追いつけない、追いつきたくない。
自分があいつを追っているという事に気付いたのは3年に上がる前であいつとよく目が合うなんて自惚れては自分に冷静になれと言い聞かせた。
恋をしたことがないなんてわけじゃない。なんで、あいつだけ特別だったんだろう。みっともなく声を挙げて泣きたくなるほど苦しくて、息が詰まるほど切なくて、自分の中から突き破ってきそうなほどにあつい熱。
今思い返せば、明らかに付き合えたのだろう。それが出来なかったのは、弱くておろかなその時の自分のせい。
自分は大人でなんでもできるなんて思いあがっていた、あの時付き合った元カノとの思い出はその時の愚かさを俺に知らしめるように心に爪を立てる。
『誰を好きでもいい、それでも私は…』
『先輩っ!』
あいつと元カノの声と顔がクロスして、重なって。癒えない傷がまたじわりと血が滲む。近くて遠くにあったあいつの笑みが、あいつとの思い出が、太陽のように輝く傍らで元カノとの思い出も笑みも月のように寄り添う。いいわけなんか出来るはずもない。
どちらも触れていいものじゃなかった、きっと。だから、ただ幸せにと祈ろう。もう追いつけないところで笑っている二人を遠くから見つめながら。