6:夜風に掠められて
俺は泣きつかれた親友の腕を引き寄せる
窓越しの月はいつの間にか雲に隠れていた
静寂と沈黙と暗闇
手探りで無慈悲な教室の中から扉をさがす
…そして、ただ夜風だけを求めて。屋上へ向かう。
「俺たちが屋上で飛ばした紙飛行機は今頃…、どこにあると思う…?」
「海を越え続け、空高く舞い続け、今も飛び続けている…。
…そう私は願いたい。」
「でも、世界は、…違う。
海の底に沈んで、翼は…消えている。」
「…高校生の私たちの希望は…消えている。
そう…言いたいのね。」
「希望なんか俺たちには最初からなかった。
あったのは、ただ残酷な…世界だけだ。」
「…………………、…。」
「高校生の俺たちの幸せはもう消えた。
見えているこの水平線は、俺たちの存在を拒んだ…。」
「…、…。」
「でも、俺たちはこうして、…屋上にいる。
希望のない世界に、拒まれた存在の俺たちが…だ。」
「…………………。」
「なんでだろうな?
なんで俺たちはここにいるんだ?
長原はどう思う…?」
「…わからない。」
「…、………?」
「…君主が、何を言いたいのか分からない!!!
私は理解できない…。
…自分はもう、何も聞きたくない………。」
「…長原。
ここでアイツと約束した日のことを覚えているか…?」
「あの子の誕生日…。
ちょうどクリスマス・イブの日…。」
「…そう。
俺たちはアイツの誕生日を祝うために屋上に集まっていた。」
「…そして、『赤い雪』が降ってしまった。
誰もあんな日が訪れるなんて思わなかった…。」
「消えたアイツの記憶だけが屋上に…残った。」
「あの子は、私たちとの約束だけを残して…消えてしまった。」
「屋上に来るとアイツに…会える。
でも、それは幻想…だ。」
「…あの子の存在は…無い。
そう…、言いたいの…?」
「…いいや、逆だ。」
「………、…?」
「俺はやっと気づけた…。
本当のアイツと会える…方法を。」
「…、本当のあの子………。」
再び姿を現した月は夜風に問いかける
冷たいその息吹を羨んで
夜風は世界に佇む彼等の頬を優しく掠めて答えた
月の微笑みが世界を照らしたからだと
屋上の彼等は静かに満ちた月を見つめる…。