待ち合わせ
「……これってまるでデートじゃない?」
そう呟いたのは、土曜の午前九時。某駅前であった。
金曜日の飲み会の後、帰宅した後に佐々良氏とメールのやり取りをした。その結果が土曜の午前九時に駅前で待ち合わせ、である。
長年恋い焦がれていたゲームをプレイ出来ることに浮かれきっていた私は、此処に来てようやっと我に返った。どんだけ。
妙齢の男女が仕事抜きに、休日に二人きりで会う。これ即ちデートではなかろうか。こういった方面にはとことん疎く、経験値が皆無であるために判断が出来ない。誰か玄人さん助けて!
「神崎さん、ごめんね。待った?」
ササラがあらわれた!
どうする?
>こうげき
>ぼうぎょ
>にげる
3で!
「神崎さん?」
ゴメンナサイ、嘘です。
「あ、いえ、今着いたばっかりなので大丈夫です」
ひーなんだこれ。どっかのマンガで見たことあるこの流れ!
「良かった、じゃあ行こうか」
…爽やかな笑顔いただきました。
ごめんなさい。デートとかふざけたこと言ってしまってごめんなさい。そうですね、鏡見てみろって話ですよね。全くその通りです。だからお嬢さん方、そんなに痛い視線を向けないでください!
刺さるような視線から逃れるように、小さくなりようがない身体を可能な限り小さくさせて歩いているこの状況。
原因は言わずもがなお隣を歩いている殿方である。
いやー確かに美形だとは思っていたけど、会社でもモテるのはわかっていたけど、ここまでとは思いもしませんでしたよ!道を歩けばすれ違う女性がほぼ佐々良氏に熱のこもった視線を向ける。すごいね。
そして、次に佐々良氏の隣を歩いている私に目を向ける。……おいおいお嬢さん、その眉間の皺はいただけないよ。気持ちはわかるけどね。
やっぱり美男の隣は美女がお似合いですよね。ごめんなさい、こんなおデブちゃんで。でもデートじゃないので安心してください。
「神崎さん」
頼むからそんな爽やかな笑顔を向けないでください。視線の殺気が20%増量しましたよ。
「どうぞ」
素敵男子佐々良氏はそう言いながら、車の助手席のドアを開けていた。え、車?
「…そういえば、どこでプレイするんですか?」
「着いてからのお楽しみってことで」
……何だろうこの有無を言わせぬ感じの笑顔は。私はその笑顔に押されるように、そして実際佐々良氏の手に背中を押されて、車の中に入れられたのであった。
頭の中で流れるBGMはドナドナでした。
どなどなどーな