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2話 とりあえず昔話でも

「こんな暴力そうな娘は、駄目だ。調教しがいはありそうだが、今はそんな気分ではない。

……隣の小娘を金貨20枚で買おう」



さんざん私の眼の前で話し合っていた2人の決着が、ついたようだ。

どうやら、私ではなく、隣の檻でチョコンと座っている女の子が、中年貴族に買われることに決まったらしい。私を売りたがっていた奴隷商は一瞬、渋い顔をしていたけれども、無事に金貨が手に入ったのが嬉しいのだろう。ニンマリとした意地悪そうな笑みを隠しきれていない。



「へへへ、今後も御贔屓に」



とか言いながら、女の子を何処かへ連れて行く。不安そうに瞳を潤ませる女の子を引きずって、一層暗い奥の部屋へと消えて行った。たぶん、あの部屋で何か契約の儀式でも行うに違いない。






静まり返る奴隷部屋。

冷たい床に、ごろんっと寝転がってみるのだが、夜に沢山寝たせいだろう。まったく眠りに付けなかった。修行をしたくても身体を動かすこともままならないし、他の奴隷と仲良く話すような気分にはなれない。檻に入れられてから数日間は、逃げ出すことも考えたのだけれども……思いつく作戦はどれも現実味のないモノばかりだ。せいぜい、(私にとって)都合の良い人物に買われることを願おう。


さて、……どうせで鎖に繋がれていたら何もできないので、私があの痩せ男――――奴隷商に売られたのか、きっかけと成り立ちを思い返すことにした。
















私が生まれたのは、霧に覆われた農村だった。

村の設定も、上に姉が1人、兄が2人という家庭環境から見ても、小説に登場した傭兵の生い立ちと同じだ。だから、『あぁ、やっぱり転生したんだ』と実感したのを覚えている。




それにしても、日本では考えられないくらい、とても貧しい村だった。中でも私が転生した家庭は、貧相で、食事も一日一食……それも殆ど野菜の切れ端が申し訳ない程度に浮かんだスープや、硬くて食べられないパン一切れと言った日も少なくない。だけれども、私はあまり不満を感じなかった。なぜならば、15歳まで我慢すれば……『勇者パーティー』として良い生活環境を手にすることが出来るのだ。




その証拠に、右肩に刻まれた産まれた時からある『痣』。

実はこの痣、勇者パーティーのメンバー全員に全く同じものが刻まれている。この痣こそ、勇者の仲間になれる印なのだ。……もっとも、それが判明するのは終盤決戦直前なのだけれども。





とにかく、どうやら女神の言った通りに転生したらしい。

それを確認できた私は、さっそく技を磨くことに決めた。……2歳の時である。

本当は、もっと前から修行をしたかったのだが、いかせん。立ったり歩いたりが容易にできなかった。

魔術の練習もしたかったのだが、こちらは魔力を引き出す媒介品『魔石』が無ければ使用できないのだ。兄弟で外に遊びに出た時、それとなく探してみたのだけれども、そう簡単に見つかるはずがない。もちろん、武器の類(包丁など)を2歳児に持たせてくれるわけもなく……



結局、2歳児の私に出来たのは、格闘技の練習だけだった。

腕立てをしたり、兄弟と相撲まがいのことをやったり……食事が貧相なだけあって、力は出なかったけど、3つ上の兄にも勝てるくらいの力があった。『さすが、未来の勇者パーティーの一員だ!』と、自分では思っていたのだが……




両親や兄弟たちは違う感想を抱いていた。

『リアは、凄いね!』『女じゃなかったら、立派な格闘家になれたのに』と褒めてくれた彼らの裏側に隠されていた思いを、私が読み取っていれば……少しは違う結末になったと思う。

でも、褒められた私は有頂天になるばかりで、それにまったく気が付かなかった。











5歳になった時、旅の魔術師が魔石を見せてくれた。

小説の中で『魔石をアクセサリーに使う貴族がいる』という記述があったが、分かる気がする。

宝石と称しても顕色無いくらい、美しい。石から貴賓が溢れ、光を受け見る角度から色が違って見えた。これを発光させるくらい、魔力を流し込み、始めて魔術を使うことが出来るのだ。



