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22 今回だけは諦めたくない #3


 焦っていた四重郎の思考が止まった。キャンディは確か、爆発で跡形もなく消し去ったはずでは無かっただろうか。どうにかして、逃げていたということ――……? 前回は、パステルの能力をキャンディは知らなかった。意表を突くことも、思わぬ力の発揮によって戦力を逆転させることもできた。だが今回は――互いの能力を知られている戦い。そういった形になるだろうか。


 向こうにも戦い方があるということだ。四重郎は受話器を握り締めた。


「……できるだけ、高い場所に逃げろ。ビルの屋上とか――そういうところがいい」

「分かりました!! では、どうにかして近くの一番高いビルに逃げます!!」


 そうして、通話を切った。携帯電話を閉じると、すぐにヘッドセットを掴んだ。電源を入れると小さな電子音がして、四重郎を超人へと進化させる。顎を引き、集中した。


「詩織ちゃんかい?」

「はい、恭平さん。どうやら逃げたみたいで。恭平さんたちは、先にパルスへ向かっていてください。俺も詩織を助けたら向かいます。俺の本体だけ、重くてすいませんが背負って貰えませんか」


 恭平はすぐに理解して、頷いた。冗談ばかり言う人だが、本当に頭の回転は速い人だ。


「ありがとう、頼む。行きましょう、社長。磁石姉妹」


 四重郎はパステルへと意識を移した。どこをどう直したのか四重郎にはさっぱり分からなかったが、痛みは跡形も無く全快していた。動きも軽やかだ。この調子ならば、キャンディとも戦えるだろう。


 恭平が四重郎の本体を背負ったことを確認して、四重郎は窓から先に飛び出した。



 風は落ち着いている。天候は良く、遠くを見渡すことが出来た。四重郎は屋根から屋根へと飛び移りながら、黒髪の少女を追い掛ける。水族館まではすぐに辿り着ける。問題は、詩織がどこに逃げたのかだ。


 どこかのビルの屋上に逃げろと話したが、あの辺りは高いビルが多い。ならば――四重郎はすぐ近くのビルの上へと登った。銀髪の少女とドリルを探す。いくつかの背が高いビルからビルへと飛び移りながら、四重郎は目当ての人間を探した。


「四重郎さん!!」


 四重郎は振り返った。それを発見すると、四重郎は意識を集中した。出来る限りの最大出力で、そのビルの上へと飛ぶ。上昇して頂点に達し、下降する。その間に四重郎は右腕を着地点へと向けた。


 キャンディがこちらに気が付いた。


「武装発現『カラーリングガン』」


 花柄模様の玩具のような拳銃が現れる。四重郎はそれを二、三発、着地点へと撃ち込んだ。すぐに下のトリガーを引き、着地前に爆破させる。煙の中に四重郎は着地し、すぐに移動した。


「武装発現『カラミティドリル』」


 煙の中、宣言が聞こえる。やはり、あっと・キャンディ――四重郎が最初に戦い、勝ったはずの相手だ。四重郎が恭平に直して貰ったように、パルスドールは何度でも復活するのだろう。だが、そうすると不審な点が一つだけある。


 考えながら、四重郎はビルの外へと飛ぶ。一度目の爆発は着地を狙われないためのカモフラージュ。自分の動きが見えない反面、相手の動きも見えなくなるのが問題だ。四重郎は滑るように屋上の手すりに捕まり、そのまま降りるように崖に捕まる。この態勢ならば、煙が晴れるまで見付かることはないだろう。煙が晴れるのを待った。


 既に戦闘態勢になり、辺りを見回しているキャンディが見えた。四重郎はそれを確認してから崖に捕まっていた両手に力を込め、飛び上がるようにして屋上に戻った。


 キャンディがこちらを確認すると、歯を見せて笑った。


「あんた、すごいじゃん。最初に手合わせした時とは見違えるようだよ」

「お前こそ、生きていたのか」

「まあ、顔は吹っ飛んだけどね。ビルから落ちたよ」


 粉々になった訳ではなかったということか。その後、何者かによって回収されたのだろうか。


「お前は作戦に失敗しても、三上に捨てられなかったんだな」


 キャンディは眉根を寄せて、不満そうな表情になった。


「磁石姉妹と一緒にしないでよね。あいつら、パルスドール・サーカスでもダントツで弱かったんだからさ」

「……そうかよ」


 正直、パルスドール・サーカスでの優劣など興味はない。四重郎は詩織を見た。不安そうな表情が見て取れる。


「待ってろ」

「はい!」詩織は嬉しそうに笑った。


 四重郎は意識を集中した。キャンディも意識を高めているようだ。パルスドールの本来の力を開放するためにはある程度の集中が必要だと、これまでの戦いで理解していた。


「諦めんの、やめたの?」キャンディは挑発するように、四重郎に聞いた。


 深く、深くへと降りて行く。前回のキャンディとの戦いでは、より深くに浸透する何かを掴んだ――感情かもしれない。それを探し当てるように、意識を沈めていった。身体の芯で疼く熱い何かを取り出すように。


