マニアックな趣味
いったん終了
あれ?どうゆうこと?
「ごめん、我慢出来なかった……」
「へっ!?」
佐々良氏の腕が私の肉に食い込むのではないかと思うほど強く巻きついてきた。
あれ、もしかしてこれプロレス技かな?
「ぐ、ぐるしっ」
「あ、ごめん」
「げほっ」
佐々良氏は腕を緩めて、背中を摩ってくれた。ありがたいけれど、いつまで暖をとっているつもりなのだろうか。そろそろ良いんじゃないかな。
「んぎゃっ」
突然の奇怪な声、失礼しました。いや、だってね、何か耳にね、生暖かいものが、ってまたっ!?
「ちょ、佐々良さん、一体何をっ!?」
「……神崎さん、良い?」
「だから何がっ!!??」
わけがわからない。わけがわからない。
何故佐々良氏の手が私の肉を撫でるように弄っているのか。佐々良氏の口元が私の耳元にあるのか。佐々良氏の息が若干荒いのか。
わからない。わからない。
そんなことされる意味が、わからない。
「ふんぬおっほー」
「おわっ」
未だかつてないほどの奇怪な掛け声を出して、私は佐々良氏の体を突き放した、というか投げ飛ばした。そこらへんの骨っぽい女の子よりは力があるんだよっ!
「いいかげんにしてくださいっ」
デブをからかうなんて趣味の悪いことを。
「騙されるとでも思ったんですか」
私は知っている。
「私みたいなデブでブスでオタクな女を、」
好きになるような、
「マニアックな趣味を持っている男がいるなんてっ!」
「いるよ」
……へっ?
「な、何を、言って」
というかここはシリアスな場面であって、今から昔の回想で男子から容姿のことで散々言われ続けて傷ついてだから信じられないのよ!っていう真相が初めて明かされる流れになるんじゃないの?もう流れで言っちゃったけど!
「正直神崎さんを好きなことがマニアックだと言われる理由がわからないんだけれども、神崎さんのことが好きな奴はここにいるよ」
「は、」
「身体は柔らかくて最高の抱き心地だし」
「ひ」
「低くて小さな鼻は可愛いし」
「ふ」
「俺と趣味はばっちり合うし」
「へ」
「大好き」
佐々良氏の顔は、今までに見たことのないほどに甘いものだった。ただでさえ甘い顔立ちなのに、それ以上で。その衝撃的な攻撃に私のHPはゼロになった。
しかし佐々良氏は一度離した身体を再びひっつけた。加えてその甘ったるい顔も近付いてくる。やめて!HPはゼロよ!
すっかり力が抜けきった私の何色にも染まっていなかった唇は、あっさりと奪われたのでした。