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第一話 大切な人

この世には、光と闇、正と負のように相反する世界が存在する。


光とは搾取する側であり、一定水準以上の生活を保証されている、そんな世界だ。そして

闇とは光と対極に位置する世界、つまりは搾取される側、もしくは、この世の汚れた部分。光の世界の皺寄せが全て闇の世界に押し付けられているのが現状だ。


人々がそれを望むか望まないかに関わらず、それが生じてしまうのがこの世の道理だ。


特に先進国に光が、後進国に闇がそれぞれ多く存在する傾向にある。とはいえ、闇の世界が一部日常化してる後進国と、光の世界が一部表面化してる先進国とではその光と闇の世界に抱く概念が異なってくる。


もちろん、全ての国々にこの現象が当てはまるわけではないが、一般的にはそう考えられている。


そんなこの世界において、前世の行いか、はたまた神の気まぐれによるものなのか、偶然にも先進国に俺は生まれた。


俺が生まれた国の名は、太陽の国・カルディナ。大国の中では珍しい島国であり、学術に力を入れており、優秀な人材も多く、技術革新が相次ぎ、世界でも有数の技術大国として知られている。


同時に、戦力不保持や交戦権の否認など、平和を掲げている国でもある。しかし、その背景には、世界を巻き込んだ世界大戦にて敗北したことによる影響がある。


力を付けてきたこと、そして当時のカルディナ国の国王が野心的な性格をしていたことにより、カルディナ国はまず海を隔てた先にある森林の国・フォーレシアに目を付け、すぐに進軍を開始し、その軍事力をもって瞬く間にフォーレシア国を支配下においた。だが、それも長くは続かず、氷河の国・アイラルク、砂漠の国・サハーリア、落雷の国・ドゴールなどの反感を買ってしまったために、今度はその三国との戦争が始まり、さすがの戦力差にカルディナ国は敗北し、国王は処刑され、軍は解体された。そして、戦勝国の取り決めにより、カルディナ国は現在の平和主義の形へとおさまった。


そんな平和な国に生まれた俺は果たして運が良かったのか、悪かったのか。


それは、闇の世界に一歩踏み出すまでは、それなりに意義のある問いだったのかもしれない。






★◆★◆★◆★






平和だ……、雲ひとつない綺麗に澄み渡った青空をぼんやりと眺めながら、ふとそう思った。そんな中、特に理由もなく思考を自身の過去へと移す。


俺、風間竜児が生まれたのは丁度世界大戦の真っ最中だった。その頃には、カルディナ国は劣勢をしいていて、軍人だった両親は3歳だった俺と2歳の妹、美麗を施設に預け、戦場へと向かった。


しかし、戦争が終結しても両親が帰ってくることはなかった。いまだ両親だと断定された死体は発見されておらず、生死不明ではあるものの、身体の損傷が酷く身元の判明が不可能な死体も数多くあるため、生きている可能性は限りなく低いだろうというのが多くの人達の見解だ。


実際俺も期待などしていない。もはや親の顔も思い出せないためか、俺の中では失ったというより始めから欠けているという認識だ。


今傍にいる俺の家族は妹の美麗だけ。それだけが唯一無二の真実だ。


そして、結局親が戦場から帰ってこなかったため、戦後急激に増加した戦争孤児達のために建てられた複数の孤児院のうちの1つに、俺と妹は移された。その時、俺はまだ5歳だった。


初めは支給される食料も少なく、満足に腹を満たすことなど到底出来なかった。もともと戦争中から食料不足は続いていたため、長いこと満足に食事もとれず衰弱しきった体ではもはや泣き喚くことすら億劫で、ただ何もせず部屋の隅でじっとしてる日々が続いた。そしてある日、俺にとって決定的な出来事が起こる。


その日も、いつも通り何のやる気も起きず、ひたすら腹を空かせて部屋の隅でじっとしていた。他の子供達は、同じようにじっとしてる者もいれば、食料を求めて外を彷徨ってる者など様々だ。


その時、近くで動く気配があった。ふと視線を隣にやると、そこに美麗がいた。他の子供達同様、ひどく痩せこけていて、服も所々破けたりすり減ったりしており、お世辞にも綺麗とはいえなかった。将来を期待せずにはいられないその美しく整った顔も、今の状態と相俟って、美麗を薄汚れた人形のような様相にしていた。


そのまま美麗を眺めていると、美麗の腕が上がり俺の服の腕の部分を掴んだ。


「おにいちゃん……、おなか…すいた…」


美麗はとても弱々しくそう呟いた。少し心が痛んだ。何とかしてやりたいと、そういう思いは確かにあった。しかし、あまりの空腹感やたまり溜まったぶつけるあてのない怒り。そういったものが合わさった結果、その時の俺の心は酷く荒んでいた。


俺に、いったい何が出来る。苦しんでる俺にこれ以上何を望む。何故俺に頼る。大人がいるだろう。自分で探せ。こういった負の感情が俺の中で渦巻いていた。


「おにい…ちゃん、おなか……」


パシンっ!!