このままの状態でも十分綺麗なのに、発光したら、どれほど美しく輝くのだろうか―――



『ねぇ、僕も魔法を使いたい!!』



そう言いだしたのは、1つ下の弟だったと思う。鼻水を垂らしながら、キラキラとした眼差しを魔術師に向けていた。それに便乗し、私を含めた子供たちが魔術師に群がる。

最初は鬱陶しそうにしていた魔術師だったけれども、堪えかねたようにこう叫んだ。



『よし、じゃあ魔石に魔力を発光させられた子には、魔術を教えてあげる』



誰もが魔力を多少は持っているけれども、魔石を光らせるくらい魔力を持った人間は、あまりいない。

実際に、数人の子が挑んだけれども魔石はうんともすんとも言わない。その様子を、もとから魔術なんて教えるつもりのない魔術師は、楽しそうに眺めていた。



『じゃあ、次は私がやりたい!』



私は魔術師の前に立った。兄弟たちが『馬鹿力で握り潰すなよ!』と言っていたが、無視することにする。

魔力の流し方なんてわからないけれども、とりあえず小説に書いてあった通り……精神を集中させ、気を注ぎ込むようなイメージで、魔石を握りしめた。


途端、魔石が輝きを増し始めたのだ。

誰もが……魔術師でさえ呆気にとられる中、私の指の隙間から7色の光が放たれる。それは虹のようで、思わず見惚れてしまった。



『す、すごいな嬢ちゃん。7色……全ての魔術を使える素養があるなんて……』



その時、私は気が付かなかった。

魔術師の瞳の奥に『バケモノ』を視るかのような『恐れ』がチラついていたことに。










それから数日経過した頃、父親が神妙な顔を私に向けた。



『なぁ、リア。リアの一番上の姉さんがな、結婚することになった。その資金が家にないんだ。だから、これを隣町まで売りに行ってくれるか?町に入ってすぐの赤い屋根の店で、買い取ってくれるから』



そう言って、父親は私に薪の束を渡した。私は元気よく頷く。5歳児の手も借りなければならないくらい、いえの状況が切羽詰っているらしい。なら、言われたこと以上のことをやって、褒めてもらおう。私はそう考えると、早速薪を背負い村を出た。







……そう、この段階で気が付くべきだったのだ。

普通、まだ勘定もうろ覚えな5歳児1人で、薪を売りに行かせるだろうか?

確かに、少し変だなとは思った。だけれども、小説の展開上……たぶん、何にもなく村に戻れるだろうって思っていたのだ。『もしかしたら、格闘家の師匠的な人と出会えるイベントかもしれない』なんて甘い考えを抱いていた自分が恥ずかしい。



『すみません、隣村から来ました。買い取ってください』


赤い屋根の前に腰を掛けていた痩せた男に、私は元気いっぱいに話しかける。

痩せた男は、私を爪先から頭の上まで鑑定するかのように見定めた後……



『カメリアちゃんかな?』

『はい、カメリア・ドゥーレです!薪を売りに来まし――っ!』



背後から突然、腕をつかまれる。私は宙ぶらりになってしまった。



『頭、どうしやす?』

『とりあえず、檻に入れておきましょう。“魔族に憑りつかれたように、薄気味悪い子”と男は言っていましたが、視たところ普通の女の子ですし』



魔族に憑りつかれた?何の話だろうか?

話が全く理解できなかったけれども、このままではまずいということだけは理解できた。私は腕を拘束している男の鳩尾に、思いっ切り蹴りを入れる。



『ぐふぁ!』



どうやら、上手く入ったようだ。腕を握られた力が緩み、その隙に私は地面に降りる。



『ねぇ、どういうことなの?私……ここに来れば、薪を買い取ってくれるって……』



そう言いながら、痩せた男を見上げる。痩せた男は、にんまりと人意地の悪そうな笑みを浮かべた。悪意に満ちたその顔に、ぶるっと震えてしまう。



『ねぇ、答えてよ!』

『嬢ちゃん、嬢ちゃんはね、売られたんだよ。今日から嬢ちゃんは、奴隷なんだ』

『ど…れい?』



がーんっと、固いもので頭を強打されたような感覚が奔る。

嘘だ……小説と違いすぎるし、それに……なんで……?なんで自分は売られたのだろうか?

裏切られた衝撃と絶望とで、私は言葉を無くした。



その呆然と立ち尽くすリアを、痩せた男…奴隷商が見逃すわけなかった。

すかさず部下に命じ、私に手枷を嵌める。



がちゃり……という重々しい音。

その音は、私に『絶望』の二文字を叩きつけたのだった。





―――もう絶対に逃げられない、という名の絶望を―――








さっそくお気に入り登録してくださり、ありがとうございます。

まだまだ序盤ですけれども、精いっぱい頑張ります!


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