肉食動物
「はっ」
目を開けると、そこにはいつも通りの天井があった。時間を確認すると朝の9時を少し過ぎている。テーブルの上にはゲームのコントローラーが乱雑に置いてある。
昨日夜中までゲームをして、そのまま寝落ちしたパターンだ。いたっていつも通りの、休日の朝だ。
何だじゃああれは夢か。一晩中ずっと抱きしめられたまま離してくれなくて現実から逃れるように気を失ったような気がしたが。いやあー性質の悪い夢だった。ははははは
ガチャッ
「ただいまー」
は?
「あ、起きた?今からご飯作るからもうちょっと横になっていてもいいよ」
そんなことを言いながら何やら荷物を持って、中に入ってくる佐々良氏。なんかスーツカバーが見えるのだが。何故スーツを持っているんだ。
「ああスーツ?明日ここから出勤するから家から持って来たんだ」
笑顔でさらりとそう言った佐々良氏は荷物を置くと、キッチンへ向かった。
手際良くささっと作ってテーブルに二人分をセッティング。
「朝だしこんなもんで良いよね?美保菜ちゃんは、パンよりご飯派でしょ。炊きたてだから安心して」
何で、何で、何でっ!
「何で夢じゃないの!!!!」
私の思考回路は爆発した。
「訳が分からないんですっ。昨日から佐々良さんは私に対してよくわからない言動をとるし、キャパオーバーなんですよ!どう対処したらよいのかわからないんですよ!もうやだ!うわあー」
ぎゃーぎゃー喚いていたら何だか泣けてきた。
泣いたのはプレイ中のゲームのハードが唐突に故障し、セーブデータが一気に吹っ飛んだ時以来である。あれマジで泣けた。
本当はもっと文句を言ってやりたいのだが、嗚咽で言葉が出てこない。
いや、今はこの泣きじゃくることで磨きのかかった不細工顔を見せつけるときなのだ!
どうだ佐々良氏!この見るに堪えない醜い面!うわーん!
しかし残念なことに佐々良氏のほうが上手だった。
「やばい、萌えた」
………………………………………………………は?
涙が一気に引っ込んで、それまではぼやけていた佐々良氏を見ると、何故だか頬を染めていた。
そして、それはだんだんと近づいてきて、
「うっ」
タックルをするように抱きしめられて、そのまま後ろにあったベッドにダイブした。
ベッドの上で仰向けになっている私と、その上にのしかかっているという佐々良氏という図。嫌な予感しかしない。
嫌な予感は早速的中した。
佐々良氏はまず私の目元に残る涙を舌で掬うように舐めた。そして今度は頬に残る涙の筋を舌でたどった。それを左右で行った後、不敵に笑う。
「しょっぱい」
鳥肌が立った。
佐々良氏は私の顔にかかる髪の毛を払いながら言う。
「せっかく昨夜も美保菜ちゃんがあまりにも震えているから寸でのところで止めたのに。そんな可愛くされたら俺の堅固な理性ももたないよ」
「り、せぃ?」
「そう。だからごめんね、美保菜ちゃん。全部、俺のモノにするから」
その笑みは艶やか過ぎて、私には刺激が強すぎた。
何も言えなくなった私はその後されるがまま。
私の口の中で蠢く佐々良氏の舌の感触を皮切りに、私には初めてづくしのことが待ち受けていたのだった。
要するに食われた。
間が空いて申し訳ありませんでした。