その言葉の途中で、俺は美麗の手をうち払ってしまっていた。


「あっ……」


美麗が顔に悲しみを浮かべて小さく呟いた。


「うるさい、……じぶんでなんとかしろ……」


俺の人生最大の汚点。何故こんなことを言ってしまったのか、今でも後悔している言葉だ。間違ってもこんなことを言うべきではなかったのだ。


しかし、そもそも戦争が終結した直後であり、まだ混乱が収まっていないなか空腹感に苛まれ、孤児院の院長が仕事に追われていたために頼る大人もいないこの状況下に5歳の男の子も4歳の女の子も耐えられるはずがなかったのだ。


俺の言葉に美麗は涙を流しかけ、そこをぐっとこらえるが、結局は我慢出来ず、静かに涙を流しだした。そしてそのまま嗚咽を漏らしながらとぼとぼと歩き、外へと出ていった。


俺の心は完全に麻痺していた。現状をうまく理解できておらず、どこか他人事のように感じていた。どうせすぐに帰ってくるだろうと、俺はそう考えてそのまま、何もかもが面倒になり眠りに落ちた。


気づいたら夜だった。少量の食料が支給され、腹が少し満たされた事により徐々に理性的な思考が戻ってくる。その時になってようやく何かがおかしいことに気づいた。何かが足りないのだ。


何気なく周りを見渡してみると、あるべき姿がそこにはなかった。いつも俺の傍から離れなかった妹がそこにいなかったのだ。考えてみれば、夕食のときにもその姿は見当たらなかった。


何故気づかなかった?いや、それよりも何処へ?そこまで考えてようやく眠りにつく前の記憶が 鮮明に甦ってきた。


そこでことの重大性に気づいた俺は、次の瞬間には外へ飛びたしていた。誰かが俺を呼び止める声が聞こえたが、そんなものを気にしてはいられなかった。


俺はひたすら美麗の影を求めて街中を走り回った。誰かにぶつかろうが、つまづき転ぼうが構うことなく探し回った。


今この現状で美麗が頼れるのは俺しかいなかった。俺しかいなかったのだ!!!この地獄の中、本来なら守ってくれるはずの親もいないこの絶望の淵で、唯一頼れるのが家族の俺だった。それを俺は知っていた筈だ。なのにそれを俺は突き放してしまった。


そこまで俺は追い詰められていたのか?たった1人の家族を突き放さなければならないほど、俺は追い詰められていたというのか!?


否、断じて否だ。たかが空腹くらいで、何を俺は絶望していた?何を諦めていたんだ?俺は、自分に甘えていた。先に生まれてきた俺には、後から生まれてきた妹を守る義務がある。その義務を俺は放棄してしまった。美麗を泣かせてしまった。……最低だ。


いつまで経っても見つからない妹の影に、俺は次第に恐怖した。また失ってしまうのか。家族を失ったばかりなのに、またなのか。その恐怖がじわじわと心を蝕んでいった。


身体中がボロボロになり、体力が限界に近づいてきたとき、何処からか、嗚咽が漏れ聞こえてきた。


そこで足を止め、耳を澄ませる。そして心臓の鼓動が高まっていくのを感じながら、その泣き声のする方へ近づいていくと、……いた。いてくれた。


路地裏の木箱や樽が散らばっている中に隠れるようにして、美麗は蹲り泣いていた。心が痛んだ。こんなに悲しませてしまっていたのか。最低な兄だな、俺は。そう胸中で呟いた。


そのまま足音をたてながら美麗へと近づいていく。そうすると、足音に気づいたのか美麗は肩をビクッと揺らせてゆっくりと顔を上げた。


「お、おにいちゃん……!!な、なんで……?」


俺はそのまま美麗の前まで歩くと、膝から崩れ落ちて、美麗を抱きしめた。


「ごめん、……ほんとにごめん。もうあんなこといわないから。なんでもする、だからもう なかないで」


俺はそう言いながら、涙を流した。そのとき、美麗が五体満足無事でいられたことはほぼ奇跡に近かったのだ。実際、戦後間際でまだ治安が安定していないなか、子供、それも4歳の女の子が夜の街を1人で歩くことはとても危険な事だった。本来ならば、誘拐されてそのままどこかの金持ちの好色家に売られていたという可能性も十分にあったのだ。


