異世界に必要なチートとは
『小説家になろう』では異世界転生、及びにその上チートな何かを貰うと言うのがお決まりのパターンになってきつつあるが、果たして異世界に必要なチートとは一体何なのだろうか? 今回はその事について考えてみたいと思う。
まず、「異世界転生の主人公」について考えてみたいと思う。
異世界転生の主人公は、大抵の場合人生に絶望している者達だ。大抵はトラックや電車などの車両に轢かれたり、または殺人鬼に殺されたりするのだが、大抵の場合主人公は人生という物に絶望している。
主人公が人生に絶望する理由は作品によって様々だが、家族仲や失恋、社会情勢への不満と言った読者達がそうだなと納得するような、そう言ったありきたりな要素が多い。これは逆に分かり辛い理由を出すよりかは、皆が読んで「あぁ、これだったらこの世界に未練がないし、納得」と言うのが欲しいからだろう。
最近の異世界転生物は1クラス丸ごと転生させるクラス転生や、異世界人が召喚した者の召喚に巻き込まれての巻き込まれ転生などもあるが、この2つでも主人公はたいていの場合、人生に絶望している者が多い傾向がある。
続いて、「召喚される異世界がどう言った世界なのか」について考えてみたい。
異世界、というだけあって、例えば○○県の○○地方などと地球上に転生される物は極端に少ない。またそう言った作品は「転生」と言うタグは付けられても、「異世界」と言うタグが付けられるかどうかは微妙な話である。その場合は「乙女ゲーム転生」などのゲーム世界への転生、「過去に転生」などの時代軸を変えた転生などもあるだろう。まぁ、今回はあくまでも「異世界」と言う定義で話を進めているのでこの話は止めておこう。
異世界転生物において一番多い異世界は、やはり魔法の世界である。魔法と言う、現代社会の科学とは別の物が幅を利かせている、魔法の世界が一番大きい。これは「科学の世界では主人公はダメな子ではあったが、魔法の世界では主人公は凄い」や「魔法の世界で魔法が使えない主人公は面白い」などと、そう言った思惑があっての事だろう。
「剣と魔法の異世界」と端的に表現される事が一番多いが、「魔法の異世界」は合っても、「剣の異世界」はあまり少ないと思われる。そう言った意味でもやはり魔法が強いと言えよう。
文化レベルについてだが、これは多くの場合、地球水準よりも低い場合が大抵を占める。これは「地球の知識を使えるぜ!」と言った地球知識の披露の場を整えると共に、「もっと良い世界にしよう」と言った主人公の向上意識を出すためとも考えられるだろう。
次に考えるのは、「異世界に転生される理由」についてだが……これは多くの場合、テンプレかされている物がある。そう、「神様のうっかり」である。
「うっかり死ぬ人を間違えてしまいましたー」などが一番多く、「そのお詫びにスキルをあげよう」などと繋げられるためにこのパターンが一番多い。
他にも「神様の暇つぶし」や「その世界に危機が迫っている」からなどが多く、比較的マイナーな物としては「世界との切れ目に落ちてしまった」、「召喚された者達を懲らしめるため」などもあるが、総じて言える事としては大抵は神様が関連する物が大多数を占める。また異世界の危機などのための勇者召喚が次点を占めるため、このどちらかが「異世界転生物における転生される理由」と言えるだろう。
この時、「異世界に転生すると元の世界に帰れない」も多く、これは先に挙げた「異世界転生の主人公」が多くの場合、その世界に絶望しているためにその世界に帰らせる話はどう言った感じなのかと言う面もあるのだと思われる。
では、先の3つの点から「主人公が異世界に必要なチート」を導き出していく。
今回は一番、ベタなケースから、異世界に必要なチートを考えていきたい。
・「主人公は社会的な面で世界に絶望して、トラックに轢かれて死んでしまう。しかしそれは神様の不手際であり、元の世界には帰れない。お詫びにと神様がスキルをくれて、主人公は剣と魔法の異世界へと旅立つのであった」
まぁ、どこかで見た事があるくらいベタベタで見た事があるような内容であるが、今回はこのケースで「異世界に必要なチート」を考えていく。
そもそも「チート」とはどう言った物なのだろうか?