 やがて、四重郎は『それ』へと辿り着いた。その熱い何かに触れようとすると、水の波紋のように意識が広がっていく。それは、とても鋭い――


「やっぱり、間違いじゃなかったんだね。パステルには、そういうのがあるんだ」


 四重郎が目を開くと、足元に水の波紋のように広がる現象を確認することができた。身体の芯で疼く熱いものが全身に広がっている。神経が研ぎ澄まされていく。


「諦めんのは、やめたよ」

「そ。んじゃ、どうする?」


「――――走る」


 四重郎はキャンディに向かって走った。低空を飛ぶように姿勢を低くし、右手にカラーリングガンを構えた。キャンディもまたその攻撃を受けるため、姿勢を低くする。


 だが、四重郎はそのままキャンディの右側を走り抜けた。キャンディが振り返る前に四重郎は後ろに飛び、宙返りをしながらキャンディに銃を乱射する。まるでキャンディの動きがスローモーションであるかのように見えた。あの時と同じだった。


 かろうじて避けたキャンディに構わず四重郎はアクショントリガーを引いた。爆発が巻き起こる。


 その煙に紛れるようにして、四重郎がキャンディを殴り飛ばした。思わぬ位置からの攻撃に、キャンディはそのまま殴られる。受身を取り、キャンディはドリルを構えた。


「楽しいなあ!! こんなの、詩織以来だよ!!」


 瞬間、キャンディの姿がぶれたように見えた。四重郎は構わず銃をキャンディに向かって撃ったが、キャンディはそのモーションを見てから前方に飛んだ。上空から四重郎に向かって、ドリルを投げつけた。四重郎が右に避けると、四重郎が元いた位置にドリルが強く突き刺さった。そのまま、キャンディは着地する。


「っしゃー!!」


 屋上の地面に刺さったドリルをキャンディは掴み、ドリルを回転させた。抜き取る動きしか予想していなかった四重郎は、ドリルを軸にぐるりと回転して飛んできたキャンディの蹴りをかわすことができず、もろに腹を蹴られた。


 数メートル飛んで、受身を取れずに四重郎が転がる。キャンディはドリルを抜き取り、大きく構えた。


「ぶっ壊れろ!!」


 間違いない。キャンディは、四重郎の動きに付いて来ている。このように研ぎ澄まされていくものなのか――……。四重郎は飛んできたドリルに銃を構え、ドリルを撃った。アクショントリガーを引くと、目の前で爆発が起こる。


 煙でキャンディの姿が見えない。四重郎が探そうとする前にキャンディは四重郎の左に現れ、カラーリングガンを蹴り飛ばした。高く跳ね上がるカラーリングガンを追い掛ける暇もなく、キャンディの右ストレートを四重郎は左手で掴み、勢いを殺した。


「四重郎さん!!」


 煙が晴れ、蹴り飛ばされた四重郎のカラーリングガンと爆発の勢いで吹っ飛んだキャンディのドリルが、音を立てて地に落ちた。


 四重郎とキャンディはお互いの拳を掴み、睨み合った。


「何が望み? 詩織を取られたのがそんなに悔しいの?」

「取られたとしたら、別に悔しかねーかな」

「じゃあ、何で助けようとするのさ」


 四重郎は目を閉じ、意識を集中した。


「自由に、歩いてみようかと思ってさ」


 掴んでいた左を離し、右の拳を振り被る。


「ちょっ」


 キャンディが防御の姿勢に回るよりも早く。


 電光石火の動きで、キャンディの腹に拳を叩き込む。めり込む拳に力を込める。


 水の波紋が広がった。


「貫け!!」


 四重郎の――パステルの瞳が赤く揺れる。衝撃にパルスドールのボディが耐えられず、キャンディはそのまま腹を貫かれる。


「ぐふっ……!!」


 透明な液体が降り注いだ。瞬間、勝敗は決した。


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