その危険性を無意識の内に感じ取っていた俺は、美麗が無事であることに歓喜した。本当に大切なものは失って初めてその大切さに気づくものだと、このときばかりはそう思った。


「ぐすっ……、おにい…ちゃん……こわ…かった……」


「だいじょうぶ、もうだいじょうぶだから」


震えながらも必死に俺にしがみついてくる美麗に俺はなるべく優しく聞こえるように囁いた。


俺の胸に顔をうずめる美麗を、俺は優しく、かつ力強く抱きしめていた。


ようやく落ち着いてきたのか、美麗は俺の胸から顔を離して、話し始めた。


「ねえ、おにいちゃん……、わたしっていらないこ?だから……パパとママはかえってこないの?」


美麗はそう呟いたんだ。きっと俺がそうさせてしまった。


「ちがう!!!……ちがうよ。ひつようだよ。ずっとそばにいてよ。やくそくして、ずっといっしょだって」


俺は美麗との間により強い繋がりを求めた。より強い絆を。もう二度と離れることがないように。彼女を1人にしないために。自分が孤独にならないように。


「えっ!あっ、う、…うん、わかった、……やくそくする」


美麗は少し驚いた表情をした後、恥ずかしそうに頷いてくれた。


「おにいちゃん……ありがとう」


さて帰ろうか、というときに微かにそんな呟きが聞こえた気がしたのは、俺の自惚れだろうか?


その後、慎重に孤児院まで帰り、そのまま美麗と同じ布団で身を寄せ合って寝た。身も心もなんだか暖かかった。


その日から俺は変わった。それはもう劇的に。抜け殻のような生活は終わった。まずは考えた、どうすれば美麗を守れるのかと。それからというもの、俺が行動するときの最優先事項は美麗となった。


支給された食料は生命の維持ができ、かつ身体の成長を阻害しない程度だけとり後は美麗に渡した。その際、俺は5年間生きてきたなかで最高の演技力を駆使し、まだ幼かった美麗に腹が減ってないと信じ込ませた。最悪強引にでも食べさせるつもりではあったが。


しかし、俺が渡した分を含めても腹八部にすらならない量だ。そのため日中はひたすら金を稼ぐか、食料を探すのに費やした。外はまだ完全に安全とはいえないため、外出の際には最深の注意を必要とした。


様々な店を巡り、何を必要としており、何を買い取ってくれるかなどを聞いていく。


そして、結果今の自分でもできそうなビン集めや鉄くずを集める作業を行うことにした。


ただ、一日探し回っても、売れ残りの固いパンを一個買える程度しか集まらなかったが、まだ子供の俺たちにはそれで十分だった。毎日、稼いだ金で一個のパンを買い、それを2人で半分こして食べるのが日々の楽しみとなっていた。


その他にも、美麗が寝たのを確認してから、孤児院の庭に出て、体力作りに勤しみ、朝まだ皆が寝静まってる頃に起床し同じように体力をつけていくというのを日課とした。


そういう生活を半年ほど続けた結果、美麗は血色が良くなり、肌にも赤みがまして、今では以前よりもだいぶ健康的な体となっていた。


俺はというと、美麗の存在が生きる意欲をもたらした結果なのか、以前とは比べ様もないほど生気に満ち溢れている。


そうして月日は流れ、俺が7歳になる頃には各国も落ち着きを取り戻し、カルディナ国も戦争から立ち直ってきたため、治安も回復し始め、孤児院の貧しさもだいぶ改善された。


孤児院の連中もその頃には元気を取り戻し始め、以前より食料事情がよくなった結果か、元気に遊びまわるやつも出始めた。


ただ美麗はというと、いつも俺と一緒にいる。その理由として、俺らが孤児院の子どもたちに敬遠されてるということがある。


あの事件以降、美麗に笑顔が戻り始め、幸せそうな表情をする事が多くなった。それには、俺が美麗になるべく不幸を感じないよう、笑わせようと頑張ったことも関係している。


ただ、そんな俺たち兄妹のやりとりが癇に障る奴らがいたらしい。もちろん、他の子供達もこの現状に耐えれるはずもなく、日々ストレスを抱えていて、どこかそうした鬱憤をはらす捌け口を探していたようだ。


