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13話 王都到着!



「ったく、女々しいったらありゃしない」



チェックイン済ませたばかりの宿屋を出た私は、はぁっと盛大なため息をついた。



大通りに面している中堅より下のランクの宿。

品物を売る声が響き渡り、人生最高!と言わんばかり楽しげに語りあい、人が絶え間なく寄せて返す波に、身を投じた。



まったく、なぜ私がいい年をした少年の手を引いて行かなければならないんだ。

たったいま、宿屋に放り込んできたクレインを思い出す。なんと彼は、話にならないくらい動けなくなってしまったのだ。





この人波に投じた瞬間、見事にクレインは流されてしまったのだ。

流れる人ごみのなか、クレインのバタつかせる手しか見えなくなった時には、内心ヒヤッとした。




『た、助けてくれ~~~』




と目を回しながら右往左往人波の流れに身を任せる様子は、しばらく忘れることが出来ないだろう。

これだと、他の大きな街でも似たような出来事が起きるのではないかと不安になってしまう。




結局、魚をつかみ取るようにクレインを捕まえた後、まっすぐ宿屋に放り込んだのだ。

ぐるぐるに目を回して、吐き気を感じるクレインを連れて歩くなんてこと出来ない。邪魔だ、邪魔過ぎる。





そりゃ、クレインは田舎育ちだ。だがな、まさか本当に『都会の人に酔ってしまう』なんてことが、起きるなんて思ってもみなかったぞ。

というか、いくら多いと言っても所詮はファンタジーの世界。現実の渋谷や新宿のスクランブル交差点に比べたら、たいしたことない。



「号外!号外だぁ!!」



ふと気がつくと、紙をばらまく男の周りに人が集まっていた。

『号外』になるような出来事が、この時期に起きたっけ?そう思いながら、風に舞う号外をつかんでみる。

本当ならばこの場で読めたらいいのだが、生憎と私の読解速度は遅い。

識字チートはないのだ。時間を掛ければ読めるのだが、こうして立ったまま読むのは苦手だ。



そのまま路地に入り込み、号外を広げてみる。



「えっと、なになに―――《異世界の巫女様の予言》―――はぁ?」



素で、変な声を出してしまった。

いや待て待て待て。そんな存在、聞いたことがないぞ。小説の端から端まで、ゲーム版も全て思い出せる限り思い出してみるが、該当するデータが見つからない。



「もしかして、私と同じ存在か?」



それなら、まだ納得がいく。

転生者とかトリップ者とかなら、私自身がそうだし、他にも存在していてもおかしくはない。

どうせ、小説の中で起こった『未来の出来事』を『予言』として発表しているだけだろ。

『小説に登場しない予定の、自分がいる』のを考慮していない、未来の出来事を。

案の定、書いてある内容は予想通りのモノだった。



「『勇者の仲間である魔術師が、魔力暴走で倒れる』、『魔王の配下:レヴィアンが○○村に毒をばらまく』、『××街の住人を操り人形にして、△△城を襲う』、『カメリアという女傭兵が災いをもたらす』『火を吐く悪龍が王直轄の森を焼き払う』……全部既存の情報ばかりね。………あれ?」



畳みかけた号外を、慌てて広げ直す。

いま、間違いなくおかしな情報が混ざっていた気がする。



「『カメリアという女傭兵が災いをもたらす』……って、そんなのなかったはず」



額から汗が流れる。

小説の中の『カメリア・ドゥーレ』は、正義感の強い女傭兵だ。災いを起こすことを一切許さず、勇者が血迷って世界を滅ぼしかねない術を使おうとしたときなんて、身体を張って止めようとしていた。



自分の命がなくなってでも、セカイを平和にする。



そんな熱い心の傭兵だ。

……私には、そんな熱い心なんてないけど。



「な、なになに―――

『女傭兵:カメリア・ドゥーレは、自分が世界の中心だと考える頭の痛い女。

格闘技・剣術・魔術の才に優れていたが、5歳で奴隷として売り飛ばされる田舎娘。

特徴、黒目黒髪。

この女が加入することにより、勇者パーティーは崩壊。加入しなかったとしても、世界を我が手に収める自分勝手な夢へと突き進む可能性が大。

発見次第、早急に始末すべし』



……なにこれ」



『世界の中心が自分』?そんなこと、ありえない。そりゃ、転生した直後はそう感じていた時期もあった。だが、奴隷として売られてから、クレイン達と出会ってから『一般人』として生きている。



それに、世界を我が手に収める?そんな馬鹿げたこと考えてない。

というか、まずはキーナのために『黄金百合』を手に入れなければならないのだ。そんな無謀で無駄極まりないことに時間を割く余裕なんて、これっぽっちも存在しない。



「でも、早急に始末すべし、か」



幸か不幸か、クレイン達の村で過ごし始めてからの情報が一切乗っていなかった。

奴隷として売られたが、奴隷紋は刻まれなかったし、今は『リア』で通している。剣術と魔術を使わなければ、『カメリア』だと思われないだろう。



「いったい巫女は何を考えているんだ?」



私が彼女(巫女だから女だろう)の立場だったら、似たような境遇の者同士、情報交換をするために探し出すことをするだろう。それなのに、始末ときた。何故、私が殺されなければならない?巫女に都合の悪くなることでも、私はしでかしたのか?



「よう、嬢ちゃん。みたところ傭兵みたいだが……」



路地から出ようとした途端、スキンヘッドの男たちに囲まれてしまった。

男たちの手には、先程の『号外』が握りしめられている。……情報を手に入れるのが、おはやいことで。



「はい、そうですけど?」

「名前は?」

「リアですけど。……あの、行ってよろしいでしょうか?兄を待たせているので」



遠慮がちにスキンヘッドたちの間を通ろうとしたが、その隙間を塞がれてしまう。



「リア……カメリアに似てるなぁ~」

「黒髪黒目だし」

「ひょっとして『災いの女』じゃねぇの?」



にやにやと気味の悪い笑みを浮かべながら、徐々に私との距離を縮める男たち。

私は、はぁ……っとため息をついた。まったく、本当についてない日だ。これだと、王都で『黄金百合』の情報を集めるのは難しそうだ。



「かめりあって、この号外の人ですか?あのですね、私は『格闘』だけです。剣と魔術なんて、使えっこないですよ」



号外をひらひらっと見せながら、やる気なさ気に呟いてみる。



「まぁ、どっちにしろ少し大人しくしてもらおっか、嬢ちゃん」



――――説得不可能。

どことなく下心のある下品な笑みを浮かべ、男たちは近づいてくる。さてと、ここはどういなすべきか。



年頃の娘らしく、叫んで助けを呼ぶ?

それは、無理。

大通りの喧騒が酷くて、こんな小さな路地裏の声なんて誰も聞こえやしない。



じゃあ、押して通る?

それも、無理。

容易過ぎることだが、完全に目をつけられてしまう。ここは出来る限り穏便に済ませたい。

野蛮な男との距離が、僅か数メートルに迫ってきた。




さてと、どうしてやろうか?




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