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第1話

 月が隠れた夜に真っ黒い山が幾重にも連なっている。

深い杉林の中には光る眼が幾つも潜んでいた。

用心深くて貪欲な光は、動くものを見つけようとしており、これらの光は狩りにでた狼達の眼なのだ。

狼たちを恐れる動物達は、茂みか藪の中に息を潜めてじっとしている。

見つかった弱いものが、より強いものに食われる、これは、ずっと昔から続くこの山の夜の有り様だった。

 ある霧の夜、狼のガエルドは仲間から離れて一人で狩りに出た。

一年前にガエルドは狩りの途中で熊と出会い、頭を熊の巨大な前足で打たれて大怪我をしていた。

それからガエルドは殆ど目が見えなくなっていた。鼻も前のように効かなくなっている。

仲間と狩りをしても獲物を先に見付ける事が出来なくなってしまい、一人で狩りをすることにしていた。

特にむせかえる程の今夜の霧の中ではガエルドは殆ど何も見えなかった。

誇り高いガエルドは、それでも仲間の誰にも助けを求めず、耳だけを頼りに狩りに出た。

例え獲物を狩るのに苦労しても、他の狼に頼るのが嫌だったからだ。

 丁度そのころ同じ山の中を、親からはぐれた1匹の子ぎつねが元気なく歩いていた。

普段、こんなに夜が更けるまで一人で歩く事はなかった。

名前をミーシアと言う。山でひときわ高い一本杉の袂がミーシア達親子の住処だった。

昼間に遊んでいるとき、この濃い霧に道を見失ってミーシアは迷子になっていたのだった。

濃い霧が目印の一本杉の場所すら判らなくした。しかも夜はまだ長い。

寒々しい夜露がミーシアの茶色の毛皮をしっとりと濡らした。

霧は濃く張り、風もない。目を凝らしても遠くを見通すことはできなかった。

歩いても歩いても見たことのない場所ばかりで、これでは当分帰り道を見つけられそうにない。

せめて明るければよかったが、朝になるにはまだ随分掛かるだろう。

こんな所でもしも狼にでも出会ったら大変な事になる。

早く一本杉の袂に住む父さんや母さんのところに帰りたかった。

そのとき、すぐ傍で枝を折る音が聞こえた。誰かいる。

反射的に動きを止めたが、霧が奪った視界の性で本当に間近に来るまで気が付かなかった。

そこに顔を向けると、目の前に1頭の大きな狼がいた。

あっ、とミーシアは声を上げた。

隠れることが出来なかったというよりも、すでに見つかっていたのだ。

その時、自分がいつのまにか狼の山に迷い込んでいた事に気づいた。

それだけではない、夜に狼に見つかる事は何より危険な事だった。

目の前の大きな狼がこっちを見ていた。

「何をしているんだ?」ガエルドは見知らぬ者に問いかけた。

ミーシアは怖くて声が出せない。だが狼の次の言葉がミーシアを驚かせた。

「いくら狼の子とはいえ、子供が一人で狩りをすると怪我をするぞ」

なんと自分を子供の狼と間違えているのだ。

「親狼とは逸れたのか?」狼が問う。間違いない、霧で見えなくて勘違いしたのだろう。

「はい、みんなと逸れて迷っていたんです」ミーシアは子供狼の振りをした。

力強い前脚が自分の目の前にあった。下手に逃げていれば逆に捕らわれたに違いない。

「俺はガエルドという名前だ。朝になったら親狼を探してやるから付いてこい」

ミーシアは自分を狼と間違えた狼のガエルドに従えられて狩りをする事になった。

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