月
スーパームーンに寄せて。
今夜はスーパームーンだとか。月が大きく見えるんだと。
ベランダに出たら、確かに普段より大きく見える月。
「月が綺麗だな」
その途端、がちゃん、と食器がぶつかり合う音がして、俺は室内を覗き込んだ。
「どうした、大丈夫か?」
「ああ、いや、なんでもない」
器用なあいつにしては珍しい。壊れたりはしてないから気にするなと云う、その頬や耳がほんのり紅く見える。
「具合でも悪いのか?」
「それはこっちの台詞だ、月が綺麗だって、お前……」
「ん、ほら今日スーパームーンとかで月が大きく見えてさ、凄く綺麗なんだよ。お前も洗い物一段落ついたら見に来いって」
「……ソウデスカ」
「?」
なに残念そうに溜息ついてんだ?
「お前がそんな文学的な台詞を吐く訳もないか」
半ば居候みたいに押しかけて一緒に過ごしているくらい、こいつは俺にとって大事な友人だ。
だからなのか、俺には意味不明な言葉を呟いて寂しそうに笑う姿に、胸の辺りがざわざわと落ち着かなくなった。
原因は全く判らないけれど。
それにしても――今日の月は綺麗だ。あいつみたいに。
見たままを云った男と、裏の意味があるのかと一瞬勘ぐった男。
自分できちんと月を拝んでから書けば良かったかな、と少しだけ後悔。