逃げられない
短いです
「何か欲しいものある?」
「……のみものがほしいです」
わかった、と言って佐々良氏はベッドから出て行った。
精神的にも肉体的にも疲れきった私は、自力で起き上がる気力もなく、佐々良氏に頼りっきりだ。
まあ主たる要因だから当たり前のことでもある。
流石に、私は佐々良氏のことを信じることにした。
だって、嫌がらせで私と肉体関係を結ぶなんて相当の手練だ……手練ではないよな?
「持ってきたよ」
水を入れたコップを片手に爽やかな笑顔を見せる佐々良氏。
アレの時も佐々良氏はすごく優しかった。
経験のない私でもわかるぐらい、大切に扱ってくれた。
「身体起こすよ、きつかったら言ってね」
これで全てが偽りだったと言われたら、私は本格的な人間不信に陥ることだろう。
一度身体を重ねただけで、相手を信じて受け入れるのを軽薄なことを思う人もいるかも知れない。
しかし私は身をもって知ったのだ。
このへんた……佐々良氏が本気であり、そして逃げられないということを。
アノ時、僅かに額が汗ばんでいた佐々良氏は言った。
「俺、欲しいと思ったモノは絶対に手に入れる主義なんだよね。手に入れたモノは最後まで手放さないから、安心して?」
妖しい光を宿したその瞳を見て、既に何となく察してはいたけれど、はっきりと逃げることは出来ないのだなとわかった。
それだったら甘んじて受け入れるしかない。
と、言うかむしろこれは幸運なのでは?
だって、出世頭だし。見た目も申し分ないし。出世頭だし。
なんと現金な私。
コップを両手で持ち、水を流し込む。
渇いていた喉がすぐに潤って、気持が良い。
一気に飲み干してしまった。
もう一杯欲しいかも……ん?何かお腹のあたりがくすぐったい。
「……あの、身体を触らないでください」
「無理」
今の姿勢はと言うと、座る私の後ろに佐々良氏も座っていて私が佐々良氏に凭れかかっている状態である。
たしかに楽な姿勢ではあるけれど、相当なリスクを伴うということが判明した。
今度からは気をつけよう。
「ねえ、もう一回良い?」
「ごめんなさい、勘弁してください、許してください、頼みます」
訂正、非常に危険度が高い、でした。
これにて第1部終了です
第2部は全く手をつけられていない状況なので、いつになるかわからないですごめんなさいです
始めるころには(仮)がとれているといいなー