そこで、皆が現状に絶望する中、笑い合う俺たちは周囲の嫉妬を呼び起こし、ストレス発散の絶好の標的となった。


俺が美麗に食料を渡していることも気に入らなかったらしく、俺がまだ6歳くらいの頃、いらないなら寄越せと言ってくる輩が出てきたのだ。


当たり前のように断ったが、その日から俺たちに対する地味な嫌がらせが始まった。食料支給の際に、わざと俺にぶつかって、食べ物を床に落とさせたり、寝るとき部屋の隅に追いやられたり、布団をめちゃくちゃにされたり、などなど。それまでまだ直接的な危害が加えられることはなかったため、そのときは我慢していた。しかし、いじめ開始から一週間ほどでそれが起きた。


皆が寝静まったのを確認し、日課の訓練を行うために庭に出た。あまり美麗を1人にしたくなかったため、そのときは早めに訓練を切り上げるようにした。そして急いで水浴びをして、孤児院に戻ると、何故か一角に集まってる子供達がいた。俺が帰ってきたことに気づいてないようで、止めることなく何かを言っていた。


丁度その角が俺と美麗の寝る場所であり、彼女がそこで寝ているはずだった。嫌な予感がして急いでそこへ向かうと声が聞こえてきた。


「ぐすっ、……やめて……、やめて……」


「くいもんもってんだろ!だせよ!」


「もってない、…もってないよ」


「このまえ、パンかってただろ!しってんだぞ!」


「……もういい、おまえら!こいつのふくをひんむいちまえ!!」


「い、いや、やめて、もってない、……もってないよ!っ、いやぁああ、やめて!おにいちゃんたすけて!!」


男子が5人ほどで抵抗する美麗を取り押さえ、その服を引っ張ったり、乱暴したりしていた。数人の女子がその後ろで笑っている。既に妹の服は所々破れており、肌が少し露出していた。叩かれた後もあった。


それを視界におさめた瞬間頭の中で何かが弾けた。身体中が熱くなっていき、それと比例するように頭は冷えていき、思考が研ぎ澄まされていく。より残酷に、冷酷に。


こいつ等は、殺す!!


この思考で頭が埋め尽くされる。気づけば、殺害対象までの直線上にいた女子共を弾き飛ばし、一番近くにいた男子の顔を殴り飛ばしていた。そこでようやく俺に気づいたらしい、他4人が美麗を離し、俺の方を向く。


「なっ、おまえ!!いつのまにっ!?」


その間に距離を詰め、1人の首を正面から殴りつけ、股間を蹴り上げる。まだ硬直している隣の男子に視線を移し、脛を思いっきり蹴り、痛みに顔を歪め、脛をおさえようと屈んだところで顔面に膝をめり込ませた。


「ぐはっ!!!」


「くそっ!!おいっ、やるぞ!」


「お、おう!」


そこでようやく残りの2人が再起動して、こちらに向かってきた。理由は分からないが、俺は対人での戦闘方法を本能的に理解していた。そのときは、特に不思議に思うこともなく本能に従った。そんな俺にとって鍛えてもいないひよっこの攻撃を避けるのなど容易いものだった。相手のなかには10歳の男子もいたようだが、そのときの俺にとってその程度の年の差など何の意味もなかった。


「なっ!?」


相手2人の攻撃を避けて背後にまわる。そのまま振り返りざまに右側の男子の横腹に回し蹴りを叩き込み、倒れたところを馬乗りになって、顔面を殴りまくった。


そいつが気絶した所で、最後の一人に目を向けると、そいつは腰をぬかして、へたりと座り込み涙を流しながら、漏らしていた。


「あっ、ああっ、た、たのむ、た、たすけてくれ……」


俺はそのままそいつに近づき、顔面に一発蹴りを入れた。そのままそいつが吹っ飛んでいくのを確認する。


そこでふと周りを見渡すと皆が怯えた目で俺を見ていた。


唯一美麗だけが、その目に俺に対する怯えの感情を含ませておらず、どこか呆然としていた。


とりあえずここから出て水浴びでもさせようと考え、美麗の元まで歩こうとしたら、突然我に返った彼女が、走って俺に抱きついてきた。


「おにいちゃん……もうどこにもいかないで」


「…ああ、ごめんな」


そうしたやりとりを経て、美麗を外へ連れ出し水浴びをさせた。その日、俺らは帰らずに外で寝られそうな場所を探して二人身を寄せ合って寝た。


その次の日、孤児院に戻った俺らは、というか俺が院長にこっぴどく叱られた。5人とも重症だそうだ。暴力じゃ何も解決しないということから始まり、憎しみは憎しみを生み、その連鎖はどこかで断ち切らなければならない、などともはや何の話をしているのかが不明なところまで話が及んだ。正直そんな理想論に興味はない。あそこであいつらを叩きのめす以外の選択は俺には考えられなかったし、それを行ったことに何の後悔もしていない。