辞典で調べると、ズルや騙すと言った意味の英単語であり、制作者の意図しない動作をさせる行為の事を指す。一般的には、ゲームなどに使われる言葉である。
この意味から考えるに、「チート」とは相手にズルや騙すと言った事を思わせる能力の事を指すのではないか? それならば以下のようなスキルが私の頭に浮かんだ。
・相手よりも強くなるスキル
・騙して自分の都合の良いようにするスキル
この2つを的確に表したスキルがある。
そう、「ステータス変換」だ。
物の情報を変えてまったく別の物に変えたり、主人公のステータスを変えたりして無双出来る。うん、十分に先の2点を満たしていると言えよう。
また前者の「相手よりも強くなるスキル」に着目すれば他人のスキルやステータスを強奪する「スキル強奪」や、食べれば食べるほど強くなる「ラーニング能力」なども挙げられるだろう。
後者の「騙して自分の都合の良いようにするスキル」は、ちょっとばかし違うかも知れないが、なんでも入れる事が出来て入れた物の個数を無限に増やし続ける「無限アイテムボックス」、相手に対して意識を無理やり変える「洗脳スキル」などもそれに入るだろう。
これでも十分にチートではあるが、だが待て。
今回の条件では「剣と魔法の世界」への異世界転生、つまり魔法についての要素が抜けているのではないだろうか?
先に挙げたスキルでは、魔法と呼べるかどうかは若干微妙な物がある。ならば今度は魔法を中心にして考えてみる事にする。
魔法でのチートスキルとしては、あらゆる物を燃やす火炎魔法などの「他の人が辿り着けないくらい強い魔法」や、自分で好きな魔法を作り出す「魔法創造」、または魔力無限で使用出来る魔法はなんでもありな「制限なし魔法」などがある。
他にも色々あるだろうが、チート魔法としてはこう言った物が多いのではないだろうか?
こう言った考えで行くと、主人公がどう言ったスキルを貰って、どう言ったチートにするかが見えてくると思う。
さて、ここで一番の問題をあげよう。
小説家になろうにおいて、異世界転生チートと言う物が付けば、同じように当たり前のように付いてくるものがある。それが「俺tueeeeee」などの主人公最強設定である。
主人公が最強で、無双するのは構わない。だが、少し待って欲しい。
先に挙げたスキルは確かに個々同士ではチートではあるが、同じように戦ったらどうだろうか?
例えば、こう言った異世界転生チート小説があったとする。
・「主人公は友人の異世界転生に巻き込まれて異世界転生する。友人はあらゆる魔法を作る事が出来る創造魔法を手に入れるが、それに対して主人公は神様から貰った洗脳の力で友人を僕にするのであった」
この場合、チートである「創造魔法」が、同じチートである「洗脳能力」に負けている。つまりは「創造魔法」が劣っているように見えてくるのではないだろうか?
ちなみに「洗脳能力」も、同じく「ラーニング能力」に変えても話は繋がるだろう。「スキル強奪」でも同様だ。
では、一番強いチートとは、チートを従える事が出来る「洗脳能力」や、チートを食べる事によってそのチートも手に入れる事が出来る「ラーニング能力」、チートなスキルを奪える「スキル強奪」の事だろうか?
しかし「洗脳能力」でチートな奴らを従わせているとは言っても、それは本人が強くなっているのではなくて、チートな戦力が整いつつあるというだけの話である。
また「ラーニング能力」でチートな力を手に入れたからと言っても、それは自分の身に他に強いスキルがあると言うだけの話。「ラーニング能力」が最強な訳ではない。「スキル強奪」も同様だ。
そう言った意味では、異世界転生物で本当にチートなスキルとはどう言った物なのだろうか?
考えても、考えても、この問題は根が深そうである。