った時、元請け側から管理を任されていた設計事務所の担当者に、今回作ろうとしている物の事でかなり虐められ、負けん気をだして専門書を購入し色々勉強した中にこの事が書かれていた。
この実験のお陰で持ち帰った素材が石灰で在ることが実証された事になる。
「これで1つ目は集まった。後は3つ位かな?」
その後シャトラ達を呼び寄せ、他の材料が在ると思われる場所を訪ねてみる。一つは村の近くで取れると教えてもらい。後の素材も探してみるつもりだ。
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俺達は数日後石灰石が取れた場所へと舞い戻っていた。今回の目的は珪石と呼ばれる材料を見つける事だ。石灰石と同じように白い色をした岩で、俺も本やネットで画像や説明文に目を通した程度しか解らないが俺が作ろうとしている物には絶対に必要な素材である。怪しい素材は手当たり次第採取するつもりでいる。
「見つかると良いけど、もし見つからなかった場合は何か代用でも考えてみるか?」
村を作ると言う目的からズレている事に気づかないまま、俺達は珪石を求めて山を歩き出した。