結果的に美麗が無事ならそれでいい。そして、美麗に害をなすであろう危険分子を排除できれば完璧だ。


それを院長にはっきり断言すると、院長は諦めた顔をして、これからの話を始めた。


どうやら他の子供達は俺と共同生活を送ることに不安を感じているらしい。結果、孤児院の裏にある、使われていなかったボロい倉庫を俺たちはあてがわれた。


「ある程度使えるほどには修復してあります。朝食、夕食の時間になりましたら私がご飯を届けにいきますので、後は好きにおやりなさい」


そう言って、院長は立ち去った。成る程、これは好都合だ。そう思って美麗を連れて倉庫へと向かった。広さは八畳ほど。トイレは外にあるのを使えばいいだろう。まずは掃除からだ。そうして俺と美麗の新生活が始まった。妹はどこか嬉しそうだった。


なるべく快適な環境にするため、日中の鉄くず探しなどを終えてから掃除というのを3日ほど続けたら、粗方片付いて綺麗になった。そうしてその次の日から、鉄屑探しと同時に使えそうな家具も探し始めた。


いろんな家を廻っていらない家具はあるかなどを聞いてみた。そうして脚の折れかけた椅子が2つに汚れたテーブル1つ、他にも小さい本棚なども手に入った。こうして美麗とのそれなりに充実した日々が始まった。


それからは、朝起きて、倉庫の前で体を鍛え、朝食を美麗ととった後、彼女と一緒に外へとビンや鉄屑、ついでに使えそうなものも探す。そして倉庫(家)へと帰り美麗と笑いながら話をしたり、拾ってきた本を頑張って読もうとしたり、勝手に考えた遊びで遊んだり、部屋の掃除をしたりと有意義な時間を過ごした後、夕食を食べてから水浴び。美麗に先に水浴びをさせ、その間俺が誰も来ないよう監視する。このとき、孤児院の子供達とは時間がずれるようにしてる。そして美麗を先に寝かせ、倉庫の鍵を閉めてから、外で体を鍛え、水浴びをして俺も就寝。布団が1つしかないため必然的に美麗と同じ布団で寝ることなるが、それにはすぐに慣れた。ただし、朝起きたら美麗が自身に抱きついた状態なのにはなかなか慣れないが。


そんな日々が5年近く続き現在のこの言葉に至る。


「平和だ……」


日々の探索で見つけた2人だけの秘密の場所。街のそばにある山を登り、見えにくい場所にある洞窟をぬけた先にそこはある。広大な湖が視界を埋め、それが太陽の光を反射し、キラキラと輝く様はどこか幻想的で美しい。


そんな絶景を眺めながら芝生の上で美麗に膝枕をしてもらってる俺。


「ふふっ、……ほんとだね、お兄ちゃん」


どこか 嬉しそうに呟く美麗、現在11歳。綺麗になったな、素直にそう思う。きっともっと綺麗になっていくんだろうな。綺麗な黒髪を肩までのばし、その整った顔はまだ幼さを残しながらも見るものを全てを見惚れさせる美しさをもつ。いつか俺のもとを離れるときがくるのだろうか。そう思うと少し悲しくなるが、美麗が幸せならなんでもいいか。今の美麗の笑顔を見ていると自然とそう思ってしまうから不思議だ。


この平和がずっと続きますように。そう願わずにはいられなかった。


「こんな日がずっと続いてくれればいいのにね」


「……俺はお前が幸せなら、なんだっていいさ」


「っ!!わ、私だってお兄ちゃんが幸せならそれで……」


そう顔を赤らめて話す美麗。本当に平和な日常だ。俺らはこんな風景が、そしてこんな生活がずっと続いていくことに一片の疑いも抱いていなかった。



だが、俺達はまだ知らない。


これが仮初めの平和であることを。


そして、この先に絶望が待ち受けていることを。



そんな未来を俺達は、予想すらしていなかった。




誤字脱字、読みにくい点などがあれば遠慮なく指摘してください。


未熟な文章力でごめんなさい。

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