励ましの一声
かんかん、と、二人分の足音が重なって響いている。
場所は私の住むアパートの1階から2階へ続く階段である。
二人分。そう、私と佐々良氏の二人だ。
スーパーからどうにか一人で帰ろうとしたが、私より佐々良氏のほうが一枚上手で、逃走を阻まれてしまった。
気がつけばすでに自宅。残るチャンスはあと一回。
最後に頭の中でシュミレーション。
鍵を開ける。素早く入る。素早く鍵を閉める。
なんて単純!
我が家の扉の前に着き、一つ深呼吸をする。
いざ、決戦の時!
がちゃ、
「あ、美保菜ちゃん、あれは!」
「え!」
突然佐々良氏が叫び、何事かと振り返る。佐々良氏が示す方向を見ると……アパートの向かい側にある大家さんの家で飼われている豆太が、すごい勢いで水を飲んでいる姿があった。
確かにあのドーベルマンは恐ろしくて、水を飲む姿も鬼気迫るものを感じてより恐ろしいけれども……。
「あのドーベルマンは大家さんちの飼い犬で…」
隣にいた佐々良氏を見上げるつもりで振り返ると、さっきまでそこにいたはずの佐々良氏はそこにはいなかった。
「おじゃましてまーす」
半開きの扉から聞こえてくる佐々良氏の声。
扉が完全に閉まった時、タイミング良く豆太の鳴き声が聞こえた。
「ゥワンッ!(どんまい!)」